更正があるべきことの予知と修正申告(その2)
※2015年8月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
今回は「更正があるべきことの予知と修正申告(その2)」ですが、
昭和61年6月23日の東京高裁判決を取り上げます。
8月17日に配信したメルマガで、税務調査の途中で修正申告書の提出が
された場合の「更正があるべきことの予知」につき、納税者勝訴の判決を
ご紹介しました。
今日はこの続きですが、では、「更正があるべきことの予知」の意義とは
どう考えられるのでしょうか?
また、その立証責任はどう考えられるのでしょうか?
この事例は下記の状況でした(簿外取引があった事例)。
○昭和47年3月23日、東京国税局の職員が東京銀行八重洲通支店を
調査した際、原告の匿名預金1,100万円の存在を発見。
○同日、この事実が同支店職員から原告に通報がされた。
→原告は「この通報を受け、原告の当時の代表取締役倉田は簿外の保留利益を
急速に処理する必要を感じ、翌24日本件修正申告に係る申告書の提出を
決意し、翌25日倉田の指示を受けた原告の当時の常務取締役岡野が
原告の顧問税理士白鳥に修正申告書作成を依頼し、同年4月2日又は
3日午前中までに白鳥税理士に対し本件修正申告資料一切を交付し、
白鳥税理士は右資料に基づいて同月5日には修正申告書作成を完了し、
原告は【自発的に】同月6日本件修正申告をしたものである。」と主張
○4月3日、調査官2名が原告の法人税調査の目的で原告事務所に
臨場して調査を実施した。
○調査官は下記を発見
①原告の簿外商品取引に係る取引内容が記載されていた帳簿
②昭和47年3月末現在の銀行別の預金残高が記載されたメモ
③原告及び原告従業員以外のマルハ商事株式会社、森、小口、一ノ瀬、
林各名義の社印判及び印鑑
④登根武則及び尾谷博史名義の商品取引に関する残高照合書
○調査官は①の帳簿についてコピーをとらなかった。
○④の残高照合書に記載された商品取引及び商品取引所が大阪及び神戸と
遠隔地であつた。
○4月5日、調査官は太陽神戸銀行室町支店の原告の貸金庫を調査した。
○調査官が①の帳簿について、さつと目を通したところその一部には
口取りによつて「日昌物産」と原告名が表示された部分があり、
調査官は不審に思い質問したが満足な回答は得られなかつた。
○調査官は翌日以降も調査を続行する予定であつたし、コピーを取ると
すれば相当な枚数になるため、コピーは取らなかつた。
○③の他人名義の印鑑等は岡野(当時の常務取締役)の机の引出しの中から
発見したものであるが、それぞれの印鑑等について岡野に質問したところ、
同人は精神的に動揺した様子で後ほど説明しますと答えるのみであつた。
○④の商品取引に関する残高照合書については、倉田(代表取締役)の
机上に置いてあつた鞄の中に在つたのであるが、当初倉田は、右鞄は
客の忘れていつたものであるかのような言動をしていたが、中を改めて
前記照合書が出て来た後ようやく自己の鞄であることを認めた。
○調査官は4月3日以降も調査を続行する予定でいたが、翌日から同人が
私用で休暇をとつたため、本件修正申告に係る申告書が提出された
4月6日までには4月5日に調査官が前記原告の貸金庫を調査した以外、
調査はなされなかつた。
○岡野の証言中、前記①の帳簿には口取りはついていなかつた旨述べている
部分があるが、一方何か日昌というようなことは書いてあつたかも
しれないとの供述もあつた。
○同帳簿は簿外商品取引に係る取引内容が記載されていたものであるが、
原告は丸喜商店名義や原告名義で簿外取引を行つていたこと後述のとおり
であるから他と区分する必要があつたことも推測されるところであり、
以上の事実にてらすと右岡野の証言は信用することができない。
○岡野は調査官の同人に対する調査の最後に和光証券の封筒を見つけられて
質問された際、倉田に秘密で個人として定期取引をしていたこと及び
右取引についての脱税の事実が発覚することをおそれて動揺したことが
あつたが、印鑑等を発見された時は、小口名義のものは義弟のものを
預つているものであるが他のものについては記憶がない旨答えたところ
追及もなく動揺したこともなかつた旨供述している部分があるが、
右印鑑等が原告の簿外預金に使用されていた名義のものであり、かつ、
その存在自体が直ちに不審を抱かせるようなものであることにてらし
採用することができない。
○認定した調査当時の状況から、担当の調査官は、原告がなんらかの
不正計算を行つていると推測したことが認められるが、調査当時の状況
からすれば、右推測には十分の根拠があるというべきである。
当然、ここまでの状況に至っているので、東京地裁、東京高裁のいずれでも
納税者の主張は認められず、「更正があるべきことの予知」があった上での
修正申告書と判断され、重加算税の賦課決定処分は適法とされました。
この判決で注目したいのが、「更正があるべきことの予知」に関する
立証責任についてです。
これにつき、東京地裁(東京高裁は原審判決引用としている)は
下記と判断しています。
○修正申告書の提出が、更正があるべきことを予知してされたものでない
ときに例外的に加算税を賦課しないこととした前記法条の趣旨からすれば、
右の点については、調査により更正があるべきことを予知して修正申告が
されたものでないことの主張・立証責任が原告にあるというべきである。
○これを本件についてみると被告が昭和47年4月3日の原告に対する
法人税調査において発見した資料及びその際の岡野の態度等からすれば
その後調査が進行し先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し
更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもつて
認めるに足りる段階に達したというべきであり、かつ、原告は、右被告の
4月3日の調査以前に確定的決意をしていなかつたのであること認定の
とおりであるから、修正申告書の提出は「調査があつたことにより…
更正があるべきことを予知してされたもの」ということができる。
「更正があるべきことを予知」のポイントは「客観的に相当程度の確実性を
もつて認めるに足りる段階に達した」か否かです。
顧問税理士として、税務調査前、税務調査途中で修正申告書の提出を
顧問先に奨めるならば、この段階に達する前に行なうべきなのです。
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