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2016.05.16

書面によらない贈与が認められなかった事例

※2014年12月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

日本中央税理士法人の見田村元宣です。

さて、今回は「書面によらない贈与が認められなかった事例」ですが、

平成23年8月6日の裁決を取り上げます。

まずは、この事案の概要です。

○ 相続開始は平成19年5月〇日(亡くなる直前まで十分な意思能力あり)

○ 請求人(=複数の相続人)名義の各定期預金は被相続人からの死因贈与に

  より、それぞれ取得されたものと認められるから、相続税の課税財産に

  該当するとして、更正(請求人の1人だけは修正申告に応じた)

○ 本件各定期預金は平成10年8月24日、平成15年12月25日、

  平成16年1月6日に一斉に預け入れ(元利金自動継続であり、相続

  開始日において解約されていない)

○ 信用金庫は本件各定期預金の満期のお知らせ等を、請求人のそれぞれの

  住所地へ送付

○ 銀行印は被相続人名義の預金の届出印鑑としても使用され、被相続人の

  自宅にて保管

 
○ 請求人は、各定期預金は被相続人の生前に請求人らに対し、贈与されて

  いたものであるから相続税の課税財産に該当しないと主張

この前提の中、国税不服審判所は下記と判断しました。

 
○ 請求人と被相続人との間での贈与契約の成立

被相続人が請求人に対し、平成10年8月1日に1人当たり100万円を、

平成15年8月13日に、平成15年と平成16年にそれぞれ1人当たり

110万円を贈与する旨を話し、実際に、平成10年8月24日に平成10年

各定期預金が、平成15年12月25日に平成15年各定期預金が、平成16

年1月6日に平成16年各定期預金がそれぞれ預け入れられていることは、

被相続人において当該贈与の意思を有していたことを裏付ける事実であると

認められ、請求人は拒むことなく礼を言っているものと認められることから

すれば、被相続人が本件各定期預金についての贈与の意思表示をし、これに

対し、請求人らが受諾の意思表示をしたものと認められる。

また、当該贈与の意思表示の書面は作成されていないことからすると、

被相続人と請求人との間で、いずれも本件各定期預金に関する書面によらない

贈与契約が成立したものと認められる。

○ 贈与契約の履行の有無

書面によらない贈与は、民法第550条の規定によりその履行が終わるまでは

当事者がいつでもこれを取り消すことができることから、その履行前は目的

財産の確定的な移転があったということはできないので、この場合の贈与の

有無、すなわち、目的財産の確定的な移転による贈与の履行の有無は、贈与

されたとする財産の管理・運用の状況等の具体的な事実に基づいて、総合的に

判断すべきであると解されるところ、本件各定期預金の届出印及び証書の管理

状況に基づいて、本件各定期預金に係る贈与の履行の時期について検討した

結果は、以下のとおりである。

・ 本件各定期預金の届出印の管理状況(以下、人間関係と事実関係を整理

するため、アルファベットを使用します)

本件各定期預金の届出印は、本件○○印及び本件各△△印であり、本件相続が

開始するまで、いずれも被相続人の自宅の寝室の枕元に置かれた時計の引き

出しの中に保管されていたと認められるところ、被相続人の生前中、請求人K、

請求人L及び請求人Mのいずれもが、本件○○印の保管場所を知らず、また、

請求人Jは、平成20年2月か3月頃に請求人Nから本件各△△印を受け取る

までは、本件各△△印を一度も見たことがなかったこと、更に、請求人らは、

被相続人の生前中、本件各定期預金の届出印を、請求人らの固有の印鑑へ改印

をするための手続を行っていないことからすれば、請求人K、請求人L、請求人M

及び請求人Jは、いずれも本件各定期預金の届出印の管理には、全くかかわって

いなかったと認められる。

一方、請求人G及び請求人Nについては、被相続人と生前同居しており、請求人G

にあっては、被相続人の指示を受けて本件各定期預金の届出印を押印している

ことが認められることからすると、被相続人が、本件○○印及び本件各△△印

を、被相続人の自宅の寝室の枕元に置かれた時計の引き出しの中に本件相続が

開始するまで保管していたことを了知していたものと認められるところ、

被相続人が本件○○印を本件被相続人の名義の預金の届出印鑑としても使用

していたことに加え、本件被相続人の生前中、請求人らは、本件各定期預金の

届出印を、請求人らの固有の印鑑へ改印をするための手続を行っていないこと

からすれば、請求人G及び請求人Nにおいても、本件各定期預金の届出印の管理

には、かかわっていなかったと認められる。

その他、本件被相続人は、亡くなる直前まで十分な意思能力を有していたこと

を加味すると、本件各定期預金の届出印は、本件相続が開始するまでの間、

被相続人が管理していたものと認められる。

・本件各定期預金の証書の管理状況

被相続人は、亡くなる直前まで十分な意思能力を有していたこと、本件各定期

預金の預入れに伴って作成された本件各定期預金の証書は、いずれも作成され

た都度、請求人G又は請求人Nが被相続人の自宅においてQ信用金庫g支店の職員

から受領し、その後すぐに被相続人に手渡され、それから1週間程度、

被相続人が所有する手提げ金庫に保管されたものの、当該手提げ金庫の中では

盗難のおそれがあることから、被相続人から請求人Gに手渡され、請求人Gの

耐火金庫に保管されていたこと、請求人M及び請求人Jの各名義の定期預金の

証書は、本件相続の開始後の平成20年の正月に請求人M及び請求人Jに

それぞれ交付されたこと、請求人らは、被相続人の生前中、本件各定期預金に

ついて、請求人らの固有の印鑑への改印及び証書の再発行手続を行っていない

ことからすれば、請求人K及び請求人Lの各名義の定期預金の証書を除く本件

各定期預金の証書は、被相続人の生前中、被相続人の手提げ金庫の中から、

請求人Gの耐火金庫の中に移され、そのまま保管されていたが、それは盗難の

おそれを回避するため請求人Gの耐火金庫を借りただけであって、実質的には

被相続人が管理していたものと認めるのが相当である。
 
もっとも、本件各定期預金のうち、請求人K及び請求人Lの各名義の定期預金の

証書は、遅くとも平成16年2月までには請求人K及び請求人Lにそれぞれ交付

されていることからすれば、本件相続の開始時点において、これらの定期預金

の証書を本件被相続人が管理していたものと認めることはできない。

以上によれば、請求人K及び請求人Lの各名義の定期預金の証書を除く本件

各定期預金の証書は、本件被相続人の生前中、実質的には本件被相続人が

管理していたものと認められるが、請求人K及び請求人Lの各名義の定期預金の

証書については、本件相続の開始時点において、本件被相続人が管理していた

ものとは認められない。

・ まとめ

被相続人が、本件相続が開始するまで、本件各定期預金の届出印及び請求人K

及び請求人Lの各名義の定期預金の証書を除く本件各定期預金の証書を実質的

に管理していたと認めるのが相当であるから、請求人K及び請求人Lの各名義の

定期預金を除く本件各定期預金は、いずれも本件被相続人によって管理支配

されていたものと認められ、これらの贈与はいつでも本件被相続人によって

取り消し得る状態にあったということができるので、請求人K及び請求人Lを

除く請求人らにこれらの確定的な移転があったということはできない。

また、請求人K及び請求人Lの各名義の定期預金の証書は、遅くとも平成16年

2月までには請求人K及び請求人Lにそれぞれ交付されていることからすれば、

請求人K及び請求人Lの各名義の定期預金の証書の管理支配は請求人K及び

請求人Lに移転したものと認められるが、定期預金を自由に運用するためには

その届出印が必要となるところ、当該各届出印は、本件相続が開始するまでの

間、被相続人が管理していたものと認められるから、請求人K及び請求人Lの

各名義の定期預金について確定的な移転があったとまではいうことができない。

○ 被相続人と請求人らとの間で本件各定期預金に係る書面によらない贈与

契約が成立したと認められるものの、被相続人の生前中、贈与の履行があった

とは認められないから、本件各定期預金は贈与によって請求人らが取得した

ものとは認めることができない。

○ 本件各定期預金は、本件相続に係る相続税の課税財産に該当する。

本件は贈与契約(書面によらない)はあったと認めながらも、贈与の履行が

問題になり、財産の「確定的な移転」は無かったとされた事例です。

そういう意味では、前回のブログで書いた通り、

○ 贈与契約書の作成

○ 預金間での資金移動(振込み)

○ 各人ごとに印鑑(銀行印も含め)を作成

○ その後の預金管理(キャッシュカード、通帳や証書、印鑑)は受贈者

という「完全なる贈与の状態」というのが必要となるのです。

相続は専門的知識のない一般納税者が素人考えで進めていってしまう場合も

多く、税理士が付いていたとしても、法人や事業の内容を掌握しているだけで、

個人の資産状況までは把握していないこともよくあります。

そういう意味では、「完全なる贈与の状態」がどういう状態であるのかを

提案していくのが、我々税理士の使命と考えています。

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