取締役会長に対する役員報酬、役員退職給与
※2015年2月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
こんにちは。税理士の見田村元宣です。
このブログは過去の裁決、判決を中心に是認、否認のポイントを
解説していきますので、日々の税務判断のご参考にして頂ければと思います。
さて、今回は「取締役会長に対する役員報酬、役員退職給与」ですが、
平成14年6月13日の裁決を取り上げます。
役員が常勤なのか?非常勤なのか?には明確な基準がありませんが、
この違いにより適正な役員報酬、役員退職給与が変わってくるとも事実です。
本件はこの点が争いになり、納税者の主張が認められた事例です。
まずは、前提条件です。
○請求人は建築工事業を営む同族会社
○H(今回の争点の対象者である取締役会長)は、請求人の設立と同時に
代表取締役社長に就任
○平成2年9月17日:代表取締役会長
○平成5年7月20日:取締役相談役
○平成7年9月14日~平成12年4月21日(死亡):取締役会長
○平成5年6月28日~平成12年4月21日までの間、入退院の繰り返し
http://www.kfs.go.jp/service/JP/63/21/03.html
○内訳書の常勤・非常勤の表示欄において「非常勤」と表示されていた
○役員報酬の額は下記
・平成10年7月期:12,000,000円(税務署認定の適正額:6,000,000円)
・平成11年7月期:12,000,000円(税務署認定の適正額:6,000,000円)
・平成12年7月期:9,000,000円(税務署認定の適正額:4,500,000)
なお、原処分庁は下記と主張していました。
Hは、代表取締役辞任後は病気がちであり、特に、平成9年4月以降は長期入院
が継続して通常の勤務ができなかったと認められること及び請求人は平成12年
7月期の確定申告書に添付している「役員報酬手当等及び人件費の内訳書」の
常勤・非常勤の別の表示欄においてHは非常勤である旨の表示を行っている
ことからHは非常勤取締役と認められる。
なお、常勤、非常勤の区別は、毎日一定の時間勤務するかどうか、又は、
本務として専任しているかどうかといった勤務形態に着目した分類であり、
役員の社内における地位等を勘案して判断するものではない。
また、取締役の会社への貢献度は、その持株割合によって左右されるもの
ではない。
しかし、国税不服審判所はHを常勤役員と認め、役員報酬を適正と判断し、
当該役員報酬を基礎に計算された役員退職給与も適正と認めたのでした。
以下、認定事実及び国税不服審判所の判断です。
○Hは、請求人が開催した、平成5年9月15日、平成6年9月17日、平成7年9月14日、
平成8年9月18日、平成9年9月17日及び平成10年9月24日の定時株主総会の
各議事録並びに平成5年7月27日及び平成10年11月18日の臨時株主総会の
各議事録並びに平成5年7月8日、平成5年7月27日、平成5年8月28日、平成5年
9月15日、平成6年7月15日、平成6年9月17日、平成7年8月31日、平成7年9月14日、
平成8年9月2日、平成8年9月18日、平成9年8月30日、平成9年9月18日、平成10年
9月1日、平成10年9月24日、平成10年11月3日及び平成11年9月2日の取締役会の
各議事録にそれぞれ出席取締役として押印している。
○Hは、平成7年11月15日付の株式会社R銀行との「金銭消費貸借契約証書」
並びに平成8年1月31日付及び平成8年11月25日付のS信用金庫との「限定保証
約定書」にそれぞれ署名押印している。
○Hは、平成10年12月26日に行われた請求人の忘年会に出席し、挨拶をしている。
○Hは、平成11年8月10日に業務用の名刺100枚を発注している。
○請求人は、Q病院でHの付添婦をしていたV、請求人の営業部長であるW及び
Q病院の院長でありHの主治医であったYの申述書を当審判所に提出しており、
それぞれの申述書には、要旨、次のとおり記載されている。
・Vの申述書
私は、平成10年8月、平成10年10月及び平成11年10月から平成12年4月まで
Hの付添婦をしていた。私の仕事は、来客への接待、食料品等の買い物や身の
回りのお世話であり、平成12年ごろからは、これらのほかリハビリのお世話や
食事の介助等も行った。Hは、平成10年ごろはよく外出していた。同人が外出
している以外の日は、毎日のようにM社長、○○部長、Z部長、○○専務、
○○課長らが病室に面会に来ていた。Hは、M社長らと経営状態、人事の問題、
社会情勢等について話をしていた。会社のことで、報告、相談を受け、それに
対して指示を出していた。内容によっては、私は退室していたのですべての
ことまでは分からない。また、Hの様子は、治療以外の時は、普通の様子で
穏やかなものであった。
・Wの申述書
Hは、平成7年9月から平成11年12月ごろまでよく会社に来ていた。特に、
平成7年から平成9年ごろにかけては、頻繁に会社に来ていた。同人が会社に
来たときは営業上の報告をし、指示を受けていた。また、病室を訪ねて報告
をしたこともある。私以外にもZ部長がしばしば病室を訪ねており、その他の
課長等も数度は訪ねていると思う。
・Yの申述書
入院中のHの意識レベル及び判断能力については、手術前後、一過性の意識障害
を認めたが、退院時にはほぼ回復していた。その後、病いの進展による呼吸
不全を来す平成12年4月までの間は、特に変化は認めていない。また、身体能力
については、病いによる右麻痺は軽度で退院後歩行に支障はなかったが、
平成12年病いの進行時から疼痛、神経圧迫等による歩行困難が進行した。
なお、平成7年9月からの入院は点滴及び検査のみの目的であったため、
点滴以外の時間の運動制限は不要であった。もちろん、病いの進行時点では
運動制限を余儀なくした。Hの外出については、おおむね本人の意思に任せて
いた。病室は個室であり、Hの話では、各社の役員が連日仕事の報告、相談に
訪れているとのことであった。
○各申述書についてその適否を検討したところ、当該各申述書に記載されて
いる内容は、当審判所が調査したHの入院状況及び治療状況に照らし信ぴょう性
が認められ、また、当該各申述書を不合理ならしめる証拠もない。
○Hは、平成5年6月28日にQ病院に入院して以来、平成12年4月21日に死亡する
までの間、入退院を繰り返しているが、Hに対する報酬が増額された平成9年
8月1日以後は、入院時においても、毎日ではないものの請求人の所在地に
出向いており、その際、請求人の職務に従事しているほか、請求人の業務に
関連して病院から外出しており、外出していない時も病室で請求人の役員等
から報告を受け指示をしていた事実が認められ、また、入院の状況が免疫療法
及び物理療法であったことを考え合わせると、Hは、かなりの頻度で請求人の
職務に従事していたと認めるのが相当である。
○Hが正規の手続により非常勤の取締役となった事実も認められない。
○Hは請求人の常勤の取締役と認められ、この点に関する原処分庁の主張には
理由がない。
○原処分庁は、請求人がその確定申告書の添付書類においてHは非常勤である
との表示を行っている旨主張する。しかしながら、役員が非常勤役員となるか
常勤役員となるかの判断をするに当たっては、当該役員の勤務状況の実態に
基づいて判断すべきであり、確定申告書の添附書類の表示だけを基に当該役員
が非常勤役員であるとするのは相当でない。
○Hの職務の内容は、請求人の営業、人事、資金調達等、請求人の業務全般に
及んでおり、実質的には同人が病気治療を始める以前とほぼ同様で、請求人の
経営に直接関与していたと認められ、かつ、その影響力は代表取締役に匹敵
するほどであったと推認される。
○本件各報酬額は、Hの職務の状況、請求人の収益、請求人の各役員に対する
報酬の支給状況及び請求人の使用人に対する給与の支給状況並びに改定類似法人
の役員に対する報酬の支給状況等に照らし判断すると、不相当に高額な部分の
金額は認められない。したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由が
ない。
いかがでしょうか?
本件においては、医師の申述書により職務の実態が明らかにされたことが
大きいと考えますが、「入退院を繰り返しているから常勤とならない」との
判断はかなり強引ではないかと考えます。
職務を行なう場所を問わず、常勤は常勤であり、これに基づいた役員報酬が
支給されても不当な話ではありません。
税務調査において、常勤か非常勤かが問題になった場合は、あくまでも
「職務の実態」が判断基準となるのです。
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