役員登記されていない妻の役員退職金と役員在任年数
さて、今回は「役員登記されていない妻の役員退職金と役員在任年数」です。
今日は平成22年4月6日の裁決で、
役員登記されていない期間を役員在任年数に含めるかどうか?につき、争われた事例をご紹介します。
まずは、前提条件をお伝えします。
○ 請求人は有限会社から株式会社に組織変更
○ 有限会社時代には妻は役員登記されていない
○ 株式会社では役員登記されていた
○ 昭和50年9月の申告書によれば、資本金500万円のうち、
310万円を社長が、10万円を社長の妻が出資していた
○ 役員退職金1億円を支払ったところ、否認された
ちなみに、1億円の計算根拠は
135万円※×32年×功績倍率2.5×功労金加算30%-取締役会減額4,040万円
=1億円ということです。
なお、実際の最終役員報酬月額は50万円でしたが、
■■■発行の類似業種月額役員報酬の平均値を採用したとのことです。
■■■は伏字となっておりますが、TKCか?と推察しました。
また、この32年は登記されていない有限会社時代を含んだ年数です。
そして、原処分庁、異議審理庁は下記としました。
<原処分庁>
50万円×32年×3.0=4,800万円が適正額であり、
5,200万円が過大役員退職金
<異議審理庁>
50万円×17年×2.3=1,955万円が適正額であり、
8,045万円が過大役員退職金
この17年は有限会社時代を在任年数として認めず、みなし役員でもないとしたということです。
当然、みなし役員であれば、在任年数には入りますが、ここは経営参画という事実認定の問題になります。
そして、結果は「社長の答述、妻の陳述書、設立時からいる従業員の答述は一致しており、役員就任前から経営上の重要な地位を占めていたと認められる」とされたのです(=在任年数は32年)。
ただし、最終報酬月額については、■■■発行の数値は統計上の数値であり、貢献度を比較する方法は存在しないとされ、認められませんでした。
さらに、功績倍率についても、審判所が基準となる法人を選定し直し、2.2としました。
結果、審判所が結論付けた役員退職金の適正額は
50万円×32年×2.2=3,520万円であり、6,480万円が過大役員退職金とされたのです。
皆さんはこの事案をどう思われたでしょうか?
みなし役員に該当するかどうかは持株割合の問題だけでなく、経営に参画しているかどうかという事実認定の問題となります。
ここを社長の答述、妻の陳述書、設立時からいる従業員の答述で一致させ、経営上、主要な地位を占めていたことが十分に推察できるとできたことが、この事案の最も大きなポイントです。
実際に経営上、主要な業務を行なっていれば、社長の答述等を一致させることは難しいことではありません。
この主張を排除し、異議審理庁がみなし役員と認めなかったことも大きな論点の1つです。
中小企業の場合、社長の妻は役員登記されていないが、経営上の重要な地位を占めることはよくあります。
もちろん、登記しておくに越したことはありませんが、そうなっていない場合もあります。
こういう場合、在任年数で悩むことがあるかもしれませんが、この裁決が1つの判断基準、現場での反論材料になるでしょう。
是非、ご参考になさってください。
最後に、功績倍率により計算方法につき、審判所が法令解釈としている部分を抜粋します。
併せて、ご覧ください。
法人税法施行令第72条に規定する役員退職給与の相当額は、退職した役員の業務に従事した期間、退職の事情、同業類似法人の役員に対する退職給与の額の支給状況等に照らし判断することとされているところ、役員退職給与の相当額の具体的算定方法として、従来から功績倍率方式が広く用いられており、請求人も本件規程において当該方式を基礎とした算定方法を規定し、原処分庁も当該方式により算定している。
ところで、功績倍率方式は、上記1の(4)のロの(ハ)のAのとおりの算定方法であるところ、役員の最終報酬月額は、特別な場合を除いて役員の在職期間中における最高水準を示すとともに、役員の在職期間中における会社に対する功績を最もよく反映しているものであり、また、役員の在職期間の長短は、報酬の後払いとしての性格の点にも、功績評価の点にも影響を及ぼすものと解され、功績倍率は、役員退職給与の額が、当該役員の最終報酬月額に勤続年数を乗じた金額に対し、いかなる比率になるかを示す数値であり、当該役員の法人に対する功績や法人の退職金支払能力等の個別的要素を総合評価した係数といえるから、これらの要素に基づく功績倍率方式により算出された役員退職給与の相当額には合理性があると解される。
ここで功績倍率として具体的にいかなる数値を用いるかについては、法令の規定はなく、一般的に役員の退職給与を支給する法人ごとに自主的に定めた2.0~3.0程度の数値を用いている事例が認められるが、当該法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に関する統計数値が利用可能な場合においては、当該統計から算出された功績倍率の平均値を用いる平均功績倍率方式が、法人税法施行令第72条の規定の趣旨に合致するものというべきであり、この方式は、功績倍率を平均化することにより、類似法人間に存在する差異や個々の特殊性を捨象することができるから、適正に算出された平均功績倍率を用いる限り、客観的かつ合理的な方法であると解される。
これに対し、功績倍率の最高値を用いるいわゆる最高功績倍率方式は、例えば、同業類似法人の抽出が不十分であり平均値を採用し難い特別な事情がある場合などに限って、その採用を考慮するのが相当であると解される。
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