役員報酬の適正額とは?
今回は「役員報酬の適正額とは?」を取り上げますが、
これは名古屋地裁(平成6年6月15日、控訴棄却、上告棄却、確定)
の事案です。
まずは、具体的な損益等の推移をみてみましょう(単位:千円)。
○ 昭和60年2月期
・売上・・・112,047
・役員報酬・・・社長3,600、妻3,000
・使用人給与・・・3,879
・所得金額・・・554
○ 昭和61年2月期
・売上・・・130,017
・役員報酬・・・社長3,600、妻3,000
・使用人給与・・・4,411
・所得金額・・・437
○ 昭和62年2月期
・売上・・・186,338
・役員報酬・・・社長18,000、妻9,600
・使用人給与・・・5,815
・所得金額・・・1,385
この状況の中、昭和61年2月期の申告書押印の際、
「今期は売上が上がりそうなので、役員報酬を
増やしたいのですが」と言われたら、どうお答えになりますか?
確かに、上昇率としては高いですが、金額的にも上記くらいであれば、
単純に「OKです」と答えてしまうことも多いのではないでしょうか?
たしかに、この事例と同じ状況が他社であった場合、
○ 役員報酬は役員退職金よりも否認事例が少ない(否認されにくい)
○ 金額そのものがありえないくらい高額でもない
○ 社員の給与も相当の額が上昇している
○ 所得も確保されている
ということで、否認されないことも多いかと思います。
ただし、実際に否認された事例があったこと及びその内容を
知っておくことは重要です。
この事例の注目すべきポイントは下記の裁判所の判断基準です。
○ 税務署長は「類似法人の役員報酬額の平均値を基準とし、
これに増減すべき事情が納税者にあるかを検討すべき」と主張するが、
施行令の文言からはその結論を導くことはできない
○ 平均値が原則として相当な報酬額の上限とすべき合理的根拠もない
○ 役員報酬の決定に関しては、売上の増加(約1.43倍)を基本とし、
粗利益の増加(約2.25倍)を加味して考えるのが最も合理的
○ 本件役員報酬に関しては、前年度の1.5倍までの範囲で増額された
場合には相当な報酬の範囲内と言える
○ 「この1.5倍した金額 < 類似法人の平均額」になる場合、
適正額は平均額を下回るべきという特段の事情もない
→ 本事例では社長の役員報酬がこれに該当し、
「類似法人の平均額=適正額」とされた
いかがでしょうか?
もちろん、この考え方には議論の余地もありますし、
これが絶対的な基準でもありません。
また、実際の現場では否認されないことも多いでしょうから、
この事例を必要以上に保守的に考える必要もありません。
ただし、この事例を頭に入れておき、判断基準の1つに加えることは
重要なことです。
是非、覚えておいていただくと共に、実際の判決文をお読みになることを
お奨めします。
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2013年4月の当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。