役員貸付金と認定利息
今回は「役員貸付金と認定利息」です。
税務調査で経費科目などが「役員貸付金」と否認されることがあります。この場合、過去に遡り、認定利息の計算をされることになりますが、いったい何%で計算すべきなのでしょうか?
まず、所得税基本通達を2つ確認しましょう。
(課税しない経済的利益……金銭の無利息貸付け等)
36-28 使用者が役員又は使用人に対し金銭を無利息又は36-49により評価した利息相当額に満たない利息で貸し付けたことにより、その貸付けを受けた役員又は使用人が受ける経済的利益で、次に掲げるものについては、課税しなくて差し支えない。
(1)略
(2)役員又は使用人に貸し付けた金額につき、使用者における借入金の平均調達金利(例えば、当該使用者が貸付けを行った日の前年中又は前事業年度中における借入金の平均残高に占める当該前年中又は前事業年度中に支払うべき利息の額の割合など合理的に計算された利率をいう。)など合理的と認められる貸付利率を定め、これにより利息を徴している場合に生じる経済的利益
(3) 略
(利息相当額の評価)
36-49 使用者が役員又は使用人に貸し付けた金銭の利息相当額については、当該金銭が使用者において他から借り入れて貸し付けたものであることが明らかな場合には、その借入金の利率により、その他の場合には、貸付けを行った日の属する年の前年の11月30日を経過する時における日本銀行法第15条第1項第1号の規定により定められる商業手形の基準割引率に年4%の利率を加算した利率(その利率に0.1%未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)により評価する。
ちなみに、現時点の「商業手形の基準割引率に年4%の利率を加算した利率」は4.3%となっています。
結果として、その会社に銀行などからの借入金がある場合には、36-28(2)に定める「借入金の平均調達金利」で計算すればいいでしょう。
しかし、その会社が無借金経営で「借入金の平均調達金利」が無かったら、即座に36-49により計算されてしまうのでしょうか?
また、10万円でも残債があれば「借入金の平均調達金利」でOK、残債が無ければ4.3%で計上する、というのも不合理と考えます。
しかも、「借入金の平均調達金利」は絶対的なものではなく、36-28(2)にも「など」、「例えば」という表現が用いられています。
そこで、これに関して参考となる神戸地裁(平成15年1月24日、確定)をご紹介しましょう。
この裁判は売上原価10億円(架空)が役員貸付金とされた事案です。そして、この役員貸付金10億円に対する認定利息は「借入金の平均調達金利」ではなく、「全国銀行約定平均金利」で計算されました。
なお、この会社に外部からの借入があったかどうかは明記されていませんが、「全国銀行約定平均金利」という通達にはない概念が採用されたことは事実です。
以下、判決文からの抜粋です。
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原告は、未だ甲から貸付金である本件10億円の返済を受けておらず、かつ、同貸付に係る利息も徴していないのであるから、原告は、甲に対し、本件10億円の貸付利息相当額(別表3の利率に基づく別表4記載の各金額)の経済的利益(役員報酬)を供与したと解され、これは、原告の甲に対する給与とみなすべきである。
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別表3 全国銀行約定平均金利
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| 月 |平成5年度|平成6年度|平成7年度|平成8年度|平成9年度|
|---+-----+-----+-----+-----+-----|
| 1月|5.493|4.331|4.046|2.749|2.526|
| 2月|5.390|4.231|4.032|2.729|2.509|
| 3月|5.201|4.179|3.997|2.709|2.499|
| 4月|5.117|4.160|3.902|2.694|2.483|
| 5月|5.089|4.153|3.740|2.694|2.479|
| 6月|5.034|4.120|3.575|2.670|2.461|
| 7月|5.008|4.098|3.454|2.658|2.447|
| 8月|4.975|4.093|3.353|2.642|2.433|
| 9月|4.829|4.072|3.171|2.625|2.417|
|10月|4.710|4.065|3.050|2.609|2.393|
|11月|4.596|4.053|2.963|2.586|2.372|
|12月|4.414|4.047|2.788|2.534|2.367|
|---+-----+-----+-----+-----+-----|
|年平均| | | | | |
|金 利| 4.9%| 4.1%| 3.5%| 2.6%| 2.4%|
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※年平均利率は各月の平均を求め、小数点第2位以下を切り捨てた率を採用
皆さんはこの判決をどう考えられますか?
4.3%の金銭消費貸借契約を税務調査時に結ばされた後、
うちに顧問契約を変更された社長もいました・・・。
「商業手形の基準割引率に年4%の利率を加算した利率」は合理的かもしれませんが、高いという側面もあります。
もちろん、外部からの借入があったとしても「借入金の平均調達金利」で計算しなければならない訳でもありませんが。
たとえば、ノンバンクなどから高利で資金調達をしている会社にとっては、むしろ4.3%の方が低くなることもあるでしょう。
また、この「借入金の平均調達金利」は通達上の規定ですから、これが高い場合は、税務調査では調査官と交渉し、より低い利率に設定することも可能な場合もあるでしょう。
いかがでしょうか?
皆さんの顧問先が税務調査を受け、認定利息の件で問題が発生したら、この考え方を用いて交渉してみて下さい。
必ず活かせるケースがあるはずと考えております。
※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。
2012年12月の当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。