居所の定義と納税義務
さて、今回は「居所の定義と納税義務」ですが、
国税不服審判所の裁決(平成15年4月24日)を取り上げます。
なお、請求人の主張が全面的に認められた事案です。
まずは、事案の概要をお話しします。
○ 請求人は香港国籍で、住所も香港、家族も香港で生活している
○ 請求人は香港で衣類雑貨類の卸売業を個人で営業している
○ 平成3年から平成12年までにおける日本国内への入国回数、
滞在日数等は、下記のとおり
-------------------------------------
|年分\項目|入国回数|滞在延べ日数|月平均入国回数|1回当たり滞在日数|
|-----+----+------+-------+---------|
|平成 3年| 14回| 101日| 1.17回| 7.21日|
|平成 4年| 15 | 102 | 1.25 | 6.80 |
|平成 5年| 14 | 120 | 1.17 | 8.57 |
|平成 6年| 20 | 149 | 1.67 | 7.45 |
|平成 7年| 14 | 76 | 1.17 | 5.43 |
|平成 8年| 12 | 75 | 1.00 | 6.25 |
|平成 9年| 12 | 74 | 1.00 | 6.17 |
|平成10年| 10 | 59 | 0.83 | 5.90 |
|平成11年| 21 | 89 | 1.75 | 4.24 |
|平成12年| 14 | 83 | 1.17 | 5.93 |
-------------------------------------
○ 商品の買付けのために来日し、日本国内での活動は商品の仕入のみ
○ 日本国内において何らの職業も有していない
○ 日本国内にあるマンションは仕入商品の受取場所、保管場所、
郵便物の受取場所、事務所として使用
○ 平成8、10、12年に関し、居住者として国外所得も含んだ上で、
所得税の納税義務があるとして、決定がされた
審判所の判断に行く前に関連する法令を記載しますが、
今回は長くなってしまうので、全文ではなく、裁決文からの抜粋とします。
○ 所得税法第2条第1項第3号は、居住者とは、国内に住所を有し、
又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう旨規定
している。
○ 所得税法第2条第1項第4号は、非永住者とは、居住者のうち、
国内に永住する意思がなく、かつ、現在まで引き続いて5年以下の
期間国内に住所又は居所を有する個人をいう旨規定している。
○ 所得税法第2条第1項第5号は、非居住者とは、居住者以外の
個人をいう旨規定している。
○ 所得税法第5条(納税義務者)第1項は、居住者は、この法律により、
所得税を納める義務がある旨規定している。
○ 所得税法第5条第2項は、非居住者は、同法第161条(国内源泉所得)
に規定する国内源泉所得を有するときは、この法律により、
所得税を納める義務がある旨規定している。
○ 所得税法第7条(課税所得の範囲)第1項第1号は、非永住者以外の
居住者については、すべての所得に所得税が課される旨規定している。
○ 国税通則法第10条(期間の計算及び期限の特例)第1項は、
国税に関する法律において日、月又は年をもって定める期間の計算に
ついて、期間の初日は算入しない旨、期間を定めるのに月又は年を
もってしたときは暦に従う旨規定している。
ちなみに、居所とは民法に定めがあり、下記となっています。
(居所)
第23条 住所が知れない場合には、居所を住所とみなす。
2 日本に住所を有しない者は、その者が日本人又は外国人のいずれであるか
を問わず、日本における居所をその者の住所とみなす。ただし、準拠法を
定める法律に従いその者の住所地法によるべき場合は、この限りでない。
この前提の中、国税不服審判所は下記の判断を下しました。
○ 所得税法における居所の意義は民法上における居所の意義と同様に、
人が多少の期間継続して居住しているものの、その者の生活の本拠
であるというまでには至らない場所をいう。
○ 所得税法第2条第1項第3号は居住者に該当する場合の多少の期間を
「引き続いて1年以上」と定めているものなので、引き続いて1年以上
居所を有するというためには、居所における居住期間が引き続いて
1年以上であることが必要
○ 日本に入国した者が国内に「引き続いて1年以上」居所を有するか
どうかの判定は国税通則法第10条第1項の規定から、原則として、
入国の日の翌日から出国の日までの居住期間が「引き続いて1年以上」
であるかどうかにより判定
○ 国外にいた期間(在外期間)中でも、国内に配偶者その他生計を一に
する親族を残し、再入国後、起居する予定の家屋、ホテルの一室等を
保有し、または、生活用動産を預託している事実があるなど、
明らかにその国外に赴いた目的が一時的なものであるときは、
在外期間中も国内における居住期間が継続しているものとして判定
○ 国外に赴いた目的が一時的なものでない場合の在外期間については、
国内における居住期間が継続していないものとして判定
○ 請求人は日本に入国しても、入国1回当たり数日間だけ滞在し、
香港へ出国していること、生計を一にする配偶者その他の親族が
香港に居住していること、請求人自身が香港で事業を営んでいる
ことから、請求人の香港への出国は請求人の生活の本拠地への帰国
であって、一時的な出国とは認められない
○ 日本出国後、再入国するまでの期間については、
国内における居住期間が継続していないものと解すべきなので、
請求人は国内に引き続いて1年以上居所を有しているとは言えない
○ 原処分庁は、居所とは居住する場所である家屋等を指し、
人がその場所に1年以上継続して居る必要性はないと解釈した上で、
請求人は5年以上日本国内に居所を有している旨を主張するが、
引き続いて1年以上居所を有するというためには、居所における
居住期間が引き続いて1年以上であることを要する。
○ 請求人は居住者ではなく(=非居住者であり)、
国内源泉所得はないので、所得税の納税義務はない
いかがでしょうか?
「居所」という言葉はよく耳にする言葉ですが、きちんと調べたことがない
という方も多いのではないでしょうか?
また、非居住者になる方も増えている時代ですが、
その取扱いを巡っては争いが起こる可能性もあります。
そういう意味ではこの裁決から「居所」の定義、審判所が示した根拠を
きちんと理解しておくことが必要です。
是非、ご確認いただければと思います。
※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。
2013年3月の当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。