書面に捺印しないと調査が終わらないは本当か?
※2016年2月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社InspireConsultingの久保憂希也です。
国税通則法の大改正によって、調査手続きが
詳細になったのはいいのですが・・・
国税内部も文書に追われて調査が長期化する
傾向にあることに加え、納税者から「一筆」を
取りたがる傾向がますます強くなっています。
※ここにいう「書面」とは「質問応答記録書」など、
税務調査内で口頭等でやり取りされたものを文書化
したもので、文書名は問いません。
今までであれば、税務署内を口頭で通していたような事案も、
調査官が作成してきた書面に押印を求めてくることが
本当に多くなり、私への質問もこれに関して急増しました。
ここにきて調査官の常套句となりつつあるのが、
「書面に押印してくれたら調査は終わります」。
逆の言い方としての常套句は、
「書面に捺印しないと調査が終わらない」です。
調査官もこう言っておけば、書面に署名押印してくれる
可能性が高いのでしょう。
まず知っておくべきは、書面への署名押印は調査官自身が
望んでいることではなく、統括官もしくは審理担当が
求めていることだという事実です。
納税者からの発言・事情等を書面にすることで、
課税要件をきちんと満たしている状況を
きちんと作ろうとしている意図があるわけで、
決裁する側としては、書面があった方が確実に
課税できるという背景・事情があります。
(以前はなあなあだったことが問題ではありますが)
その一方で、調査官も書面がないと税務署内を通せないから
仕方がない、というのが本音なのです。
では・・・です。本当に
「書面に捺印しないと調査が終わらない」のでしょうか?
顧問先が税務調査を終わらせてほしいと
強く願っている場合までも、書面に署名押印を断る
強い理由が存在するのでしょうか?
ある税理士が経験した実話を紹介します。
・「書面に捺印しないと調査が終わらない」と言われた
・書面は調査官が作成してきた
・書面には調査内でやり取りした事実関係が載っていた
・その文書内には、「該当する売上を脱漏した」と
書かれていたが、「漏れた」との違いを認識せずに
税理士了解のもと納税者は署名押印した
・合意した内容で修正申告を提出
・後日、重加算税の賦課通知が届き、調査官に
抗議したが「脱漏とは売上除外と同じ意味」と聞いて、
初めて書面の意味を理解した
このように、調査官が提示してきた書面内容を
事前に精査できたとしても、そこに書かれていることは
納税者不利な内容が盛り込まれているリスクがあります。
私は繰り返し本メルマガでも強調しているのですが、
書面を提出することで納税者が有利になるなら
提出した方がいいかと考えます。
しかし現実を考えると、税務署が課税要件を
具備するために書面を作成しているわけです。
これがわかれば、書面に署名押印することは、
納税者不利以外にあり得ないことがわかるはずです。
調査官も書面がなくて課税できるなら、
最初から書面など求めてこないわけですから。
税務署内も、納税者が署名押印した書面がないと
決裁が本当に通らないなら、課税してこない
=納税者有利となります。
また、書面がなくても結局、事実関係が
はっきりしているなら、税務署内の決裁を通る、
もしくは納税者自身が認めているなら、
修正申告を提出することで調査は終わります。
どう解釈しても「書面に捺印しないと調査が終わらない」
はウソ(に等しい)なのです。
無用な書面に署名押印することだけは絶対に避けてください。
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一切受け付けておりませんのでご留意ください。