役員報酬の額と分掌変更による役員退職金
※2014年9月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「役員報酬の額と分掌変更による役員退職金」ですが、
平成21年3月10日の長崎地裁の判決(確定)を取り上げます。
まずは、この事案の概要です。
○ 原告は紙器製造販売等を目的として設立された株式会社
○ 原告代表者の妻である丙は、昭和56年5月17日に、原告が組織変更
する前のA有限会社の取締役に就任し、平成4年の組織変更を経て、
平成16年6月25日、原告の取締役を退任し、監査役に就任し、同日の
株主総会において丙に対し、退職金として1800万円を支払う旨が決議
された
○ 丙の昭和63年10月以降の毎月の報酬額は次のとおりである。
昭和63年10月から平成2年11月まで 20万円
平成2年12月から平成3年6月まで 50万円
平成3年7月から平成4年1月まで 60万円
平成4年2月から平成5年2月まで 80万円
平成5年3月から平成6年7月まで 100万円
平成6年8月から平成8年6月まで 50万円
平成8年7月から平成16年6月まで 20万円
平成16年7月以降 20万円
取締役の退任と監査役の就任の前後において丙の報酬額に変化は無い。
この状況の中、丙に対する役員退職給与が役員賞与とされたのですが、
長崎地裁は下記と判断しました。
○ 取締役を退任し、監査役に就任した前後の丙の職務内容の具体的変化等は、
次のとおりである。
・ 丙は、平成16年6月25日以前は、取締役会へ出席し、原告代表者の
海外出張の際の通訳をしていたものの、通訳については他の従業員も可能
となり、永年、原告の従業員として勤務してきた部長2名が原告の取締役
に就任し、丙が取締役の地位にいる必要がなくなったために取締役を退任
している。
・ 監査役就任後、丙は、税理士事務所から報告を受け、決算期に財務諸表を
点検し、株主総会に監査報告書を提出する等、監査役としての業務を行っ
ており、遅くとも平成16年終わりころから、監査役としての任務のほか
原告の業務にほとんど関与しなくなった。
・ 他方で、丙は、飲食業を営むための会社設立の準備を行い、平成17年
3月には、別の有限会社を設立して、その代表取締役に就任し、同会社が
経営するインド料理店の開店後は同店に毎日出勤してその経理や従業員の
管理に携わっている。
・ 丙の監査役就任前の監査役であった原告代表者の母は、退任直前から体調
を崩してその任務の遂行が困難になり、丙の就任後に死亡していることに
照らせば、監査役就任後の丙が監査役としての職務を行っていたことは
明らかであるが、その就任前には、丙は原告の会計上の処理にほとんど
携わっていなかった。
・ 以上によれば、丙の職務内容は具体的にも激変したというべきである。
○ 丙は、平成16年6月期を含む本件各事業年度を通じて原告の発行済株式
総数のうち12%の株式を有しており、法人税法施行令71条1項4号の
要件のすべてを満たし、使用人兼務役員とされない役員に該当する。
そして、本件通達によれば、そのような者が取締役から監査役になった
ときは、取締役の退任に伴い支給された給与を退職給与として取り扱う
ことができる場合から除外されている。
○ しかしながら、本件通達が退職給与として支給した給与を、法人税法上の
退職給与として取り扱うことができる場合として掲げている事実は、その
文言からも明らかなとおり、例示であって、結局は、役員としての地位
又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認めら
れる場合には、その際に支給された給与を退職給与として損金に算入する
ことが認められるべきである。
○ 丙が取締役を退任し、監査役に就任したことによって、その役員としての
地位及び職務の内容が激変し、退任後も原告の経営上主要な地位を占めて
いるとは認められず、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる。
○ 被告は、同族会社の大株主が取締役から監査役になったとしても独立した
機関であるという監査役の本来の機能は期待できず、その地位又は職務の
内容が激変したとは認め難いと主張する。
一般的には、同族会社の大株主が監査役に就任したとしても監査の実効性
に疑問が生じることは理解できないわけではないが、平成17年法律
第87号による改正前の商法や商法特例法は、このような同族会社の
大株主であることを監査役の欠格事由としていなかったのであるから、
法は、このような大株主による監査についても一定の機能が果たされる
ことを期待し、可能であることを前提としていたというべきである。
○ そうであれば、法人税法施行令71条1項4号の要件のすべてを満たし
ている者については例外なく監査役の本来の機能が期待できないと
解すことはできないから、被告の上記主張は採用することができない。
○ 平成16年6月25日の取締役の退任と監査役の就任の前後において丙の
報酬額に変化はなく、報酬額の変化は当該地位や職務の内容が激変した
場合の一つの徴表ということができるとしても、それぞれの報酬額は
月20万円であって、その金額からして、監査役の報酬を更に低額にする
ことは困難であるし、非常勤取締役としての原告に対する貢献と、非常勤
監査役としての原告に対する貢献とが同額の報酬をもって評価されること
はあり得るのであるから、丙の報酬額に変化がないことをもって、直ちに、
原告における丙の地位又は職務の内容が激変していないということは
できない。
最後の項目に関して言えば、以前に解説した平成18年11月28日の裁決
でも「原処分庁は辞任後も他の従業員給与をはるかに超える額の給与等の支給
を受けているから取締役としての地位にある旨主張するが、上記認定事実から
すると、Aに支給する金額の決定は、同人の行う職務内容等を基礎としてされ
たものとは認められず、単に代表取締役退任時の役員報酬の額の半額とする旨
の合意に基づいてされたにすぎないから、その金額の多寡のみをもって直ちに
同人が取締役としての地位にあるものと言うことはできない。」と判断されて
います。
いかがでしょうか?
分掌変更による役員退職給与の支給は問題になることも多い訳ですが、「別の
有限会社を設立して、その代表取締役に就任し、同会社が経営するインド料理
店の開店後は同店に毎日出勤してその経理や従業員の管理に携わっている。」
という状況であったにも関わらず、取締役退任前と監査役就任後の報酬額が
同額であること等を以って更正されたことには驚きを隠せません。
本ブログでも何度も解説してきましたが、法基通9-2-32に記載されて
いる内容はあくまでも「例示」であり、あの基準を満たさないといけない訳
ではありません。
あくまでも分掌変更による役員退職給与を支給できる場合は「実質的に退職
したと同様の事情にあると認められる」場合であって、報酬額等の形式基準を
重視して判断すべきではないのです。
※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。