更正があるべきことの予知について(その2)
※2018年4月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「更正があるべきことの予知について(その2)」ですが、
東京地裁判決(平成24年9月25日、全部取消し、確定)を
取り上げます。
先週金曜日のメルマガでも触れましたが、
「更正があるべきことを予知していない」修正申告書は
重加算税の対象にならない旨を解説しました。
根拠は国税通則法第68条(重加算税)第1項の( )書きです。
———————————————————————-
第65条第1項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の
提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより
当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない
場合を除く。)において~
———————————————————————-
結果として、重加算税が課されるか否かは
「更正があるべきことの予知」の有無が大きなポイントです。
では、税務調査(臨場調査)が始まってしまったら、
その「途中」に修正申告書を提出したとしても、
「更正があるべきことを予知してされた修正申告」
に該当してしまうのでしょうか?
上記判決は過少申告加算税に関して争われた事例ですが、
争点は「更正があるべきことの予知の有無」です。
本事例は増加償却の特例の適用要件である増加償却の「届出書」の
提出を行っていないにも関わらず、増加償却の特例を適用して、
申告していた事例です。
そして、臨場調査の途中で、かつ、減価償却に関する資料を
税務調査官に提出した後に修正申告書を提出した事例です。
この前提で東京地裁は下記と判断しました。
キーワードは「客観的確実時期」です。
〇国税通則法65条1項及び同条5項の趣旨や文言に照らすと、
同項にいう「その申告に係る国税についての調査があったことにより
当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」とは、
税務職員が申告に係る国税についての調査に着手し、その申告が
不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、
これによりその後の調査が進行し先の申告が不適正で申告漏れの
存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の
確実性をもって認められる段階(いわゆる「客観的確実時期」)に
達した後に、納税者がやがて更正に至るべきことを認識した上で
修正申告を決意し修正申告書を提出したものでないことをいうものと
解するのが相当である。
〇原告が本件事業年度において増加償却の特例を適用したことについて、
「届出書」提出という要件以外の適用要件が欠落していたことを
うかがわせる証拠は存在せず、原告は、本件届出書を提出していなかった
ことのみをもってこの特例の要件を満たさないことになり、
ひいては本件確定申告書における申告が不適正なものとなったものと
認められるから、本件においていわゆる客観的確実時期に達していた
というためには、本件届出書の不提出が発見されるであろうことが
客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達していたことが
必要であるというべきである。
〇本件調査担当者が、減損損失や遊休資産設備償却費等の減価償却計算の
適否に係る調査を行っていたからといって、更に調査を進めて
償却限度額の再計算を行い、ひいては本件届出書の確認をすることに
なることが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に
至っていたとは到底いうことができず、単にそのような一般的抽象的可能性が
あったにすぎない状況にあったというべきである。
〇そして、このように申告が不適正であることの発見につながる
一般的抽象的可能性を有するにすぎない程度の調査がされていたに
とどまる段階で、いわゆる客観的確実時期に達していたものと
認めることは、上記~で述べたとおり、国税通則法65条5項の
趣旨や文言に照らして相当ではない。
〇したがって、本件調査担当者が減価償却計算の適否に係る調査を
行っていたとしても、本件修正申告書が提出された時点では、
本件届出書の不提出が発見されるであろうことが客観的に
相当程度確実であったとは認められないから、
いわゆる客観的確実時期には達していなかったものというべきである。
〇そして、臨場調査中に〇〇税務署に本件届出書の提出の有無を
直接確認すれば、それをきっかけにして本件届出書の不提出が発覚して
法人税の更正がされ過少申告加算税を賦課される可能性があると
考えていたことが推認されるものの、乙(注:経理部課長)が、
〇〇税務署に確認すれば上記のような可能性があると
考えていたからといって、本件臨場調査の進展に伴って
本件調査担当者が本件届出書の不提出に気付き、
更正されることを乙が予知していた事実まで推認することは
できないのであるから、被告の上記主張は採用することができない
いかがでしょうか?
これは国税通則法の改正前において争われた事例ではありますが、
争点が「更正があるべきことの予知の有無」という点においては、
現時点で応用できる事例となります。
結果として、臨場調査中であったとしても、
「更正があるべきことを予知していない修正申告」に関しては
重加算税の対象にならないのです。
是非、覚えておいて頂ければと思います。
※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。