消費税の計算誤りの事例
こんにちは。日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「計算誤りと更正の請求」です。
国税通則法第23条では更正の請求につき定めていますが、「当該申告書に
記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つて
いなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出に
より納付すべき税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の
税額)が過大であるとき」が第1項第1号の内容です。
つまり、「法律の規定の不遵守」または「計算誤り」が前提ということです。
これに関して争われた事例(東京地裁、平成18年12月8日、確定)を
取り上げてみましょう。
まずは、前提条件です。
〇 魚介類販売等を業とする株式会社で、神奈川県を中心に25店舗あり
〇 消費税の申告につき、積上計算方式を選択するため、「規則22条の
適用」欄の「有」欄に〇をした
〇 会計事務所の担当者が誤り、1店舗については積上計算を採用したが、
その他の店舗については総額計算方式を採用し、消費税の申告をした
〇 計算誤りを理由に更正の請求をしたが、認められなかった
しかし、東京地裁は原告(納税者)の主張を認め、下記と判断しました。
〇 本件確定申告は、原告の経営する全店舗の消費税額につき、消費税法
施行規則22条1項所定の積上計算方式を選択して申告し、本来であれば
「端数を処理した後の消費税額等を基礎として」計算すべき(消費税法
施行規則22条1項)であったにもかかわらず、コンピュータが介在
することによって、たまたま誤って当該店舗の本体価格と当該取引で
受領した消費税等相当額の合計額から総額計算方式で算定された消費税額
を逆算するのと同様の計算をしてしまったものであるから、納税申告書に
記載した課税標準等又は税額等の「計算に誤りがあったこと」(国税通則
法23条1項1号)に該当するといえる。
〇 この点に関して、被告(見田村注:原処分庁)は、本件確定申告において、
Bについては積上計算方式によって算定した金額を、その他の24店舗に
ついては総額計算方式を適用した金額をもって消費税額等として行っても、
納税者が一部について積上計算方式を適用することも可能であって、その
申告は消費税法施行規則22条1項に反するものではなく適法である、
あるいは、自らの計算方式の選択の誤りを理由として更正の請求を認める
とするのは「納税者の意思によって税の確定が左右されること」(最高裁
昭和62年11月10日第三小法廷判決・訟務月報34巻4号861頁)
を認めることになり失当である旨主張する。しかしながら、被告の上記
主張はいずれも原告が本件確定申告において、B以外は総額計算方式を
選択したことを前提とすることになるものであるところ、原告は前記イの
とおり、本件確定申告において消費税法施行規則22条1項の積上計算
方式を選択しているのであるから、その前提を欠き失当である。
〇 また、被告は、原告が本件確定申告において、Bについては積上計算方式、
その他の店舗については総額計算方式によって、それぞれ各規定に従った
計算を行っており、計算過程に誤りもないとして、「計算に誤りがあった
こと」に当たらない旨主張する。
〇 しかしながら、前記アのとおり、消費税額の算出においては納税者に
計算方式の選択がゆだねられていることからすれば、その納税者の選択の
自由を無視して、納税者がその選択した方式とは別個の法律に規定された
計算方式により計算された数額(なお、本件においては、総額計算方式に
基づいて商品売上高から逆算して算出された消費税額である。)と結果に
おいてたまたま一致したことを理由に、国税通則法23条1項1号の「計
算に誤りがあったこと」の要件に該当しないと判断することはできないと
いうべきであって、被告の上記主張も採用できない。
〇 前記ア②の要件につき、本件確定申告においては、原告の経営する全店舗
について積上計算方式により消費税額等を計算すれば、納付すべき消費税
額について149万1600円、納付すべき地方消費税額について37万
2900円、本件確定申告における申告額よりもいずれも下回ることが
認められるから、上記要件も充足することになる。
〇 したがって、本件更正請求は、国税通則法23条1項1号の各要件に該当
する。
いかがでしょうか?
納税者に計算方法の選択が委ねられている特例等もありますが、それを選択
しておきながら、それに従っていなければ、当然に「計算誤り」になるもの
と解されますが、本事例では東京地裁でやっと正当な判断が出たという点に
注目して頂きたいと思います。
なお、現在は積上計算方式については消費税法施行規則第22条ではなく、
消費税法施行規則附則第2条第3項に規定されているので、ご確認頂ければ
と思います。
3 事業者(消費税法第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が
免除される事業者を除く。次項及び第五項において同じ。)が、課税資産の
譲渡等に係る資産又は役務の税込価格(当該資産又は役務に係る消費税額
及び地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格をいう。次項において
同じ。)を基礎として計算した決済上受領すべき金額を領収する場合において、
その領収に際して当該金額に含まれる消費税額等(当該課税資産の譲渡等に
つき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき
地方消費税額の合計額をいう。以下この項において同じ。)に相当する額
(当該決済上受領すべき金額に百八分の八を乗じて算出した金額をいう。)
の一円未満の端数を処理した後の金額を明示したときは、同法第四十三条
第一項第二号又は同法第四十五条第一項第二号に掲げる課税標準額に対する
消費税額の計算については、当分の間、当該端数を処理した後の消費税額等
に相当する額を基礎として行うことができる。
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