法人成り前・個人事業主の調査事績はどこまで影響するか?
※2023年7月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
先週・先々週水曜の本メルマガでは、無予告調査の要件等
について解説しましたが、今回は無予告調査にも関連して、
個人事業主から法人成りした場合、個人事業主時代の
税務調査が法人の税務調査にどこまで影響するのかを解説します。
まず前提ですが、税務署内における調査先の選定は概略的に、
KSK(国税総合管理)システムによる抽出(一次選定)をかけ、
調査官による確認・突合等(二次選定)という流れになります。
KSK上で「法人成り」と登録されているのは、
法人の設立届出において法人成りであることを明示している
ケースが典型例でしょう(届出「設立の形態」1の「個人企業を
法人組織とした法人である場合」にチェック・記載あり)。
また、設立届出で法人成りと明示していない場合であっても、
法人1期目の決算書(引継ぎ資産等)や消費税申告など
を見れば(外形的にでも)判明することがあります。
KSK上で法人成りと登録されている場合であっても、
法人の課税事績と個人の課税事績はデータ上で
連携されていませんので、個人事業主時代の課税事績が
一次選定に影響を及ぼすことはありません。
次に、調査官による二次選定ですが、KSKのデータ登録、
もしくは法人税・消費税の申告内容から法人成りと認識した場合、
法人課税部門の調査官は個人課税部門に照会をかけ、
個人事業主時代の調査事績を調べることになります。
裏を返すと、調査官が法人成りを把握していないケースでは、
個人事業主時代の調査が法人の調査選定および
調査内容に影響を及ぼすことはありません。
さて、個人事業主時代の税務調査において、
・多額な増差所得/税額があった
・不正によって重加算税を賦課されていた
・原始帳票類を破棄していた(推計課税など)
などの調査事績が判明した場合、法人が調査選定される
確率は上がることになります。特に、重加算税の課税事績が
あれば調査確率はかなり高くなるでしょう。
また、個人事業主時代の調査事績によっては
法人の調査が無予告で実施される可能性もあります。
「税務調査手続等に関するFAQ」 問2-5
(職員用 共通 令和4年6月 国税庁課税総括課)
個人事業を営んでいた際に行われた複数回の調査において、
その都度多額の不正があり、原始記録等も破棄していた
個人事業者が法人成した場合に、その状況をもって事前通知の
例外事由に当たると判断できるか(法人成後、調査未実施)。
(答)
個人事業時の調査において把握した状況も、代表者の税に対する
認識という観点から、事前通知を行うことなく調査を実施する場合の
判定の一要素にはなるものの、それのみをもって判断するのではなく、
内外観調査を含めた資料情報、申告内容等から事前通知の
例外事由に該当するかを総合的に判断することとなります。
上記のとおり、無予告調査を実施するかどうかは
あくまでも(税務署の)「総合的な」判断にはなるのですが、
このFAQの書き方からしても、個人事業主時代の
調査内容等が「悪質」だと判断されれば、法人に対して
無予告調査を実施する重要な判断要素になり得ます。
ここまで解説してきたとおり、個人事業主時代の調査事績が
法人の調査選定・確率にどの程度影響するかは、
税務署が法人成りを認識しているかどうかによってかなり
相違するわけですが、法人成りと認識されている場合、
調査官は(ほぼ間違いなく)個人事業主時代の調査事績を
照会・見るでしょうから、かなり影響すると認識した方がいいでしょう。
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