正当な理由の立証責任
※2015年8月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
さて、今回は「正当な理由の立証責任」ですが、複数の判決を取り上げます。
過少申告加算税に関する国通法第65条第4項では「第一項又は第二項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となつた事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかつたことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する。」とされています。
そのため、「更正があるべきことの予知」が無い場合だけでなく、「正当な理由」がある場合にも過少申告加算税は課されません。
では、この「正当な理由」の立証責任はどちらにあるのでしょうか?
具体的な判決の前に、国通法第116条を記載します。
(原告が行うべき証拠の申出)
第百十六条 国税に関する法律に基づく処分(更正決定等及び納税の告知に限る。以下この項において「課税処分」という。)に係る行政事件訴訟法第三条第二項 (処分の取消しの訴え)に規定する処分の取消しの訴えにおいては、その訴えを提起した者が必要経費又は損金の額の存在その他これに類する自己に有利な事実につき課税処分の基礎とされた事実と異なる旨を主張しようとするときは、相手方当事者である国が当該課税処分の基礎となつた事実を主張した日以後遅滞なくその異なる事実を具体的に主張し、併せてその事実を証明すべき証拠の申出をしなければならない。
ただし、当該訴えを提起した者が、その責めに帰することができない理由によりその主張又は証拠の申出を遅滞なくすることができなかつたことを証明したときは、この限りでない。
2 前項の訴えを提起した者が同項の規定に違反して行つた主張又は証拠の申出は、民事訴訟法 (平成八年法律第百九号)第百五十七条第一項 (時機に後れた攻撃防御方法の却下)の規定の適用に関しては、同項 に規定する時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法とみなす。
では、これを踏まえて、具体的な判決です。
○横浜地裁(昭和51年11月26日)
同法65条2項(現在は4項)は過少申告加算税の課税要件そのものを規定したものではなく、同条1項所定の課税要件を具備する場合であつても、同条2項所定の場合には当該事実に係る増差税額分については過少申告加算税を課さない旨を定めた例外規定であるから、納税義務者の側に右の場合に該当する事由の存在について主張、立証責任があると解するのが相当である。
○東京高裁(昭和55年5月27日)
控訴人ら(見田村注:納税者)は、右賦課処分に関し、国税通則法第65条第2項(現在は4項)に定める正当な理由がなかつたことにつき、被控訴人が主張立証すべきである旨主張するが、右規定の文言上、正当な理由があると主張する者において主張立証の責任を負うものと解するのが相当であるから、被控訴人にその主張立証の責任はなく、したがつて、控訴人らの右主張は理由がない。
○東京高裁(平成18年1月18日)
納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、単なる租税法令の不知又は誤解を超えて、真にやむを得ない理由があるときは、「正当な理由」があるものとして、その正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、過少申告加算税を算出することとなる(通則法65条4項)。そして、この過少申告加算税の例外事由である「正当な理由」の主張立証責任は、納税者にあるものと解すべきである(最高裁平成11年6月10日第一小法廷判決・裁判集民事193号315頁参照)。
○最高裁(平成11年6月10日)
相続財産に属する特定の財産を計算の基礎としない相続税の期限内申告書が提出された後に当該財産を計算の基礎とする修正申告書が提出された場合において、当該財産が相続財産に属さないか又は属する可能性が小さいことを客観的に裏付けるに足りる事実を認識して期限内申告書を提出したことを納税者が主張立証したときは、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるものとして、同項の規定が適用されるものと解すべきである。
しかしながら、上告人ら(見田村注:納税者)が本件において「正当な理由」がある根拠として主張立証する事実をもつてしては、いまだ本件不動産が相続財産に属さないか又は属する可能性が小さいことを客観的に裏付けるに足りる事実を認識して期限内申告書を提出したことの主張立証として十分とはいえず、これに原審の適法に確定したその余の事実関係を併せ考慮しても、上告人らに「正当な理由」があつたと認めることはできない。
何をもって「正当な理由」と言えるかはケースバイケースではありますが、いずれの判決もこの立証責任は納税者にあるとされています。
「正当な理由」で争うケースは少ないかもしれませんが、この立証責任が納税者にあるということは覚えておいてください。
なお、「正当な理由」に関しては、下記税大論叢もありますので、併せてご確認ください。