法人所得分散:グループ内取引がある場合と無い場合の否認根拠
※2023年11月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
法人において節税?を簡単に実行する方法として、
税理士・会計事務所が提案することが多いのは、
同じ株主・代表者で別会社を設立する=兄弟会社を作ることです。
複数の法人を持つメリットは単純で、法人所得800万円以下の
税率が低いことから、売上・所得を分散するだけで
実効税率は簡単に下がりますし、交際費枠が超えている法人は
それだけで交際費枠が倍になることは誰しもがわかる論理です。
同一法人で2以上の事業を行っているのであれば、
別会社化するには合理性=もっともな理由があるわけですが、
単一事業ではあっても、役割や顧客を分割することがあり得ます。
・営業部分と作業部分の役割を法人ごとに変える(下請け)
・○○の顧客はこちらで××の顧客はあちらと固定的に分ける
さて、このように複数法人に分社化して経営することで、
実効税率を下げる=グループ全体で税負担額を下げるにより
税務調査で否認されることはないのでしょうか、あるとすれば
何を根拠に否認されるのでしょうか。
まず、「営業部分と作業部分の役割を法人ごとに変える」など、
兄弟会社間で受発注の取引がある場合ですが、
あり得る否認根拠は(法人税法上の)寄附金です。
これはどんなグループ会社間取引でも同じですが、
所得調整や(銀行対策のため)赤字回避を目的として、
期中に受発注金額や率・単価などを変えている場合、
「経済合理性がない取引」、もしくは取引金額が
「時価(第三者に依頼した場合の金額)から乖離している」
として、寄附金認定されるリスクが高くなります。
このように、グループ会社間取引がある場合は、
年間ごとに取引条件等を変更することに合理性はあっても
(実態に即した改定をする)、実質的な所得調整となれば
発注側=寄付金、受注側=受贈益として課税されてしまい、
もはや所得分散による節税メリットは成り立たなくなります。
さて、同一事業において「顧客を分ける=グループ内取引ナシ」
のケースを考えてみましょう。
例えば、仕入や設備投資の無いコンサル事業などの場合、
クライアント50社を25社ずつに分け、新規契約ごとに
どちらかの兄弟会社に割り振る手法があり得ます。
このような所得分散のケースにおいて、税務署が
否認できる根拠は「行為計算否認」になります。
法人税法第132条(同族会社等の行為又は計算の否認)
税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は
決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、
これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる
結果となると認められるものがあるときは、その行為又は
計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、
その法人に係る法人税の課税標準若しくは
欠損金額又は法人税の額を計算することができる。
行為計算否認が適用された場合の引き直し計算を、
具体的な例で示すと下記のようになります。
売上3,000万円 所得800万円 法人税額120万円
の兄弟会社が2社あり、行為計算否認が適用
(2社合計の所得1,600万円 法人税額240万円)
⇒
売上6,000万円 所得1,600万円 法人税額300万円
(課税上、1社に集約して所得・税額計算が行われる)
⇒
240万円と300万円の差額である60万円に課税
これが行為計算否認の引き直し計算で、2社に所得分散
されることによって、全体の租税負担を不当に減少させる結果
となった場合に適用される可能性があります。
一方で、上記のような兄弟会社で所得分散を行っていても、
実務上・現実的に行為計算否認が適用されない理由としては、
行為計算否認の適用要件として「法人税の負担を不当に
減少させる結果となる」と規定した【不当】の解釈には、
行為の手法(経済合理性の無さ)のみならず、
金額の不当性(大小)があることから、上記のような
数十万円程度の税負担減少は適用しない(できない)
という国税側の適用基準があるからです(逆に言えば、多額な
税負担の減少になっていれば適用可能性が上がる)。
税負担減少額が少額であれば、税務署も
課税しない・できないというのが実態ではあるものの、
絶対に否認できない・否認論拠が無いわけではありません。
このリスクについては認識しておくべきでしょう。
また、個人事業主が同族法人に対して外注費を流し、
それが否認対象となる事案は上記と違う観点になりますので、
下記の2記事(過去メルマガ)を併せて参照してください。
「個人事業主から同族法人への外注費が否認された事案」
https://kachiel.jp/?p=27438
「個人から同族法人への外注費が否認される論拠」
https://kachiel.jp/?p=27986
※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。
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