役員退職金:積上げ方式と支給上の注意点
※2023年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
先週水曜の本メルマガでは、最終月額報酬が著しく低額など
平均功績倍率法がそのまま採用できない(合理的でない)
ケースのリカバリー案について取り上げました。
実はもう1つ、合理的な役員退職金の算定方法があります。
いわゆる「積上げ方式」と呼ばれる方法です。これは
実務上も一般的な方法ですが、詳細に解説しておきます。
功績倍率:代表取締役3.0 取締役2.0
で、退任する役員の変遷を下記であるとします
(面倒なので期間をあえて短くして極端にしています)。
役員報酬(月額) 功績倍率
5年前 (取締役) @ 800,000円 2.0
4年前 (取締役) @ 900,000円 2.0
3年前(代表取締役) @1,500,000円 3.0
2年前(代表取締役) @1,500,000円 3.0
1年前(代表取締役) @ 500,000円 3.0
当 期(代表取締役) @ 500,000円 3.0
このケースで平均功績倍率法をそのまま適用すると、
6年×50万円×3.0=900万円
となるわけですが、積上げ方式を採用すると下記になります。
(80万円+90万円)×2.0+(150万円+150万円)×3.0
+(50万円+50万円)×3.0=1,540万円
積上げ方式は、大企業のように取締役~常務~専務~代取
など役員の中で変遷がある場合など主に採用されていますが、
根拠は明確ではないものの一般的にも合理的な方法であることから、
上記のように取締役の期間がなく、ずっと代表取締役であっても、
最終月額報酬が低額の場合にも適用できるでしょう。
さて、創業者などではなく、一般社員から取締役(~代取)
になったプロパー役員の退職金算定はどうなるのでしょうか。
今月4日配信「役員退職金の法的性格・支給要件・計上時期は?」
でも解説したとおり、従業員(雇用)の立場として退職金が
支給されるかどうかは社内規程があるかどうかで判断されますので、
ケースで分けると下記のようになります。
●従業員退職規程がある場合
一般社員から取締役に就任した際に従業員退職金を支給、
その後、取締役を退任する際に役員退職金を支給
●従業員退職規程がない場合
取締役に就任しても従業員退職金は支給されないが、
役員退職金支給時は
・役員の在任期間で役員退職金を算定
(従業員時代の勤務年数は加算されない)
・退職所得控除の計算上、勤続年数は通算できる
(従業員としての退職金をもらっていないので)
また、私は実際の事案で見たことが無いのですが、
役員退任時(完全な退職時)に、役員退職金と同時に
従業員退職金もまとめて支給するケースも考えられ、
その場合の計算方法・法定調書の記載は下記となります。
国税庁質疑応答事例
「同一年中に一の勤務先から、使用人としての退職金と
役員退職金の双方の支給があった場合の記載方法」
この質疑応答から考えるに、プロパーの役員が退職する場合で、
役員就任時に従業員としての退職金を支給していないのであれば
役員退職金+α を考慮できる可能性があるかもしれません。
なお、役員退職金の算定とは直接関係ありませんが、
退職所得控除などの計算方法における詳細については、
下記にまとめられています(令和3年に改正されています)。
さて、ここまで全8回にわたって役員退職金について
全般的に解説してきました。役員退職金の論点は
多岐にわたるわけですが、特に根本的な考え方が重要になり、
これを誤認していると税務調査での否認リスクが高くなりますので
ぜひ注意していただければと思います。
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