必要経費の立証責任を整理する
※2016年1月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社InspireConsultingの久保憂希也です。
さて、年が明けて3月の確定申告に向けての
準備が始まる時期となりました。ここでどの税理士も
頭を悩ませるのが、顧問先が提出してきた領収書を
どこまで必要経費に計上するかという問題です。
そのような中、個人事業主の税務調査で問題にある
「必要経費の立証責任」について整理しましょう。
まず、「立証責任を負っている」という状況を
概念的に説明すると、
「当事者が自分に有利な要件事実を立証できなければ、
その事実は存在しないという状況になること」
を指しています。
税務調査で考えれば、否認指摘をした税務署(調査官)が、
その証拠(要件事実)をそろえることができなければ
最終的には課税できないわけですから、税務署側に
立証責任があるのが原則であることがわかります。
(否認は税務署にとって有利な事項であるため)
その一方で、こと必要経費に関していえば、
・必要経費になるかどうかは家事費との切り分けを
含めて、微妙な事実認定が必要
・必要経費に関する証拠書類は納税者側にある
・必要経費自体が納税者に有利な要件事実
であることなどから、あくまでも原則として
立証責任は税務署にあるとはいえ、納税者が
ある程度合理的に裏付ける程度の立証をする
必要があるとされています。
例えば、平成25年11月27日の公開裁決事例
では、必要経費の一部である旅費交通費を巡って
下記のように判断されています。
http://www.kfs.go.jp/service/JP/93/04/index.html
※本裁決事例は争点が多いのですが、旅費交通費は
「争点3-2」だけを見ていただければわかります
「必要経費の立証責任については、原則として
原処分庁にあると解すべきであるが、一般に必要経費は
納税者にとって有利な事柄であり、納税者の支配領域内
のこととして証拠資料を整えておくことが容易であるから、
原処分庁が具体的な証拠に基づき一定額の経費の存在を
明らかにし、これが収入との間に合理的対応関係を
有すると認められる場合は、これを超える額の必要経費は
存在しないものと事実上推定され、納税者は、経費の
具体的内容を明らかにし、ある程度これを合理的に
裏付ける程度の立証をしなければ、上記推定を
覆すことはできないと解するのが相当である。」
として、納税者が負けた項目となっています。
本事案のポイントを簡単に書くと、
税務署の旅費交通費認定額は合理的
⇒ それを超える部分を認めて欲しければ
納税者が立証すべき
⇒ しかし、旅費交通費の領収書が保存されていない
⇒ 納税者はカレンダーを提出したが整合性がない
⇒ 他に旅費交通費を裏付ける証拠がない
⇒ だから必要経費に算入できない
とされたものです。領収書がなかったにせよ、
裏付けできる、例えば手帳・スケジュール帳等が
あれば、必要経費として認められた可能性大です。
個人事業主の場合は特に、確定申告時に
まとめて領収書等を提示してきて、年1で
決算を組むことも多いため、本当の経費性を
考えることも難しいのが現実でしょう。
また、その後の領収書の保存がなされていないため、
税務調査での必要経費性をモメる場合も多々あります。
必要経費を保守的に計上しろ、とまでは言いませんが、
税務調査で必要経費性の立証をするためにも、
①必要経費であることをきちんと説明できるか
と合わせて、
②領収書がないものは原則として経費計上しない
また将来的な領収書の保存を念押ししておく
ことが、会計事務所として重要となるわけです。
必要経費は税務調査でどうせ説明するものです。
顧問先には計上判断をする段階で、
説明できるかどうかを求めておくべきでしょう。
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