多額の生命保険料による節税の是非
※2015年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「多額の生命保険料による節税の是非」ですが、
平成14年6月10日の裁決を取り上げます。
さて、「多額の生命保険料を支払って節税すると税務調査で否認される」
という主張をする税理士もいますが、今日はこの点を取り上げたいと思います。
まず、事案の概要ですが、問題になった生命保険の種類はがん保険、
逓増定期保険です(当時の税制による)。
そして、金額的には下記の状況でした。
○ 平成9年12月期
・損金となった保険料が:約1億6,000万円
・課税所得:約1億3,700万円
○平成10年12月期
・損金となった保険料:約2億6,200万円
・課税所得が:約1億3,600万円
さらに、被保険者である従業員が退職した翌事業年度に解約をしたという
状況も併せてありました。
これらの状況の中、原処分庁は損金算入に関する通達があるにも関わらず、
「同族会社等の行為又は計算の否認」により、これらの保険料の損金算入を
否認したのでした。
しかし、国税不服審判所は請求人の主張を全面的に認め、「全部取消し」
という判断をしました。
以下、基礎事実の一部、判断の主要部分のみをピックアップします。
○請求人は、本件各生命保険契約に関し、請求人の福利厚生制度規定に記載
して周知しているほか、本件がん保険契約については、がん保険加入規定
及び「正社員としての心得」に記載して周知し、本件逓増定期保険契約に
ついては、各自の署名、なつ印を徴することにより周知している。
○原処分庁は、請求人が本件各生命保険契約を締結し、本件保険料を支払い、
本件各生命保険通達を適用して当該事業年度の損金の額に算入したことは、
本件各生命保険通達の存在を奇貨として、不当に税負担を軽減するもの
であり、適正・公平な課税を困難ならしめることから租税回避行為に該当
すると主張するが、次の理由から、当該行為は租税回避行為とはいえない。
・本件保険料に係る経理処理は、本件通達等の取扱いによったものであり、
その結果として各事業年度の納付すべき法人税額が、本件各生命保険契約
を締結しなかった場合と比較して減少することとなるとしても、これを
もって不当な税負担の軽減に当たるということはできない。
・原処分庁は、本件各生命保険契約を締結するに当たり、保険代理店の作成
した「決算対策シミュレーション」の記載内容及び本件確認書が存在する
ことから、本件各生命保険契約は税負担の軽減を目的に締結されたものと
主張するが、請求人が、本件各生命保険契約を締結するに当たり実質的な
税負担や解約払戻金を検討することは、経営者としての経営判断の一つ
であると認められるから、原処分庁の主張は採用できない。
○原処分庁は、本件各生命保険契約は、被保険者への周知が行われていない
ことや平成10年12月期において本件がん保険契約に基づく被保険者の
一部の者が退職しているにもかかわらず当該事業年度中に解約手続が取ら
れていないことを理由として、従業員等の福利厚生目的で締結されたもの
ではないと主張するが、上記イの認定事実のとおり従業員等に周知され、
また、翌事業年度においてその手続を取る方が解約メリットが多いこと
から途中での解約をしなかったものと推認されるところ、これをもって
従業員等の福利厚生目的ではないということはできない。
○本件各生命保険契約の締結は、本件各生命保険会社との間で有効に成立
した第三者取引であることから同族会社等特有の取引ではなく、請求人の
法人税の負担を不当に減少せしめるものとも認められず、これらは法人税法
第132条第1項の同族会社等の行為又は計算には該当しないとするのが
相当である。
○請求人が本件通達等の取扱いにより、本件保険料の全額を損金として会計
処理したことは、法人税法第22条第4項に定める「一般に公正妥当と
認められる会計処理の基準に従っている」というべきであり、原処分庁が
本件保険料を支払った事業年度でその全額を損金の額に算入することが
できないとして行った各事業年度の法人税の各更正処分は、いずれもその
全部を取り消すのが相当である。
いかがでしょうか?
税理士は生命保険会社などから依頼を受け、セミナー講師をすることも
あるでしょうから、是非、この事例をご紹介頂ければと思います。
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