外注費か?給与か?
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「外注費か?給与か?」です。
顧問先が支払う経費が外注費か?給与か?という点が税務調査で問題になる
ことがあります。
この場合、顧問先は社会保険料の会社負担、消費税の納税を考えており、
外注費が給与と否認されると資金繰りを圧迫する場合もあります。
しかし、外注費か?給与か?の100%の明確な基準はなく、昔から争点に
なりやすい項目であることは間違いありません。
そこで、これが問題になった東京地裁(平成25年4月26日)を例に挙げ、
外注費か?給与か?という論点を整理してみたいと思います。
なお、この裁判は納税者敗訴となり、控訴されています。
具体的な判決の内容の前に、まずは該当通達をみてみましょう。
消費税法基本通達1-1-1(個人事業者と給与所得者の区分)
事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいうから、個人が
雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者
の計算により行われる事業に役務を提供する場合は、事業に該当しないので
あるから留意する。したがって、出来高払の給与を対価とする役務の提供は
事業に該当せず、また、請負による報酬を対価とする役務の提供は事業に
該当するが、支払を受けた役務の提供の対価が出来高払の給与であるか
請負による報酬であるかの区分については、雇用契約又はこれに準ずる契約
に基づく対価であるかどうかによるのであるから留意する。この場合に
おいて、その区分が明らかでないときは、例えば、次の事項を総合勘案して
判定するものとする。
(1)その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
(2)役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
(3)まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等に
おいても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなす
ことができるかどうか。
(4)役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。
では、具体的な裁判の内容ですが、この裁判は
○教育機関等の講座等の請負業務、受験生に対する訪問指導等を行う納税者
○これらの業務に係る講師又は家庭教師として業務を行う者と業務委託契約
を締結して報酬を支払い、外注費で処理
という前提です。
この状況の中、東京地裁は最高裁判決(昭和56年4月24日)を引用し、
下記と判示しました。
○最高裁昭和56年判決は、業務の遂行ないし労務の提供(これらを併せて
以下「労務の提供等」ともいう。)から生ずる所得が所得税法上の事業所得
と給与所得のいずれに該当するかを判断するに当たっては、租税負担の公平
を図るため、所得を事業所得、給与所得等に分類し、その種類に応じた課税
を定めている所得税法の趣旨、目的に照らし、当該業務ないし労務及び所得
の態様等を考察しなければならないなどとした上で、その「判断の一応の基
準」として、「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、
営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが
客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは
雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した
労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、
とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を
受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として
支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」と判示して
いる。
○ 同判決は、労務の提供等から生ずる所得の給与所得該当性について、
①そのような所得のうち「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、
有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認め
られる業務から生ずる所得」を給与所得の範ちゅうから外した上で(これに
より、労務の提供等が自己の計算と危険によらないものであること〔労務の
提供等の非独立性〕が、給与所得該当性の判断要素として位置付けられること
になる。)、②労務の提供等から生ずる所得が「雇傭契約又はこれに類する
原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から
受ける給付」に当てはまるか否かを、当該労務の提供等の具体的態様に応じ、
とりわけ「給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を
受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として
支給されるものであるかどうか」を重視して判断するという枠組みを提示した
ものであるが、同判決も明示しているとおり、そこに示されているのは、
飽くまでも「判断の一応の基準」にとどまるものであって、業務の遂行ないし
労務の提供から生ずる所得が給与所得に該当するための必要要件を示したもの
ではない。
※ 見田村注:昭和56年判決はあくまでも「一応の基準」とされている点に
ご注意ください。
○本件各金員は、講義等ないし個人指導の業務に従事した時間数に応じて
支払われるものとされているところ、原告と本件講師等との間の契約に係る
契約書等を見ても、本件講師等が個別の各顧客の下において上記の業務に
従事している期間中において、講義等ないし個別指導の内容の優劣、具体的な
成果の程度、あるいは、原告が本件各顧客との間の契約に基づいて受領する
金員の額やその支払の有無により、本件各金員の額やその算定の基礎となる
講義等の単価の額が増減するような定めは置かれていない。
○すなわち、本件講師等は、上記の状況のいかんにかかわらず、原告から、
講義等ないし個人指導の業務に従事した時間数に応じて本件各金員の支払いを
受けることができるものとされている。
○本件塾講師は、教育機関等から業務の遂行及び原告に対する報告をするに
当たり通常必要と認められる物を貸与されるとともに、原告から交通費の支払
を受けるものとされており、本件家庭教師については、会員がその交通費を
負担することとされ、業務遂行に必要なテキストの引渡しも受けることとされ
ている。
○ 原告と本件講師等との間の契約を見ても、講師等において、本件各金員の
振込手数料及び事務手数料ないし講師証の代金を負担すべきものとされている
ものの、当該契約に基づく義務を履行するための費用の負担を義務付ける趣旨
の定めは見当たらない。
○これらの点からすれば、本件講師等は、基本的には、その労務の提供に
当たって必要な費用を負担する義務を負っていないものというべきである。
○本件講師等による労務の提供等は、自己の計算と危険によるものとは
いい難いものであって、非独立的なものと評価するのが相当である。
○原告と本件各顧客との間の契約及び原告と本件講師等の間の契約の各内容に
照らせば、少なくとも、本件教育機関等における講義や本件会員の子弟と対面
して行う個人指導の際には、基本的には、原告が本件各顧客との間の契約に
おいて定めた業務場所や業務時間数に従ってその労務を提供等をすべき義務を
負うものというべきであり、また、本件講師等は、上記のような立場にある
原告の指定する方法により、原告に対して業務遂行の状況を報告すべき義務
を負っているものであって、原告から空間的、時間的な拘束を受けているもの
ということができる。
○本件各金員は、雇用契約に類する原因に基づき提供された非独立的な労務の
対価として給付されたものとして、それに係る所得は、所得税法28条1項
所定の給与所得に当たるというべきである。
なお、東京国税局の内部資料である法人課税課速報(源泉所得税関係)の
「給与所得と事業所得との区分 給与?それとも外注費?」(平成15年7月)
には下記表が掲載されています(TAINSにも掲載)。
なお、TAINSには表だけでなく、全文が掲載されていますので、これも
お読みになることをお薦めします。
給与所得及び事業所得の判定検討表
----------------------------------------
| | 判 定 項 目 |給 与|事 業| 判定理由 |根拠資料|
|-+----------------+---+---+------+----|
| |当該契約の内容が他人の代替を容れ| | | | |
| |るか |NO |YES| | |
| |----------------+---+---+------+----|
| |仕事の遂行に当たり個々の作業につ| | | | |
|実|いて指揮監督を受けるか |YES|NO | | |
|務|----------------+---+---+------+----|
|上|まだ引渡しを終わっていない完成品| | | | |
|の|が不可抗力のため滅失した場合等に| | | | |
|判|おいて、その者が権利として報酬の|YES|NO | | |
|定|請求をなすことができるか | | | | |
| |----------------+---+---+------+----|
| |材料が提供されているか |YES|NO | | |
| |----------------+---+---+------+----|
| |作業用具が供与されているか |YES|NO | | |
|-+----------------+---+---+------+----|
| |雇用契約又はこれに準ずる契約等に| | | | |
| |基づいているか |YES|NO | | |
| |----------------+---+---+------+----|
| |使用者の指揮命令に服して提供した| | | | |
| |役務か |YES|NO | | |
| |----------------+---+---+------+----|
| |使用者との関係において何らかの空| | | | |
|判|間的、時間的な拘束を受けているか|YES|NO | | |
|例|----------------+---+---+------+----|
|に|継続的ないし断続的に労務の又は役| | | | |
|よ|務の提供があるか |YES|NO | | |
|る|----------------+---+---+------+----|
|判|自己の計算と危険において、独立し| | | | |
|定|て営まれているか |NO |YES| | |
| |----------------+---+---+------+----|
| |営利性、有償性を有しているか |NO |YES| | |
| |----------------+---+---+------+----|
| |反復継続して遂行する意思があるか|NO |YES| | |
| |----------------+---+---+------+----|
| |社会的地位が客観的に認められる業| | | | |
| |務か |NO |YES| | |
|-+----------------+---+---+------+----|
| | | | | | |
| |----------------+---+---+------+----|
| | | | | | |
| |----------------+---+---+------+----|
| | | | | | |
| |----------------+---+---+------+----|
|そ| | | | | |
|の|----------------+---+---+------+----|
|他| | | | | |
| |----------------+---+---+------+----|
| | | | | | |
| |----------------+---+---+------+----|
| | | | | | |
| |----------------+---+---+------+----|
| | | | | | |
|------------------+-------+-----------|
| 判 定(総合勘案) | | |
----------------------------------------
※「その他」欄は事案に応じて次ページの項目を参考にして記入する。
〇の多少で判定せず、総合的に判定する。
その他の判定事項の例
----------------------------------------
| 要 件 |給 与|その他|
|------------------------------+---+---|
|労働基準法の適用を受けるか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|支払者が作成している組織図・配席図に記載があるか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|役職(部長、課長等)があるか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|服務規程に従うこととされているか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|有給休暇制度はあるか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|他の従集員と同様の福利厚生を受けることができるか(社宅の貸与| | |
|、結婚祝金、レクリェーション、健康診断等) |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|通勤手当の支給を受けているか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|他の従業員と同様の手当を受けることが可能か(住居手当、家族手| | |
|当等) |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|時間外(残業)手当、賞与の制度はあるか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|退職金の支給の対象とされているか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|労働組合に加入できる者であるか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|支払者からユニフォーム、制服等が支給(貸与)されているか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|名刺、名札、名簿等において支払者に帰属しているようになってい| | |
|るか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|支払を受ける者の提供する労務が許認可を要する業務の場合、本人| | |
|は資格を有しているか(例 運送業) |NO |YES|
|------------------------------+---+---|
|その業務に係る材料等の在庫を自己で保管しているか |NO |YES|
|------------------------------+---+---|
|報酬について値引き、値上げ等の判断を行うことができるか |NO |YES|
|------------------------------+---+---|
|その対価の支払者以外の顧客を有しているか |NO |YES|
|------------------------------+---+---|
|以前にも他の支払者のもとで同様な業務を行っていたか |NO |YES|
|------------------------------+---+---|
|店舗を有し一般客の求めに応じているものであるか |NO |YES|
|------------------------------+---+---|
|その対価の支払者以外の者からの受注を受けることが禁止されてい| | |
|るか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|同業者団体の加入者であるか |NO |YES|
|------------------------------+---+---|
|使用人を有している者であるか |NO |YES|
|------------------------------+---+---|
|支払を受ける者がその業務について自己の負担で損害保険等に加入| | |
|しているか |NO |YES|
|------------------------------+---+---|
|業務に当たって、支払者側のマニュアルに従うこととされているか|YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|支払者の作ったスケジュールに従うこととされているか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|業務の遂行の手順、方法などの判断は本人が行うか |NO |YES|
|------------------------------+---+---|
|本来の請負業務のほか、支払者の依頼・命令により、他の業務を行| | |
|うことがあるか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|勤務時間の指定はあるか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|勤務場所の指定はあるか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|旅費、交通費を会社が負担しているか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|報酬の最低保障があるか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|遅刻、無断欠勤の場合、それに見合う報酬が支払われないほか罰金| | |
|(報酬の減額)があるか |NO |YES|
|------------------------------+---+---|
|その対価に係る請求書等の作成がされているか |NO |YES|
|------------------------------+---+---|
|その対価が材料代等の実費とそれ以外に区分して請求されるか |YES|NO |
|------------------------------+---+---|
|その対価が経費分も含めて一括で請求されているか |NO |YES|
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※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。
※2014年2月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。