• HOME
  •  › ブログ
  •  › 最終月額報酬が著しく低額である場合の役員退職金算定方法
2024.11.01

最終月額報酬が著しく低額である場合の役員退職金算定方法

※2023年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

株式会社KACHIELの久保憂希也です。

先週水曜の本メルマガでは、税務上の役員退職金適正額
=損金算入限度額を算定するにあたり、なぜ平均功績倍率法を
採用することが一般的なのか、その根拠について解説しました。

さて実務上は、平均功績倍率法を採用したくてもできない
=合理的ではない例として、最終月額報酬が著しく低額、
またはゼロのケースが考えられます。

私が過去に経験した事案(税務調査ではない)は下記です。

・30期超の同族法人(創業者が会長で息子が社長のダブル代表)
・10年前まで売上10億円超、毎期所得が数千万円
・直近10年は売上減が続いており直近3年は赤字
・数年前から経営者2名の役員報酬を少しずつ減額
・無借金で現預金は数億円
・代表取締役会長が退任するにあたり最終月額報酬は40万円

この事案で、最終月額報酬40万円をそのまま採用すれば、
30年×40万円×3.0=3,600万円
の退職金しか支払うことができません。

次策として考え得るのが、退任を1年伸ばし、来期の役員報酬を
急増させる(例えば役員報酬を3倍にする)ことですが、
最終月額報酬を上げて役員退職金を多額に支給した場合、
税務調査での否認リスクはかなり高まることが知られています
(特に、過大役員報酬報酬で否認されるとダブル課税)。

「最終報酬月額の増額と役員退職給与の関係」

このように現実的には、役員退職金を算定するにあたって
平均功績倍率法が合理的な方法である前提条件は、
「最終月額報酬が在任期間中における法人に対する
功績の程度をきちんと反映している」ことであって、
この前提条件を満たさない、直近だけ役員報酬が
著しく低額の場合、平均功績倍率法は合理的ではありません
(東京地裁平成25年3月25日判決など)。

さて、最終月額報酬が著しく低額など平均功績倍率法が
合理的ではない場合、裁判例などを参考にすると
「1年当たり平均額法」が示されているケースが多いです。

1年当たり平均額法の算定式(損金算入限度額)
=類似法人の役員退職給与の1年当たり平均額
×退職する役員の勤続年数

この算定式からもわかるとおり、1年当たり平均額法は
「類似法人の役員退職給与」だけを根拠にしているため、

・そもそも類似法人の役員退職給与を調べようがない
・調べることができたとして「類似法人」と言い切れる根拠もない
・退任する役員独自の法人への貢献度が反映されない

など、(事後的な裁判での判断はともかく)支給額を
算定・決定する実務としては採用が非現実的でしょう。

最終月額報酬が著しく低額もしくはゼロの場合、
一般論ではありますが税務調査において、その算定方法が
いかに「合理的」であるかを主張できれば通るものと考えます
(退職金の支給額が不相当に高額である場合を除く)。

上記の事案でいうと、

在任期間中の役員報酬を通算して平均額を算出
(実際には20数年分しか把握できなかった)

平均役員報酬年額が約1,200万円だったため、
これを基に「適正」月額報酬を算定し、

30年×100万円×3.0=9,000万円

であれば、税務調査で否認されるリスクは低いはずです。

コロナ禍での業績悪化を受けて役員報酬額を
減額した法人も多いと思いますが、上記のとおり、
最終月額報酬が低額になっている場合に平均功績倍率法は
不合理になりますので、最終月額報酬をそのまま採用する
のではなく、過去分を含めた適正月額報酬を算出することで
合理的であることを主張することも可能なのです。

この方法は、退任期の役員報酬だけを急増させるよりも
よっぽど否認リスクは低いと考えられますので、
ぜひ実務の参考にしていただければと思います。

来週水曜の本メルマガでは、役員退職金を算定するにあたり、
在任期間は従業員としての在籍期間を含むのかなど、
実務上判断に悩みやすい論点について解説します。

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

著者情報

久保憂希也

毎週水曜日に配信する『税務調査対策のメールマガジン』では、最新の税務調査事情はもちろんのこと、調査官の心理、税務署のウラ側など元国税調査官だからこそ語れるマニアックなテーマまでをお届けします。
「こんなことまで話して本当に大丈夫ですか?」 と多くの反響を頂く税理士業界では話題のメルマガです。
お名前とメールアドレスを登録するだけで 毎週【 無料 】でメルマガを配信いたします。