無予告調査の要件とその理由の開示義務
※2023年7月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
先月・先々月と続けて、無予告調査が入られたことに関し
「違法性を指摘できるか?」「どのように抗議すべきか?」と
質問・相談を受けましたので、今回と来週の2回にわたって
【無予告調査】について解説します。
なお、コロナ禍においては無予告調査はほぼ行われていなかった
(そもそも調査官が臨場・対面すること自体が制限されていた)
はずですが、今後は無予告調査が増えると予測しています。
まず、無予告調査の法律要件ですが、
国税通則法第74条の9において「調査する場合は事前通知」
することを原則としたうえで、下記の規定があります。
国税通則法第74条の10
前条第一項の規定にかかわらず、税務署長等が調査の相手方
である同条第三項第一号に掲げる納税義務者の申告若しくは
過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報
その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み、違法又は
不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を
困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に
支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、
同条第一項の規定による通知を要しない。
ここから、無予告調査の法律要件は大きく2つあり、
●違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等
又は税額等の把握を困難にするおそれ
●その他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ
があると(国税が)認める場合には、事前通知をしない
=無予告調査とされているわけですが、具体的な
判断要素は税務調査に関する手続通達に規定されています。
「国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達
の制定について(法令解釈通達)」5-7~5-10
では、顧問先に無予告調査が入られた場合に、
上記を根拠に「規定のようなおそれがないから違法だ」
など、主張・抗議することは可能なのでしょうか。
まず、無予告調査の実施自体は「処分」に該当しませんので、
不服申立てなど法的な手続きをすることはできません。
「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
問21 事前通知無しに実地の調査が行われた場合、
事前通知が行われなかった理由の説明はありますか。
また、事前通知をしないことに納得できない場合には
不服を申し立てられますか。
(答)
法令上、事前通知を行わないこととした理由を説明することとは
されていません。(略)また、事前通知をしないこと自体は
不服申立てを行うことのできる処分には当たりませんから、
事前通知が行われなかったことについて納得いただけない場合でも、
不服申立てを行うことはできません。
また、上記FAQにもありますが、現実的な問題点として、
法律・通達には無予告調査の要件が定められているにも関わらず、
その「理由」や「判断した基準」を開示する規定はないことです。
最新の調査手続きに関する国税内規にも下記とあります。
「税務調査手続等に関するFAQ」
(職員用 共通 令和4年6月 国税庁課税総括課)
問2-7 事前通知を行うことなく調査を実施する場合に、
納税義務者からその理由を問われた場合、 どのように説明すればよいか。
(答)
法令上、事前通知を行うことなく調査を実施する場合にその理由を
納税義務者に説明することは規定されていません。また、
質問検査権に関する判例においては、実定法上特段の定めのない
調査の実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、
これと相手方の私的利益の衡量において社会通念上相当な範囲に
とどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられると
されています。事前通知を行わなかった理由については、質問検査等を
行う上での法律上の一律の要件とされているものではない旨を
納税義務者に丁寧に説明の上、調査への理解と協力を求めてください。
ですから、調査官に対して「無予告調査の理由を教えてください」
と問い、「理由の開示義務はありません」と回答された場合に
食い下がる根拠はありませんし、さらに調査官から
「無予告調査の実施にあたって合理的な選択・判断をしました」
(無予告調査の必要性がありました)と言われると、
それに対して反論・抗議をすることはできないということになります。
このように、無予告調査の要件が規定されているのに、
その規定に反してないかを納税者・税理士から問えない
(問うても理由は開示されない)という矛盾をはらんでいます。
では、無予告調査の全事案において適正に調査手続きが
履行されているかというと、現実的にはそうではないことから、
来週水曜の本メルマガではさらに無予告調査を解説します。
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一切受け付けておりませんのでご留意ください。
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