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2016.07.25

建物取壊費用は必要経費か?

※2015年6月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

日本中央税理士法人の見田村元宣です。

さて、今回は「建物取壊費用は必要経費か?」ですが、

平成26年12月9日の裁決を取り上げます。

まずは、この事案の前提条件です。

○ 請求人の事業は不動産賃貸業

○ 問題になった不動産の概要

・ 土地:宅地 281.46平米

・ 建物:店舗、木造瓦葺2階建、1階178.51平米、2階 79.33平米

○ 賃料は月額3万円(賃借人は八百屋等を営んでいた)

○ 平成23年1月、本件賃貸借契約は解除

○ 平成23年3月頃、本件建物を取り壊し、取壊し費用を必要経費に算入

○ 争点は「本件取壊し費用は平成23年分の不動産所得の金額の計算上、

  必要経費に算入することができるか否か」です

この前提の下、国税不服審判所は下記と判断しました。

○ 認定事実

・ 請求人は、本件建物の取壊し後の平成23年頃、■■■に対して、

  本件土地の新たな賃借人の選定及び管理を依頼し、■■■はこれを了承

  したが、請求人から、賃借人の選定条件や管理方法等についての具体的な

  指示はなく、■■■が、請求人に対して本件土地の利用計画等を提案

  したり、賃借人の募集に関して具体的な行動を起こしたりしたことは

  なかった。

・ 本件調査担当職員は、平成25年4月9日、本件土地に出向いてその状況

  を確認したところ、本件土地にはロープで囲いがされて雑草が生えており、

  本件土地を賃貸していることや賃借人を募集していることを示す表示等は

  なかった。
 
・ 請求人は、平成25年5月ないし6月頃、本件土地に駐車場の賃借人を

  募集する旨の看板を設置した。
      
・ 請求人は、平成25年10月24日、■■■■■■■■■■■に対して、

  期間を同年11月1日から平成27年10月31日まで、賃料を月額

  3,000円として、本件土地を駐車場として賃貸した。

○ 法令解釈
      
所得税法第37条第1項は、その年分の不動産所得等の金額の計算上必要経費に

算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額

に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及び

その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務に

ついて生じた費用の額とする旨規定しているところ、同項に規定する「その年

における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について

生じた費用」とは、当該支出が不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、

当該業務の遂行上必要なものに限られると解するのが相当である。そして、

その判断は、単に当該業務を行う者の主観的判断によるのではなく、当該業務

の内容等個別具体的な諸事情に即して社会通念に従って客観的に行われるべき

である。

○ 当てはめ

本件建物は、本件賃貸借契約が終了する平成23年1月まで賃貸用建物として

事業の用に供されていたものであり、請求人は、■■■■が本件賃貸借契約の

解除を申し出た際に、本件建物を取り壊すことを計画し、本件賃貸借契約

終了後速やかに本件建物の取壊しを実行したことが認められ、他方、本件

賃貸借契約終了後に本件建物が家事用に転用された事実や、本件建物の

取壊し後に本件土地を譲渡する計画があったなどの事実は認められない。
      

そして、建物賃貸業においては、建物の取得、賃借人の募集、賃借人への

貸付け及び建物の取壊し・廃棄までが事業の一連の通常の流れであって、

建物の取壊し費用は、建物賃貸業を行う上で通常発生する費用であると

いえることに加え、賃貸借契約期間中に事業用資産である建物の取壊し・廃棄

を行うことは不可能であることからすると、当該建物が家事用に転用された

などの事情がない限り、賃貸借契約終了後の建物の取壊し・廃棄は、いわば

建物に係る貸付業務の残務処理的な行為であるというべきである。そうすると、

本件賃貸借契約終了後速やかに行われた本件建物の取壊しは、本件建物に係る

貸付業務の残務処理的な行為であるというべきであって、本件取壊し費用は、

本件建物に係る貸付業務と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上必要なもの

であるということができる。
      

したがって、本件取壊し費用は、請求人の不動産所得の金額の計算上

必要経費に算入することができる。
    

○ 原処分庁の主張の当否
      
原処分庁は、本件判決(見田村注:東京高裁、平成5年12月13日※)を

引用した上、本件土地は、近い将来において確実に貸付けの用に供されるもの

と考えられるような客観的な状態にあったとは認められないとして、本件

取壊し費用は、平成23年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入する

ことができない旨主張する。

しかしながら、本件判決は、いまだ貸付けの用に供されておらず、所得を獲得

したことがない土地に係る固定資産税等を不動産所得の金額の計算上必要経費

に算入することができるか否かが争われた事案であり、貸付けの用に供されて

いた建物の取壊しに係る費用を必要経費に算入することができるか否かが

争われている本件とは、その前提が異なるから、本件判決を引用することは

妥当ではない。

したがって、原処分庁の主張には理由がない。

※ 不動産賃貸業を営む個人の所有する土地で、いまだ貸付けの用に供されて

  いなかったものに係る支払等が、所得税法第37条第1項に規定する

  不動産所得を生ずべき業務について生じた費用と認められるには、その者

  がその主観において当該土地を貸付けの用に供する意図を有していると

  いうだけでは足りず、当該土地がその形状、種類、性質その他の状況に

  照らして、近い将来において確実に貸付けの用に供されるものと考えられ

  るような客観的な状態にあることを必要とするものと解すべきである

この事案のポイントは法令解釈として、「『その年における販売費、一般

管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用』とは、当該

支出が不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上

必要なものに限られると解するのが相当」とある通り、「直接」という考え方

を前提にした上で、本件建物の取壊し費用を必要経費と認めた点です。

賃貸不動産の老朽化が進んでおり、また、取壊して新たに建築したとしても、

収益的に見込まれないならば、本件同様、取壊し、一定期間後に土地の賃貸が

開始されるケースもあります。

そういう場合、建物の取壊し費用は必要経費算入で問題ないということを

覚えておきましょう。

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