法人成りの個人事業主期間
先日弊社に個別相談があった事案は、医療法人に対する税務調査でした。
個人事業主としてクリニックを経営しており、2009年に法人成り。
税務調査の論点としては、個人事業主時代から引き継いだ資産です。
否認指摘され、反論根拠を考えてみると、
実は、個人時代の税務処理(B/S計上額)が間違っており、
それをそのまま法人が引き継いでいるので、
その時点でそもそも間違っているではないか?
というところに行き着きます。しかし、その旨を
調査官に主張しても受け入れてもらえません。
「個人の申告は正しいものとして取扱います」と言われています。
業種等はまったく違うのですが、2010年にこのような相談もありました。
公共的な土木業なのですが、税務調査の時点でまだ3期目の法人。
そもそも2期しか申告がなく、免税事業者だったのですが、
税務調査に入られ、税理士も不審に思っていたそうです。
税務調査の初日に、「個人事業主に所得があるのに無申告ですよね?」
と調査官に指摘を受けました。
税理士は知らなかったのですが、純粋な新規設立法人ではなく、
その前の5年間、個人事業主として同じ仕事をしていたそうです。
資産の譲渡はなかったので、その点はクリアだったのですが、
個人事業主時代の売上が完全に把握されており
(売上先は公共団体だけなので反面が簡単だったようです)、
「じゃあ個人で期限後申告を提出しますね」と言ったところ、
「いえいえ、個人事業主時代の売上・経費はすべて
法人に乗せて修正申告してもらいます」と言われました。
この事案に関しては、個人事業主時代の所得が高かったため、
法人で修正申告をした方が税額も小さくなり、
消費税も不要なので、逆に喜んだそうです。
(もちろん、不当な否認指摘には反論しました)
さて、この2事案から学ぶべきことは下記です。
①法人の担当者は個人に手を出さない
法人課税部門の調査官は、個人事業主時代の申告を
動かしたがりません。なぜなら、個人で修正・期限後を
慫慂しても自分の成績にならないからです。
②調査の権限は法的に別
質問検査権の規定は、各税目ごとに定められているため、
法人の調査において、個人事業主時代の調査をすることは、
法的に認められません。もちろん、個人課税部門の調査官が
別途調査に来るというなら話は別ですが。
③交渉で選択する
以上から、法人への税務調査において、
法人成り前の個人事業主時代に誤りがあった場合、
調査官として増差を法人に乗せようとしてくるのですが、
ここで税額等を考えて選択をすべきです。
・まとめて法人で修正した方が税額が低い場合
上記後半の事案のように、結果的に個人事業主時代の
所得を法人で修正した方が税額が低くなるのであれば、
そちらで修正に応じるべきです。
(もちろん、何の法的根拠もないのですが・・・)
その方が延滞税も安くなります。
・法人で修正した方が税額が高くなる場合
このときは、「帰属する所得はあくまでも個人なので、
個人時代の誤りは個人で修正する」と言い切ることです。
もちろん、こちらの方が法的に正しいわけですから、
言い切って何ら問題ありません。
この場合、個人課税の調査官が新たに追加される
可能性が高いので、手続き的には面倒になります。
しかし、「調査官の都合」だけで法人の増差にしようと
しているわけですから、本来の税務処理からしても、
法人での修正に応じる必要などないのです。
(これで、法人に更正などできるはずがないのですから)
このような事案は、増差税額と延滞税を計算してみて、
どちらが得なのかで調査官に交渉すべきなのです。
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