最終月額報酬が著しく低額である場合の役員退職金算定方法
※2023年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
先週水曜の本メルマガでは、税務上の役員退職金適正額
=損金算入限度額を算定するにあたり、なぜ平均功績倍率法を
採用することが一般的なのか、その根拠について解説しました。
さて実務上は、平均功績倍率法を採用したくてもできない
=合理的ではない例として、最終月額報酬が著しく低額、
またはゼロのケースが考えられます。
私が過去に経験した事案(税務調査ではない)は下記です。
・30期超の同族法人(創業者が会長で息子が社長のダブル代表)
・10年前まで売上10億円超、毎期所得が数千万円
・直近10年は売上減が続いており直近3年は赤字
・数年前から経営者2名の役員報酬を少しずつ減額
・無借金で現預金は数億円
・代表取締役会長が退任するにあたり最終月額報酬は40万円
この事案で、最終月額報酬40万円をそのまま採用すれば、
30年×40万円×3.0=3,600万円
の退職金しか支払うことができません。
次策として考え得るのが、退任を1年伸ばし、来期の役員報酬を
急増させる(例えば役員報酬を3倍にする)ことですが、
最終月額報酬を上げて役員退職金を多額に支給した場合、
税務調査での否認リスクはかなり高まることが知られています
(特に、過大役員報酬報酬で否認されるとダブル課税)。
このように現実的には、役員退職金を算定するにあたって
平均功績倍率法が合理的な方法である前提条件は、
「最終月額報酬が在任期間中における法人に対する
功績の程度をきちんと反映している」ことであって、
この前提条件を満たさない、直近だけ役員報酬が
著しく低額の場合、平均功績倍率法は合理的ではありません
(東京地裁平成25年3月25日判決など)。
さて、最終月額報酬が著しく低額など平均功績倍率法が
合理的ではない場合、裁判例などを参考にすると
「1年当たり平均額法」が示されているケースが多いです。
1年当たり平均額法の算定式(損金算入限度額)
=類似法人の役員退職給与の1年当たり平均額
×退職する役員の勤続年数
この算定式からもわかるとおり、1年当たり平均額法は
「類似法人の役員退職給与」だけを根拠にしているため、
・そもそも類似法人の役員退職給与を調べようがない
・調べることができたとして「類似法人」と言い切れる根拠もない
・退任する役員独自の法人への貢献度が反映されない
など、(事後的な裁判での判断はともかく)支給額を
算定・決定する実務としては採用が非現実的でしょう。
最終月額報酬が著しく低額もしくはゼロの場合、
一般論ではありますが税務調査において、その算定方法が
いかに「合理的」であるかを主張できれば通るものと考えます
(退職金の支給額が不相当に高額である場合を除く)。
上記の事案でいうと、
在任期間中の役員報酬を通算して平均額を算出
(実際には20数年分しか把握できなかった)
⇒
平均役員報酬年額が約1,200万円だったため、
これを基に「適正」月額報酬を算定し、
⇒
30年×100万円×3.0=9,000万円
であれば、税務調査で否認されるリスクは低いはずです。
コロナ禍での業績悪化を受けて役員報酬額を
減額した法人も多いと思いますが、上記のとおり、
最終月額報酬が低額になっている場合に平均功績倍率法は
不合理になりますので、最終月額報酬をそのまま採用する
のではなく、過去分を含めた適正月額報酬を算出することで
合理的であることを主張することも可能なのです。
この方法は、退任期の役員報酬だけを急増させるよりも
よっぽど否認リスクは低いと考えられますので、
ぜひ実務の参考にしていただければと思います。
来週水曜の本メルマガでは、役員退職金を算定するにあたり、
在任期間は従業員としての在籍期間を含むのかなど、
実務上判断に悩みやすい論点について解説します。
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