2016.03.22

役員退職金の適正額

※2014年8月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

さて、今回は「役員退職金の適正額」ですが、

昭和61年9月1日の裁決を取り上げます(全部取消し)。

役員退職金については、「内国法人が各事業年度においてその退職した役員

に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事

した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその

事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、

その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を

超える場合におけるその超える部分の金額」が過大額とされています。

一般的には功績倍率を用いた算式で計算することが多いですが、中には

退職時の役員報酬が低いため、「最終報酬月額×在任年数×功績倍率」で

計算すると、非常に低い額となってしまう場合もあります。

そういう場合は功労金加算などで調整することになる訳ですが、本件も

これが問題になった事案です。

まずは、前提条件です。

〇 塗装工事業を営む同族会社(売上4,000万円、資本金300万円、

  従業員3名)

〇 更正処分の対象になった期の所得金額は1,302,730円

〇 役員ABに対し、15,552,000円、16,632,000円

  合計32,184,000円の退職金を支給

〇 原処分庁は21,364,000円(A分10,452,000円、

  B分10,912,000円)が過大であるとして更正

〇 Aの最終報酬月額100,000円、勤続年数17年、自己都合退職

〇 Bの最終報酬月額220,000円、勤続年数13年、自己都合退職

この前提の中、国税不服審判所は下記と判断し、更正処分の全部取消しと

したのでした。

〇 Aは、昭和11年1月にF店を創立して以来その経営に従事してきたが、

  昭和40年4月いわゆる法人成りにより請求人を設立後は、その取締役

  として請求人の経営に従事する一方、使用人と同様に現場作業にも従事

  し、請求人の発展に貢献してきたこと

〇 この間の同人の報酬は、昭和40年4月が71,000円、最高は

  退職時の100,000円で、その平均額は84,451円であり、

  同期間中における職人の平均賃金月額は227,500円であつたこと

〇 Bは、昭和33年12月から使用人としてF店に勤務していたが、

  請求人設立後はAと同様取締役に就任し、請求人の経営に従事する一方

  現場作業にも従事し、請求人の発展に貢献してきたこと

〇 この間の同人の報酬は、昭和40年4月が100,000円、最高は

  退職時の220,000円で、その平均額は131,469円であり、

  同期間中における職人の平均賃金月額は222,500円であつたこと

〇 退職役員らの最終報酬月額は、いずれもその在職期間中の職務内容等から

  みて著しく低額であると認められるから、本件の場合、類似法人5社の

  功績倍率を用いて退職役員らの退職給与の相当額を算定するよりは、

  その1年当たりの退職給与の額を用いて算定するのがより合理的な方法

〇 この場合の具体的な方法としては、請求人の事業規模が類似法人5社の

  それと比較してほぼ中程度であると認められることから、類似法人5社

  の1年当たりの退職給与の平均額を基礎とする1年当たり平均額法に

  よるのが相当である

〇 当審判所が類似法人5社の1年当たりの退職給与の平均額

  1,623,764円を基礎として、1年当たり平均額法により退職

  役員らの退職給与の相当額を算定したところ、A27,603,988円

  B21,108,932円となり、これらの金額はいずれも退職役員ら

  に支給された本件役員退職給与の額を上回る

〇 本件役員退職給与のうちには、法人税法第36条に規定する不相当に

  高額な部分の金額はないこととなるから、更正処分はその全部を取り

  消すべきである

いかがでしょうか?

役員退職金は報酬の後払い的な性格も有することから、最終報酬月額だけで

なく、在任期間における支給状況も大きく影響しますが、本件においては、

これも加味された上で、1年当たり平均額法で計算された額が実際の支給額

を下回ったため、更正処分が全部取消しとなった事例です。

もちろん、「1年当たりの平均額は」実際問題としては計算できないため、

最終報酬月額が低い場合は功労金加算等で調整こともありますが、これが

問題になるケースもあります。

では、どのように計算すればよいかという明確な基準がないため、難しい

側面はありますが、役員退職金規定を設けず、敢えて株主総会での決議

のみで決定するという方法もあり得ます。

これは友人の税理士が税務調査の現場で調査官から言われた話なので、

その調査官の私見レベルかもしれませんが、「役員退職金規定があるから、

その算式中の功績倍率や功労金加算率が問題になる」とのことでした。

この話を聞いた時、私は「全てではないが、一理はあるな」と感じました。

いずれにせよ、最終報酬月額が低い際の役員退職金の計算には頭を悩ます

こともありますが、必要以上に保守的にならず、顧問先とリスク等も含め、

相談して決定していくことが必要なのです。

 

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