役員賞与を12等分して、最終報酬月額に加算する妥当性
※2018年7月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「役員賞与を12等分して、最終報酬月額に加算する妥当性」です。
各税務雑誌に平均功績倍率の1.5倍の功績倍率が認められた事例が
載っていますが、この裁判は東京高裁で国税勝訴となり、
現在は納税者が上告をしています。
この裁判は功績倍率が1つの大きな争点ですが、
別の論点もあります。
それが「役員賞与を12等分して、最終報酬月額に加算する是非」です。
この事例において、納税者は事前確定届出給与720万円を12等分し、
月額ベースで60万円を実際の最終報酬月額240万円に加算し、
役員退職給与を計算すべきと主張しています。
ちなみに、この720万円は実際には支払われなかったものです。
この主張に関し、国税不服審判所、東京地裁、東京高裁の判断を
並べてみたいと思います。
若干、表現が異なる部分があります。
〇 国税不服審判所(平成27年6月23日)
最終報酬月額は、通常、当該退職役員の在職期間中における
報酬の最高額を示すものであるとともに、退職の直前に
大幅に引き下げられたなどの特段の事情がある場合を除き、
当該退職役員の在職期間中における法人に対する功績の程度を
最もよく反映しているものといえるものであること、
及び、上記~のとおり、本件事業年度において、役員に対する
事前確定届出給与(賞与)の支払はないことから、
この点に関する請求人の主張は採用できない。
〇 東京地裁(平成29年10月13日)
最終月額報酬額は通常当該役員の在職期間中における法人に対する
功績の程度を反映していると考えられることに加え、
■■■の最終月額報酬額は240万円と高額であること、
原告自身が当該金額を基礎としてこれに勤続年数と
役員退職慰労金規定所定の通常の役員係数に功労加算の係数を
乗じた倍率(功績倍率)を乗じて本件役員退職給与の額を
算定していたと認められること〔前記前提事実(2)ウ〕に照らすと、
前記事実関係からうかがわれる■■■の功績を考慮しても、
■■■の最終月額報酬額は240万円として、
本件役員退職給与の相当額を算定するのが相当であり、
原告の上記主張は採用できない。
〇 東京高裁(平成30年4月25日)
最終月額報酬額は当該役員の在職期間中における法人に対する
功績の程度を通常反映していると考えられることに加え、
■■■の最終月額報酬額は240万円と高額であること、
被控訴人自身が当該金額(240万円)を基礎として
これに勤続年数と役員退職慰労金規定所定の通常の役員係数に
功労加算を施した倍率(功績倍率)を乗じて本件役員退職給与の額を
算定していたと認められることに照らすと、■■■の最終月額報酬額は
240万円として本件役員退職給与の相当額を算定するのが相当であり、
被控訴人の上記主張は採用することができない。
いかがでしょうか?
会社法第361条において、報酬も賞与も職務執行の対価と
位置付けられているので、本事例において役員賞与が払われていれば、
納税者の主張は認められたものと考える、という意見もあります。
もちろん、私もこの考え方は合理的だとは思います。
しかし、役員賞与が支払われ、「これを12等分したものを
最終報酬月額に加算すべき」と判断された事例は無い訳です。
過去の他の事例も含めて見てみると、
「最終報酬月額はあくまでも月額」と判断されている訳です。
本事例は社会保険料の削減、老齢年金の増額支給を目的として、
事前確定届出給与を採用している事例ではありません。
ただし、これを目的として、月額報酬を極端に下げ、
役員賞与を高額にするスキームは
功績倍率法が採用されないリスクを負うのです。
なぜなら、低い月額で計算しても、
適正な役員退職給与が計算できないからです。
最終報酬月額がその役員の功績を表しておらず、低額である場合は、
1年当たり平均額法で判断される可能性が高いのです。
しかし、その平均額を計算することはかなり至難の技なので、
一定の最終報酬月額を払い出すべきです。
事前確定届出給与という方法は
役員退職給与のことを考えると、採用しない方が無難でしょう。
是非、覚えておいてください。
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