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2015.10.26

独自の経理処理と重加算税

こんにちは。日本中央税理士法人の見田村元宣です。

今回は「独自の経理処理と重加算税」ですが、

国税不服審判所の裁決(平成8年3月5日)を取り上げます。

この事例の前提条件は下記となります。

〇 請求人は大手電器メーカーに金型を納品する下請けメーカー

→ 金型は下請けメーカーが預かり、成型品を納品

→ 金型は「一定期間」に渡り使用し、その間の修理費等は

  下請けメーカーが負担する

〇 請求人は金型の売上に関し、独自の金型繰延経理基準を作成

→ 費用収益対応の原則を考慮し、売上の一部を前受収益に計上

→ 通産省通達には家電製品に係る補修用性能部品の最低保有期間が

  定められており、請求人は保存義務が6年以上の物を製造しているので、

  6年間の収益の繰延べが合理的と判断 

〇 この経理処理が税法上に根拠がないものとして否認され、

  重加算税も課された

この状況の中、国税不服審判所は下記と判断し、更正内容に関しては

原処分庁の主張を認めました。

〇 本件前受収益は請求人が金型維持費に対応させる目的で任意に計上

  しているものなので、結局、費用の見積計上をしているか、または、

  費用見込額の引当てをしたものと認められる

〇 このような任意の金額の計上は法人税法では認められていない

たしかに、各種引当金のように会計上の合理性からは計上する場合でも、

税法上は認められないものについては損金の額に算入できません。

これは税法にそう書いてある以上は仕方のないことでしょう。

しかし、重加算税に関しては審判所は下記のように請求人の主張を認め、

過少申告加算税を超える部分については取り消されることになったのです。

〇 請求人が税法上の根拠なしに任意の会計基準により、売上の一部を

  前受収益に振り替えたとしても、貸借対照表において、その事実を

  明らかにしている

〇 内訳書で前受収益の内容を明らかにしている

〇 請求人が隠ぺい、仮装して、売上を除外したものではないし、隠ぺい、

  仮装と認めるに足る証拠もない

いかがでしょうか?

結果として、収益が総勘定元帳に計上されていない場合、

重加算税との指摘を受けることはよくあります。

しかし、この裁決以外の下記裁決でも納税者の主張が認められ、

重加算税を回避できているのです。

(1)平成14年4月25日

「雑収入」とすべき部分を「現金」と総勘定元帳で経理処理してしまった

(2)平成17年1月11日

現場窓口での入金帳にその売上の記載はあったが、事務処理上のミスから

総勘定元帳から売上計上そのものが漏れてしまった

これらの事例はいずれも隠ぺい、仮装ではなく、原処分庁もその立証を

できなかったというところがポイントです。

上記(2)日の裁決文にも「通則法第68条第1項に規定する「隠ぺい」

とは、納税者がその意思に基づいて、課税標準等の計算の基礎となる特定の

事実を隠匿しあるいは故意に脱漏することをいうものと解されている」と

あります。

つまり、「その意思に基づいて」=「故意性」が必要ということです。

当然ですが、何らかのミスにより売上計上が漏れてしまった状況と

意図的に売上を除外した状況とは全く意味が違います。

しかし、実際の現場では「漏れてしまったことはミスであり、隠ぺいや

仮装ではない」と説明しても理解されないこともあります。

実際、上記(2)の裁決文でも「調査担当職員にその旨を説明したが

理解してもらえず、調査担当職員に『故意に除外したのではないか。』と

言われた旨」を請求人は答述しています。

 
しかし、故意に除外したかどうかは課税庁が「立証」することであり、

その立証不十分で納税者が勝っている事例は珍しくないのです。

実際、国税不服審判所の裁決(平成9年12月9日)でも下記とされています。

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重加算税の賦課要件を充足するためには、過少申告行為とは別に

隠ぺい又は仮装と評価すべき行為の存在を必要としているものであると

解される。

これを本件についてみると、原処分庁の主張は、請求人が意識的な過少申告を

行ったものであるというにすぎず、 隠ぺい又は仮装であると評価すべき行為

の存在について何らの主張及び立証をしておらず、また、当審判所の調査

その他本件に関する全資料をもってしても、本件貸付金について隠ぺい又は

仮装の事実を認めることはできない。
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秋は税務調査の最盛期ですので、同じような事例で重加算税の指摘を

受けているケースも多いでしょう。

しかし、重加算税の要件はあくまでも「隠ぺい」、「仮装」であり、

その立証責任は課税庁側にあるのです。

その立証がされないままに重加算税と指摘されているケースは多いので、

類似事例の裁決文を提示したり、反論根拠となる部分を抜粋した抗弁書を

作成したりすることが重要なのです。

 

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※2013年11月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

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