役員退職給与の適正額
※2014年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「役員退職給与の適正額」ですが、
平成21年12月1日の裁決を取り上げます。
まずは、この事案の概要です。
○ 請求人は清掃管理を主とする建物サービス業を営む同族会社
○ ■■■■は、請求人の設立時から取締役となっており、昭和42年7月
1日に代表取締役に就任し、■■■■■■■■に病気が原因で死亡退職
するまで、請求人の代表取締役であった。
○ ■■■■の役員報酬月額は、請求人の平成9年分以降の所得税源泉徴収簿
によると、平成9年1月分から同年8月分までが1,700,000円、
同年9月分から平成15年8月分までが2,230,000円及び同年
9月分から平成17年7月分までが1,300,000円である。
○ ■■■■が会社へ出勤できなくなったのは亡くなる1、2か月前のこと
であり、それまでは週に4、5日勤務していた。
○ 役員報酬の減額前後で勤務実態等が変化したことはない。
○ 平成15年4月ごろ年間収支の見通しが悪くなることが想定されたため、
従業員の昇給を止めるか、役員報酬を減らすかの選択となり、役員報酬を
減らす選択を行ったものである。
○ 請求人は、■■■■に対する死亡退職金■■■■■■■及び弔慰金■■■
■■■を損金の額に算入して、平成17年8月期の法人税の確定申告書を
原処分庁に提出した。
○ 原処分庁は、これに対し、本件弔慰金のうち、弔慰金としての適正額は
■■■■■■であり、それを上回る1,200,000円については
退職給与に該当するものとし、本件退職金に加えた■■■■■■■が
■■■■に対する役員退職給与の総額であると認定した。
○ そのうえで、■■■■に対する役員退職給与として相当であると認められ
る金額を147,420,000円と認定し、当該金額を超える■■■
■■■は法人税法第36条に規定する「不相当に高額な部分の金額」に
該当し、損金の額に算入できないとして、平成20年7月8日付で本件
各更正処分等をした。
○ 請求人は、これらの処分を不服として、平成20年8月21日に異議申立て
をしたところ、異議審理庁は、本件適正役員退職給与額を158,340,
000円であるとして、同年11月12日付で原処分の一部を取り消す
異議決定をした。
○ 異議審理庁が認定した本件適正役員退職給与額の158,340,000円
は、請求人と同種の事業を営み、かつ、その事業規模が類似する法人
を6社抽出した上で、当該6社の役員退職給与の支給状況等に基づいて
算出した平均功績倍率2.9に、最終報酬月額1,300,000円及び
在職年数42年を乗じて算出した額である。
この前提の中、国税不服審判所は下記と判断しました。
○ 役員退職給与の適正額の具体的な判定基準については、次の「平均功績
倍率法」と「1年当たり平均額法」が税法の趣旨に沿ったものであると
されており、一般的には前者の平均功績倍率法が多く採用されている。
○ この平均功績倍率法が最終報酬月額を算定の基礎としているのは、退職
役員の最終報酬月額が何らかの理由により大幅に引き下げられたなどの
特段の事情がない限り、役員在職中における法人に対する功績を最もよく
反映しているものであるとの考え方によるものであるが、退職役員の最終
報酬月額が適正でない場合、又は適正額に修正することができない場合、
例えば、長年、代表取締役として会社の中枢にあった者が退職時には
非常勤役員となっており、その最終報酬月額がその役員の在職期間中の
職務内容等からみて、著しく低額であるような場合にまで平均功績倍率法
を適用すると、役員退職給与の適正額が著しく低額となることから、この
ような場合には、1年当たり平均額法を採用することも合理的でないとは
いえない。
○ 本件適正役員退職給与額の判定基準について
・ 原処分庁が採用すべきと主張する最終報酬月額の1,300,000円に
ついて検討するに、少なくとも平成16年8月以降、■■■■が病気に
より体調を崩した事実は認められ、また、年間収支の見通しが悪くなる
ことが想定されたことも役員報酬月額が減額された理由と推認される。
・ ■■■■が死亡退職した日の属する事業年度の前事業年度において、
■■■■の役員報酬月額が40%以上減額され、平成9年8月以前の同人
の役員報酬月額1,700,000円をも下回ることとなった本件におい
て、最終報酬月額1,300,000円が役員在職中における法人に対す
る功績を最もよく反映しているものであるとまでは言えず、当該最終報酬
月額を採用しない特段の事情があるものと認められるから、適正な役員
退職給与額を平均功績倍率法により算定するに当たり、1,300,
000円を算定の基礎とすることが相当であるとは言えない。
・ 次に、請求人が採用すべきと主張する2,230,000円について
検討するに、請求人の平成17年8月25日付の臨時株主総会議事録に
おいて、1,500,000円を死亡時月給として退職金の計算をする
方法を承認可決していることからみると、適正な役員退職給与額を平均
功績倍率法により算定するに当たり、2,230,000円を算定の基礎
とすることも相当であるとは言えない。
・ そうすると、本件においては、適正な役員退職給与額を算定するに当たり、
報酬月額を基礎として算定する平均功績倍率法よりも、むしろ1年当たり
平均額法を採用することが相当であり、合理性が認められる。
○ 本件適正役員退職給与額について
・ 本件適正役員退職給与額を算定するに当たっては、役員退職給与の算定
基準として1年当たり平均額法によることに合理性があり、また、1年
当たりの役員退職給与の額の算定に当たっては、本件類似法人として
別表3の3社を採用するのが相当であるから、本件適正役員退職給与額は、
別表3に示した1年当たりの役員退職給与の平均額5,898,261円
に■■■■の在職年数42年を乗じて得た金額247,730,000円
となる。
○ 本件弔慰金について
・ 請求人は、病気療養により■■■■の勤務実態が変化したことに伴い、
役員報酬月額を1,300,000円に減額しているため、減額前に
支払っていた2,230,000円を基礎として弔慰金の額を計算すべき
である旨主張する。
・ しかしながら、■■■■は、病気による死亡退職であるところ、弔慰金と
しての相当な額は、死亡当時における普通給与の半年分に相当する金額で
あり、■■■■の死亡当時における普通給与の額は1,300,000円
であるから、請求人の主張は採用できない。
・ そうすると、弔慰金としての相当な額は、死亡当時における報酬月額
である1,300,000円の■■■■の■■■■■となり、請求人が
弔慰金として損金経理した■■■■■■のうち、■■■■■■を超える
1,200,000円については、■■■■に対する退職給与であると
認められる。
○ 以上の結果、役員退職給与の総額は、本件退職金に本件弔慰金のうち
退職給与と認定した1,200,000円を加算した■■■■■■■と
なり、当審判所が本件適正役員退職給与額と認定した金額247,730,
000円を超える■■■■■■が役員退職給与として不相当に高額な部分
の金額となる。
いかがでしょうか?
実際には退職時点で1年当たり平均額法による正確な計算はできないものの、
平均功績倍率法の基礎となる最終の役員報酬月額は在任期間中の最高額という
前提があるので、途中で役員報酬を減らした場合は頭を悩ますものです。
こういう場合は納税者との相談にもなりますが、保守的に判断しすぎず、
ある程度は積極的に判断をすべき場合もあるかと考えます。
ただし、在任期間中における役員報酬の最高額を計算の基礎とすることは
本件でも否定されていますし(本件においては議事録の内容も影響して
いますが)、結果、それが1年当たり平均額法で計算すれば、適正額の範疇に
なることもあり得ますが、そこは慎重な判断を求められる部分となります。
本件は1つの参考裁決として、覚えておいて頂ければと思います。
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