引物に要した費用は損金か?
※2015年8月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「引物に要した費用は損金か?」ですが、
平成5年10月16日の裁決を取り上げます。
以前のブログ『社葬の後に行われた「おとき」の
費用は損金の額に算入されるかどうか?』につき争われた裁決事例で、下記と
判断されています(昭和60年2月27日裁決)。
○葬儀の後に場所をホテルに移して行われたおときは故人の追善供養のため
行われたものと認められるから、この費用は会葬のための費用ということは
できない(見田村注:社葬の範疇に入らない)
○前代表者の生前の請求人に対する功績に報いるため社葬を行い、これを機に
請求人の業務に関係の深い得意先等の関係者を招待して、これらの者と請求
人の前代表者である故人のめい福を祈るなどするため、おときに係る酒食を
供したものであるから、これらに相当する支出は、個人負担すべき部分を除
き、請求人の支出とし、この支出は得意先、仕入先等取引関係者に対する接
待、供応のための費用として交際費等とするのが相当
○おときの費用のうち、近親者部分についてはそもそも社葬費用に当たらない
ものであるところ、請求人と直接関係のない前代表者の親族、友人等の者に
係る接待費用は、請求人において負担すべきいわれはなく、遺族である前
代表者の長男個人が行うべきおときを請求人が行ったおときに併せて行った
ものなので、役員賞与となる
では、社葬に伴う「引物の費用」はどのようになるのでしょうか?
これに関して争われたのが今回の裁決であり、双方の主張、国税不服審判所の
判断は下記となりました。
○請求人の主張
・請求人は、社葬費用のうち460,000円を損金に算入されないとした
原処分は、次の理由により、不当であるからその全部の取消しを求める旨
主張する。
イ昭和49年3月16日に死去した請求人の前代表取締役■■■(以下
「前社長」という。)は、昭和4年食料品卸売業を開業して以来逐次営業を
拡大し、昭和38年請求人の設立に際しては、従来の営業に関する権利を
無償で提供するなどして請求人の基礎を築いたものであるので、請求人は、
その功績に報いるため、株主総会の決議に基づいてその葬儀を社葬とした
ものである。
従って、請求人がこれに要した一切の費用を負担したことは正当であり、
原処分に係る葬儀の引物(香典の返礼の品をいう。以下同じ。)に要した
費用も例外ではない。
ロ葬儀当日の参列者は、その大部分が請求人の営業関係者であるので、
これらの者に対する引物、接待費等の支出は、当然請求人の損金として
認められるべきものである。
ハ請求人が葬儀の引物に要した費用を損金としたことは、法人税法第132条
(同族会社の行為又は計算の否認)に規定する「その法人の行為又は計算で、
これを認容した場合には、法人税の負担を不当に減少させる結果となると
認められるもの‥‥‥」には該当しない。
○原処分庁の主張
原処分庁は、次の理由により、原処分が正当である旨主張する。
・前社長の生前の功労に報いるため、その葬儀を社葬とした請求人の関係者の
心情は理解できるが、葬式費用のうち引物に要した費用は、遺族である
現代表取締役■■(以下「社長」という。)が個人的に負担すべきもの
である。
すなわち、香典は個人の霊前にささげられるものであるが、通常遺族が
これを収受しているところであり、本件社葬の香典もこれを社長個人が
収受しているので、その返礼である引物に要した費用は社長個人が負担
すべきである。
また、社葬が株主総会の決議に基づくものであるとしても、このことに
より葬式費用のすべてが税法上損金となるものではない。
・取引先等から弔意を受けたことに対し、請求人が接待し引物を贈った
ことにより、請求人と取引先との間の円滑な取引の遂行に寄与する面が
あったとしても、それは間接的効果であって、そのことにより、当該引物に
要した費用を請求人の事業遂行上必要なものとすることはできない。
・当該引物に要した費用は請求人が同族会社であると否とにかかわらず
損金とは認め難い。
○国税不服審判所の判断
・請求人が、昭和49年3月17日開催の臨時株主総会により、前社長の
葬儀を社葬とすること及び香典を喪主の収入とすることを決議し、これに
基づいて、同月20日に社葬を行い、香典を喪主である社長個人が収受
したことは争いのないところである。
・請求人が当該社葬に要した費用を損金に算入したことは、相当と認め
られるが、引物は、元来香典の返礼と解されるものであるので、これに
要した費用は、香典を収受した者が負担すべきであるから、これを社葬に
要した費用に含めて請求人の損金に算入することは相当でない。
・原処分庁は、当該引物に要した費用について、請求人の在庫の味付のりの
代金360,000円と■■■■■に支払った100,000円との
合計額460,000円であるとしているが、社長の陳述及び関係書類に
よれば、■■■■■に支払った100,000円のうち引物に要した費用は
もなか70,000円のみで、その他は葬式当日の飲食等に要した費用
であることが認められる。
しかしながら、請求人が社葬に要した費用として損金としているものの
うちに、上記430,000円のほか引物に要した費用である■■■■に
支払った茶の代金65,000円及び株式会社■■■■■■に支払った
ふろしきの代金32,825円も含まれていることが認められるので、
引物に要した費用として損金に算入されない額の合計額は、
527,825円となり、原処分に係る当該費用の損金否認額
460,000円は過大ではない。
社葬を行った場合、おときの費用、引物の費用等も同一の請求書に記載されて
いる可能性もあり、また、税理士事務所の担当者が相続に詳しくない場合、
「おとき」や「引物」等の何たるかすら知らない場合があります。
この結果、その請求書に記載されている金額の全額を損金経理してしまう
可能性もありますが、内訳は必ず表示されているので、社葬があった場合は、
必ず詳細なチェックをする必要があるのです。
各事務所で使用しているチェックシートには、上記チェック項目を必ず、
加えておきましょう。
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