推計課税の合理性
今回は「推計課税の合理性」ですが、平成25年4月22日の裁決を
取り上げます(全部取消し)。
まずは、前提条件です。
○ 請求人はソフトウェア等の開発業務(本件業務)を行なう個人
→ 平成18~22年分の5年間が無申告
○ 税務調査の時点において、帳簿書類等が保存されていなかった
○ 本件業務に係る外注工賃は現金で支払ったが、外注先から領収証はもらっていない旨を申述
○ 調査官から平成23年分の本件業務に係る収支内訳及び外注工賃の明細を明らかにするように依頼され、平成23年分の収支内訳書を作成し、
同年分の外注工賃の内訳(外注先6件)及び本件調査の期間中に外注先から交付を受けたとする計11枚の各領収証を提示
→ 合計額21,320,250円
○ 請求人は平成21年分及び平成22年分の本件業務に係る外注工賃の
一部であるとして、外注先2件から交付を受けたとする計4枚の領収証を調査官に提示
→ 平成21年分の合計額5,722,500円
→ 平成22年分の合計額5,670,000円
○ 原処分庁は本件各年分においても、平成23年分の収支内訳書と同様の
外注工賃の支払があったのか否かが明らかではないため、旅費交通費等の一般経費のみ控除したものを所得金額と考えた
○ 請求人は平成23年分の収支内訳書をベースに外注工賃も考慮して、
所得金額を計算し、本件各年分の期限後申告をしたところ、更正された
○ 争点は、請求人が採用した推計の方法に合理性があるか否か
そして、国税不服審判所の判断は下記となったのです。
○ 推計の方法が合理的であるというためには、
・ 推計の基礎事実が正確に把握されていること
・ 推計方法としてその事案に最適な方法が選択されていること
・ 具体的な推計方法ができるだけ真実の所得に近似した数値が算出されるような客観的なものであることを要すると解される
○ 推計の基礎となる年と推計の対象となる年との間に、業界に共通した経済事情の変化、納税者の事業内容、事業規模、事業場所等の変化など、推計すべき課税要件の算定に影響を与えるような事情の変化がない限り、推計の対象となる年分の本人が計算した比率は、推計の基礎となる年分と同様であると推認して、本人比率による推計方法により課税要件等を推計することができると解される。
○ これを本件についてみると、異議審理庁は請求人の推計の基礎となる
平成23年分の事業所得の金額を本件収支内訳書により実額により算定しているところ、当該事業所得の金額は、請求書及び領収証等の証拠資料
並びに外注先への調査の結果などに裏付けられた総収入金額及び必要経費の額を基礎としているから、正確な本人比率を算定することができると認められる。
○ 算定された平成23年分の事業所得の金額は、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。
○ 推計の対象となる本件各年分と推計の基礎となる平成23年分との間において、請求人について本人比率に変動を来たすと認められるほどの経済事情の変化や、事業内容及び事業規模の変化等の特段の事情があったとは認められない
○ 本件各年分及び平成23年分における本件業務は、消費者金融向けシステム開発支援作業などと称するプログラムやソフトウェアの開発業務であり、当該各年分における本件業務の内容に同一性があると認められる
○ 本件業務は、その内容、金額及び業務の期間等からみれば、請求人個人のみで行うことは困難な規模の業務であると認められる
○ 得意先から請求人の預金口座に請負代金の振込みがあった都度、その振込金額のおよそ9割を超える金額を引き出しているところ、当該引き出した各金額のうち、平成21年分及び平成22年分の各一部並びに平成23年分の9割超の部分については、請求人が提出した各領収証及び調査担当職員による各外注先への調査の結果等によって、外注工賃の支払に充てられた事実が裏付けられている
○ 情報調査担当職員が、請求人が本件業務に使用したとするパソコンのフォルダ内の確認を行ったにも関わらず、本件業務に関係するものが全く見当たらなかったことは、請求人が本件業務の全てを外注に出していたことと矛盾しない
○ 外注工賃などの特別経費は、個別性が高く、収入金額との比例関係が一般経費に比べ希薄と考えられるものの、本件の場合、平成23年分と本件各年分においては、ソフトウェア等の開発業務である本件業務の内容及び常に外注工賃が存在するという業態に同一性があると認められ、請求人は受注した本件業務について、請求人自身がソフトウェア等の開発業務を行うことなく、全て外注に出していたと認められることからすれば、収入金額と外注工賃とに、一般経費と同じように比例関係があるというべき
こう判断し、請求人の主張を全面的に認めたのでした。
他の税理士の事案も含め、色々な推計課税の指摘を見たことがありますが、
中には「それは強引だろう」と思うものも少なくありません。
確かに、納税者側が保存しておくべき帳簿書類等を保存していないという落度はあったにせよ、合理性の無い計算までも許容される訳ではありません。
どんなに間接的根拠の積み上げであれ、それが真実の所得に近いならば、それが認容されるべきなのです。
なお、このテーマに関する下記の税大論叢がありあますので、併せてご覧になると、より理解が深まるでしょう。
「推計課税と実額反証に関する裁判例の分析」
https://www.nta.go.jp/ntc/kenkyu/ronsou/28/209/hajimeni.htm
※ブログの内容等に関する質問は一切受け付けておりませんのでご留意ください。
※2014年6月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。