役員退職金の法的性格・支給要件・計上時期は?
※2023年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
先週水曜まで、4回にわたって分掌変更の役員退職金について
解説してきましたが、今回は役員退職金の法的性格、
その支給要件、計上時期などを整理しながら全般的に解説します。
根本的に勘違いしている方が多い論点です。
会社と従業員は雇用契約によって成り立っているため、
退職金制度(退職金規程)がある法人の場合、
従業員の退職によって退職金の支給が義務となります
(もちろん、退職金制度がなければ支給義務なし)。
これは賃金の後払的な性格だと理解されています。
一方で、会社と取締役は委任(準委任)契約に成り立っている
(会社法第330条)ことから、たとえ社内規程があったとしても、
取締役の退任にともない法人が役員退職金を支給することは
義務ではありませんし、退任した取締役に請求権もありません
(法人が慰労金として役員退職金を支給するかは任意)。
まず、この従業員と取締役の決定的な違いについて
理解をしていただいたうえで、では役員退職金を支給する場合、
何に基づいて支給決定するかです。
会社法第361条(取締役の報酬等)
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から
受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)
についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていない
ときは、株主総会の決議によって定める。
一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
この法律規定から、役員退職金を支給する場合、
株主総会の支給決議(または定款の定め)が必要となります。
繰り返しますが、役員退職規程などの社内規程に基づいて
役員退職金を支払うわけではない、というのが重要な理解です。
一方で「実務上」は、取締役報酬の支給設定と同じように、
株主総会において役員退職金の支給総額(枠)だけを決議し、
各人別の配分について取締役会(または代表取締役)に
一任する方法は認められています(無条件一任は不可)。
ただ、現実的に考えると、役員退職金を支給する対象者が
複数人であることは稀でしょうから、株主総会(臨時を含む)で
役員退職金の支給額を決定することが通常となります。
以上から、税務調査対策としては、株主総会の議事録はマスト、
役員退職金規程は任意と整理することができます。
また、従業員に対する退職金は上記のとおり、
退職金制度(退職金規程)がある限り、その退職日に
支給義務が発生することから、この時点で債務確定します。
一方、役員退職金の損金算入時期については、原則として
株主総会の支給決議日(債務確定)となりますが、前回も取り上げた
下記の通達では支払日とすること(例外)も可能となっています。
法人税基本通達9-2-28
(役員に対する退職給与の損金算入の時期)
退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、
株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度
とする。ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度
においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。
該当事例はあまり無いかもしれませんが、役員退職金に対して
引当金を積んでいる場合で、支払日に損金計上するのであれば、
損金経理要件を満たす(明示する)ため、引当金の取り崩し仕訳
以外にも、役員退職金の仕訳をしておくべきでしょう。
役員退職金 / 預金
退職給付引当金 / 引当金戻入益
引当金戻入益 / 役員退職金
さて、役員退職金の支給額の決定にあたっては、
一般的には「平均功績倍率法」を使用することが多いわけですが、
来週水曜の本メルマガでは税務上の役員退職金適正額の
算定方法について解説します。
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