法人名義の車両の個人的使用と重加算税
こんにちは。日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「法人名義の車両の個人的使用と重加算税」です。
同族会社の場合、法人名義の車両を役員や親族が個人的に使用していることが
あります。
この場合、法人税法第34条第3項の「内国法人が、事実を隠ぺいし、又は
仮装して経理をすることによりその役員に対して支給する給与の額は、
その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない」
を根拠に車両の取得費等が給与として否認され、重加算税までも課される
ことがあります。
この場合、どのように反論していくべきなのでしょうか?
平成24年11月1日の裁決を例に挙げ、考えてみたいと思います。
まずは、この事例の前提条件です。
〇 水商売を営む同族会社
〇 100%株主A(実質経営者、調査対象年度後に代表取締役に就任)の
妻が法人名義の車両を個人的に使用していた
〇 車両の取得費等はAへの給与であり、隠ぺい、仮装に該当するとされた
これに対し、国税不服審判所は下記と判断しました。
〇 請求人が、?本件車両の購入に関する注文の当事者であり、?本件信販
会社を通じて本件車両の売買代金を支払い、?自動車検査証に使用者
として記載されているところ、これらの各事実からすると、本件車両の
取得者は、請求人であると認められる。
〇 この点に関し、原処分庁は、本件車両はAの妻の個人使用の目的で購入
したものであるから、本件車両取得費がAに対する給与であると主張して
いるところ、確かに、本件車両の納車場所や保管場所がAの妻の居宅で
あったことや、本件ディーラーからの連絡先がAの妻であったことなど
からすると、本件車両をAの妻が個人的に利用していることが認められる。
〇 しかしながら、Aの妻が本件車両を個人的に利用しているといえるに
留まるのであって、請求人からAに対して本件車両の贈与があった等、
請求人が一定の行為をしたことにより実質的にAに対して給与を支給
したのと同様の経済的効果をもたらしたとまでは認めることができない。
〇 したがって、本件車両取得費が役員給与に当たるとはいえないから、
原処分庁の主張には理由がない。
〇 本件車両はAの妻が専属的に利用していたと認められるところ、それは、
Aが実質的経営者としての権限を利用して請求人が所有する本件車両を
Aの妻に使用させていたと認めるのが相当である。そして、Aは、請求人
に対し、本件車両関連費用に相当する金員の支払をしていないのである
から、本件車両は、請求人からAに対して無償で貸与されていたと認め
られる。
〇 したがって、Aはこれにより通常支払うべき対価の額相当の利益、
すなわち本件車両について所得税法第36条《収入金額》第1項でいう
金銭以外の物又は権利その他経済的な利益(以下「経済的利益等」という。)
を享受しているということができる。
〇 また、Aは、役員に該当するところ、法人税法第34条第4項は、役員
給与には経的な利益を含む旨規定しているから、本件車両の利用により
享受する経済的利益等も役員給与に当たる。
〇 この場合において、所得税法施行令第84条の2《法人等の資産の専
属的利用による経済的利益の額》は、法人又は個人の事業の用に供する
資産を専属的に利用することにより個人が受ける経済的利益等の額は、
その資産の利用につき通常支払うべき使用料その他その利用の対価に
相当する額(以下「資産利用対価額」という。)である旨規定している。
〇 これを本件についてみると、本件車両を専属的に利用する場合の資産
利用対価額を客観的に算定することは困難であるから、当該資産の取得時
の価値を基礎に算出するのが合理的であり、本件車両の取得価額を基礎と
して、その使用可能期間に占める貸与期間に相当する額を算出した上、
それを当該貸与期間の月数で均等にあん分して算出される金額(以下
「あん分取得価額」という。)及び1か月当たりの本件車両関連費用の
合計額を1か月当たりの資産利用対価額とするのが相当である。
〇 その場合、本件車両の使用可能期間については、資産の使用又は時の経過
による当該資産の価値の減少分を算定する減価償却費の計算における
法定耐用年数を採用するのが相当である。
〇 貸与期間については、その定めがないことから、法定耐用年数と同一と
するのが合理的である。
〇 そうすると、あん分取得価額は、本件車両の取得価額を基礎として、
減価償却資産の耐用年数に関する省令別表第一に定められている年数
(「車両及び運搬具」の「自動車」欄の「その他のもの」)である6年
の期間により、均等にあん分計算するのが相当である。
〇 本件車両関連費用のうち、自動車保険料の額及び本件ローン契約に基づく
支払利息の額は、いずれも一定の契約に基づき継続的に役務の提供を
受けるために支出されるものであり、請求人がこれらの費用を負担した
ことによりAが受ける経済的利益等も継続的に供与を受ける利益である
といえる。
〇 本件車両関連費用のうち、自動車税、自動車取得税、自動車重量税及び
本件ディーラーに対する手数料等(以下、これらを併せて「本件自動車税
等」という。)の額は、継続的に役務の提供を受けるための支出金では
ないから、Aは、請求人がその支払をしたときに経済的利益等を享受した
といえる。
〇 以上を前提に、当審判所において、Aの役員給与に当たる経済的利益等
の額(資産利用対価額)を算定したところ、別表6(省略)の「審判所
認定額」の「支払金額」欄記載のとおりとなる。
〇 原処分庁は、本件車両関連費用について、事実を隠ぺい又は仮装して
Aに支払った役員給与に当たる旨主張するが、本件車両関連費用について
は、それぞれ租税公課、保険料又は支払利息等の勘定科目をもって
その帳簿に記載されており、事実を隠ぺい又は仮装していたと認めるに
足る証拠はないから、原処分庁の主張には理由がない。
いかがでしょうか?
同族会社における税務調査で、この事例と同じような否認指摘を受けることも
あろうかと思いますが、その際はこの裁決を提示し、反論をして頂ければと
思います。
また、事前の対策をするならば、一定の使用料を親族等から徴収することも
必要でしょう。
なお、この事案では争点がいくつかあるのですが、その1つのホステスへの
支払いが給与か?報酬か?で争われたものがあります。
これに関しては、売掛金の回収責任はホステスにないこと、店長がホステスの
勤務時間を管理していたこと等を理由に給与と判断されました。
ホステスに対する支払いは報酬で処理されていることが多いかと思いますが、
売掛金の回収リスクをホステスが負っていない等の場合は給与と否認される
可能性もあるので、ご注意頂ければと思います。
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一切受け付けておりませんのでご留意ください。
※2014年4月当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。