未成年者に対する贈与と贈与税の申告
※2015年11月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「未成年者に対する贈与と贈与税の申告」ですが、
平成19年6月26日の裁決を取り上げます。
相続税の改正を受け、贈与をしている方も沢山いますが、贈与に関しては
誤解している方も多く存在します。
よくあるのが未成年者に対する贈与ですが、この理解が正しくされて
いないケースもあります。
まずは、「贈与」について定めた民法549条を見てみましょう。
———————————————————————
贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、
相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
———————————————————————
これを踏まえた上で、本裁決で判断された考え方を見てみましょう。
<法令解釈>
〇親権者が未成年の子に対して贈与する場合の贈与契約の成立について
贈与契約は諾成契約であるため、贈与者と受贈者において贈与する意思と
受贈する意思の合致が必要となる(民法第549条《贈与》)が、親権者
から未成年の子に対して贈与する場合には、利益相反行為に該当しない
ことから親権者が受諾すれば契約は成立し、未成年の子が贈与の事実を
知っていたかどうかにかかわらず、贈与契約は成立すると解される。
〇 贈与税の申告事実と贈与事実との関係について
納税義務は各税法で定める課税要件を充足したときに、抽象的にかつ客観的
に成立するとされ、贈与税の場合は、贈与による財産の取得の時に納税義務
が成立する(通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の
確定》第2項第5号)とされるが、この抽象的に成立した贈与税の納税義務
は、納税者のする申告により納付すべき税額が確定(申告納税方式)し、
具体的な債務となる。このような申告事実と課税要件事実との関係については、
「納税義務を負担するとして納税申告をしたならば、実体上の課税要件の
充足を必要的前提要件とすることなく、その申告行為に租税債権関係に
関する形成的効力が与えられ、税額の確定された具体的納税義務が成立する
ものと解せられる」(高松高裁昭和58年3月9日判決)と示されている
ことからすると、贈与税の申告は、贈与税額を具体的に確定させる効力は
有するものの、それをもって必ずしも申告の前提となる課税要件の充足
(贈与事実の存否)までも明らかにするものではないと解するのが相当
である。
そうすると、贈与事実の存否の判断に当たって、贈与税の申告及び納税の
事実は贈与事実を認定する上での一つの証拠とは認められるものの、贈与
事実の存否は、飽くまでも具体的な事実関係を総合勘案して判断すべきと
解するのが相当である。
<争点について>
〇贈与税の申告と贈与事実について
請求人は、平成6年分の贈与税の申告及び納付の事実は、少なくとも本件
株式の贈与が実行されたことを証するに十分であると主張するので、
以下検討する。
請求人は、本件更正の請求の際に、本件贈与税申告書控の写しを提出して
いるが、同人は、上記贈与税の申告手続をしていない旨答述し、当審判所に
対し本件贈与税申告書控の原本を提示せず、また、当審判所の調査に
おいても、■■■■■においては、平成6年分贈与税の申告書が既に廃棄
されていることから、その確認はできないものの、■■■■■は■■■■
から申告の依頼を受けた旨答述していること、本件贈与税申告書控の写し
には、請求人の当時の住所・氏名及び押印(■■の印)、税理士の住所・
氏名が記載され、さらには、■■■■■の収受印が押印されていることから
すれば、平成6年分の贈与税の申告の事実は推認できるところである。
しかしながら、贈与事実の存否の判断に当たって、贈与税の申告及び納税の
事案は、贈与事実を認定する上での一つの証拠とは認められるものの、
それをもって直ちに贈与事実を認定することはできないと解すべきである
から、この点に関する請求人の主張は採用することはできない。
〇贈与の事実について
・本件については、請求人に係る平成6年分贈与税の申告書の提出があった
ことは推認されるものの、贈与税の申告事実をもって直ちに贈与事実が
あったとは認められないことに加え、贈与事実についての直接証拠は請求人
の答述のみであることから、本件株式に係る贈与事実の存否については、
具体的な事実関係を総合勘案して判断する必要があるところ、本件被相続人
は、①本件株式の贈与において贈与者の立場である一方、受贈者の立場でも
あったことから、本件被相続人は請求人のために株主として権利行使が
できるよう取締役会の承認を得るべく働きかけるのが通常であるところ、
そのような行動をとった事実は認められないこと、②本件被相続人は■■
の代表取締役として■■と■■■■との間で保証委託契約を締結したと
認められるところ、本件株券の発行時期と担保提供の時期とがほぼ同時期で
あることから、同契約の担保として本件株券を■■■■に差し入れるために
本件株券を発行したと認められ、かつ、同人は、■■の代表取締役の立場で
上記担保提供の申入れを行うとともに、本件会社の株主であったことから
して、同人は、どのような形で本件株券が発行されるか十分知りうる立場に
あったにもかかわらず、本件株券の記名者及びその株式数について異議を
申し立てたような事実は認められないこと、③平成11年分及び平成12年
分の「財産及び債務の明細書」には本件株式の贈与がなかったとした場合の
本件会社の株式数を記載していること、④■■■■から返還された本件株券
の管理を行っていたことから、本件株式を自己の所有財産として認識した
上で行動していたことがうかがわれる。また、請求人も本件株式の贈与に
ついて認識し、同人の所有株式数を認識していたと答述するにもかかわらず、
同人は、①本件会社が、本件株券の発行に際して、記名者及びその株式数を、
本件被相続人■■、請求人■■としたことを、同社の代表取締役として
知りうる立場にあったにもかかわらず、異議を申し立てたような事実は
認められないこと、②本件被相続人の申入れにより、本件会社の■■■■に
対する本件被相続人所有■■及び請求人所有■■の本件株券の担保提供に
関する取締役会の承認に関する取締役会議事録には、請求人の押印がある
こと、③平成12年1月31日の贈与に関する「取引相場のない株式(出資)
の評価明細書」には本件株式の贈与がなかったとした場合の本件会社の
株式数を記載していること、④本件株式を含む本件会社の株式(■■)を
自己の取得財産として記載した■■■■付遺産分割協議書に押印している
こと、⑤■■■■付遺産分割協議書の作成前である平成16年8月25日付
の本件会社の株主総会の議事録及び平成17年1月21日付の第17期
定時株主総会の議事録には、請求人の議決権数は■■■と記載されている
ことの各事実からすると、本件株式が請求人に贈与されたとは認め難く、
かえって請求人においても、本件株式が本件被相続人の財産に属するとの
認識の下に、本件被相続人の生前及び相続開始後も遺産分割協議書の作成に
至るまでの間、行動していたと認められる。
そうすると、本件被相続人及び請求人のこれらの行動を併せ考えると本件
株式の贈与があったと認めることはできない。したがって、本件株式は、
本件相続に係る相続財産となるから、原処分庁がした本件通知処分は適法
である。
・なお、請求人は、贈与していないにもかかわらず、贈与税の申告をして
納税をすることについての本件被相続人又は請求人のメリット(かかる
行為をした合理的理由)はどのような場合を想定しても考えられない旨
主張する。しかしながら、本件被相続人が■■■■■■■■してしまった
状況下では同人の真意は明らかでないが、推測するに、平成6年から■■の
上場を目指していたと認められるところ、同人は、本件会社が■■の前身
である■■■■■■■■■■■の発行済株式数の■■の株式を、また■■に
合併した■■■■■■■■■の発行済株式数の■■の株式をそれぞれ所有
する筆頭株主であることから、上場を目指し始めた■■の信用面において、
同人が本件会社の筆頭株主の地位を維持する必要があると考えつつも、
一般的にみて株式を上場した場合にはその株式の評価額が上昇することから、
■■の上場後に本件株式を贈与し、又は相続があった場合には税負担が
高額となることを懸念したのではないかとも考えられるところである。
そこで、同人は、■■の上場前に若干の税負担をしてでも本件株式に係る
贈与税の申告書を提出し、比較的低額な納税で済ませておき、本件株式が
同人名義のまま将来相続が発生した場合でも、請求人が課税当局に対して、
本件株式は既に請求人に対して贈与されたものであることを主張できる
ようにしたと考えることも可能である。
上記のように考える余地もあるから、本件被相続人が本件株式を請求人に
贈与していないにもかかわらず、贈与税の申告をし、納税をしたことを
もって、これをあながち不自然なものであると評価することはできない。
いかがでしょうか?
当然ですが、贈与税の申告及び納税がされていれば、贈与が成立する
訳ではありません。
また、未成年の子や孫に対する贈与は受贈者本人がその事実を知らなくとも、
成立します。
未成年者に対する贈与は税務調査の現場でも問題になることが多いので、
この考え方を覚えておいてください。
※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。