役員退職給与が過大であるか否か
※2015年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「役員退職給与が過大であるか否か」ですが、
昭和57年4月26日の裁決を取り上げます。
役員退職給与の支給をした場合、税務調査に至る可能性もあり、
この場合には過大か否かという論点になることがあります。
この場合、法令70①二において、「内国法人が各事業年度において
その退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその内国法人
の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む
法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に
照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる
金額を超える場合におけるその超える部分の金額」が過大額とされています。
そのため、類似法人との比較は非常に大きな判断要素になるのですが
あくまでも総合勘案の問題であり、類似法人との比較により計算された金額
よりも多額である役員退職給与が適正であると判断される場合もあります。
では、この事案の前提条件です。
○請求人は塩元売業を営んでいた被合併法人■■■■株式会社の審査請求人の
地位を承継した者
○支給した役員退職給与と原処分庁が認定した過大額は下記
・取締役会長:24000000円 14000000円
・常務取締役:9000000円、0円(過大額なし)
・取 締 役:9500000円、8500000円
・取 締 役:9000000円、7500000円
・取 締 役:9000000円、7000000円
では、国税不服審判所の判断です。
○原処分庁は、本件役員退職給与の適正額について、功績倍率等を基礎として
その合計額を23,500,000円と認定している。しかしながら、本件
役員退職給与の適正額については、次のとおり、根拠判決に示された功績倍率
を基礎とする計算方式により難い特別の事情が認められるので、当該原処分庁
の計算を採用することもできない。
(A)原処分対象役員は、いずれも請求人の筆頭株主その他の大株主であるが、
塩元売業務の効率的な運営を図る目的の下に営業所を統廃合する旨の■■■■
■■の強力な指導による機構整備によって、そのすべての持株を譲渡し、
営業所長として勤務していた営業所を廃止することによって請求人会社から
完全に離脱した者であり、本件役員退職給与は、類似法人6社の退職役員の
場合の合併に伴う単なる打切支給の退職給与とは、その退職の事情が異なる
こと。
(B)本件受給者のうち常務取締役■■■■の役員報酬は、適時に改訂が
行われてきて、その最終報酬月額が200,000円であり、この額は、
類似法人における専務取締役及び常務取締役6名の最終報酬月額の平均額が
211,100円であることからみても、おおむね妥当な水準にあるものと
認められる。しかしながら、上記■■■■以外の原処分対象役員の報酬は、
業況不振に対処するため、昭和48年4月以降これをほぼ据置いたままと
されており、■■■■の役員報酬月額と比較して特に低額となっていたことが
認められるから、当該報酬月額をそのままにして■■■■の功績倍率を
原処分対象役員に採用することは相当でないこと。
○当審判所の計算による本件役員退職給与の適正額
そこで、当審判所は、本件役員退職給与の適正額については、類似法人の
役員の退職給与の額との比較考量により、その額を認定することが相当である
と判断し、これによることとした。
原処分関係資料及び参考人の答述並びに当審判所の調査によれば、類似法人の
うちG社の役員の退職給与の額と比較考量することが、同社の専務取締役の
勤務年数1年当りの退職給与の額309,300円(勤務年数27年、退職
給与の額8,352,000円)が請求人の常務取締役■■■■の勤務年数
1年当りの退職給与の額310,300円(勤務年数29年、退職給与の額
9,000,000円)と近似していることなどからみて、相当である。
(A)勤務年数1年当りの退職給与の額
a 取締役会長■■■■■と勤務年数及び職務内容が近似するG社の代表
取締役の勤務年数1年当りの退職給与の額は402,000円(勤務年数
27年・退職給与の額10,856,000円)である。
しかしながら、取締役会長■■■■は、会社設立以来、終始一貫して実質的な
支配権を有し、常に会社運営の重要な企画に当るほか、自らも財務、金融面
のみならず卒先して■■■■■■との折衝に当り、本件機構整備の基盤を
醸成し、営業所の統廃合の円滑化を図る等、その貢献度は、G社の代表取締役
に比較して著しく高いものと認められる。
このように特に優れた経営活動による貢献については、更に考慮するのが
相当であり、同人の勤務年数1年当りの退職給与の額については、同業種法人
の功績倍率等も勘案してこれを上記G社の代表取締役の勤務年数1年当りの
退職給与の額402,000円の140パーセントに相当する562,800円
に修正するのが相当と認められる。
b 取締役営業所長■■■■、同■■■■■及び同■■■■■■■の勤務年数
1年当りの退職給与の額については、G社に取締役兼営業所長の退職給与の
支給事例はないが、原処分庁から提出された資料により、同人らと勤務年数、
勤務条件及び職務内容が近似するG社の使用人営業所長3名の勤務年数1年
当りの退職給与の平均額を計算したところ、その額は206,000円であり、
これを上記■■■■ほか2名の勤務年数1年当りの退職給与の額とするのが
相当と認められる。
なお、■■■■の代表取締役在任期間については、G社の代表取締役の勤務
年数1年当りの退職給与の額402,000円によるのが相当である。
(B) 整理退職による加算
本件役員退職給与は、いわゆる整理退職によるものであり、その事情を考慮
する必要性が認められるところ、原処分対象役員の勤務年数1年当りの退職
給与の額は、いずれも当該事情を考慮しないところの金額であるから、これを
考慮するのが相当である。
そして、その考慮する割合については、勤務年数、職務内容等から考えて
最も妥当と認められる取締役■■■営業所長■■■■■の本件役員退職給与の
額9,000,000円と、同人の勤務年数1年当りの退職給与の額
206,000円により計算された退職給与の額5,974,000円
(206,000円×29(年))との差額3,026,000円が当該
5,974,000円の50.66パーセントに当り、この割合は、一見高率
のようにも考えられるが、本件役員が■■■■■■の強力な指導による営業所
の統廃合によって請求人から完全に離脱したことを考えれば、おおむね妥当性
を有するものと認められ、この割合により加算するのが相当である。
(C)本件役員退職給与の適正額
以上の審理によれば、原処分対象役員についての本件役員退職給与の適正額は、
次のとおりとなる。
a 取締役会長■■■■■
(勤務年数1年当りの退職給与の額)(勤務年数)(整理退職による加算)
562,800円×29(年)×1.5066=24,589,519円
b 取締役■■営業所長■■■■■
206,000円×24(年)=4,944,000円(代表取締役以外の期間分)
402,000円×5(年)=2,010,000円(代表取締役であった期間分)
(4,944,000円+2,010,000円)×1.5066
=10,476,896円
c 取締役■■営業所長■■■■■■
206,000円×29(年)×1.5066=9,000,428円
d 取締役■■営業所長■■■■■■■
206,000円×26(年)×1.5066=8,069,349円
■■■■■■■については、同人の最終報酬月額、■■営業所の取扱塩量等を
考慮すれば、同人の本件役員退職給与の適正額は、cの■■■■■の本件役員
退職給与の適正額と同程度とするのが相当である。
なお、上記計算による■■■■、■■■■■■及び■■■■■■■の本件役員
退職給与の適正額は、請求人が昭和55年4月1日に■■■■株式会社に吸収
合併された際の代表取締役■■■■(勤務年数28年、うち代表取締役で
あった期間6年、代表取締役以外の期間22年)の役員退職給与の額
8,500,000円と比較してみても、これを不相当とする理由は認められ
ない。
従って、本件役員退職給与の額、いずれも適正額の範囲内の金額であり、
原処分庁の認定した不相当に高額な部分の金額37,000,000円は
ないこととなるから、その全額を取消すべきである。
いかがでしょうか?
繰り返しになりますが、役員退職給与の過大額は
○内国法人の業務に従事した期間
○その退職の事情
○その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの
役員に対する退職給与の支給の状況
「など」による総合勘案により判断されるべきものです。
業務に従事した期間は数値的な基準としても、これ以外は事実認定の世界の
話となります。
支給段階では確定的に適正額を計算することはできませんが、これらの事情も
含めて計算し、形式的な基準に拘束されないと共に、どのように税務調査で
反論をしていくのかという準備も含め、考えていくべきなのです。
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