生前贈与に関するポイント
※2015年4月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「生前贈与に関するポイント」ですが、
平成19年6月26日の裁決(棄却)、タックスアンサーを取り上げます。
相続税の基礎控除が下がったことにより、生前贈与が注目されています。
しかし、名義預金に代表されるように、税務調査で贈与の事実を否認されて
しまうこともよくあります。
そこで、今日は上記裁決などを参考にしながら、贈与における重要な考え方
の部分をピックアップしたいと思います。
○未成年者に対する贈与は成立するのか?
(法令解釈より)
親権者が未成年の子に対して贈与する場合の贈与契約の成立について
贈与契約は諾成契約であるため、贈与者と受贈者において贈与する意思と
受贈する意思の合致が必要となる(民法第549条《贈与》)が、親権者
から未成年の子に対して贈与する場合には、利益相反行為に該当しないこと
から親権者が受諾すれば契約は成立し、未成年の子が贈与の事実を知って
いたかどうかにかかわらず、贈与契約は成立すると解される。
(参考)民法549条
贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、
相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
○贈与税の申告があれば、民法上の贈与は成立しているのか?
(法令解釈より)
贈与税の申告事実と贈与事実との関係について
・納税義務は各税法で定める課税要件を充足したときに、抽象的にかつ客観的
に成立するとされ、贈与税の場合は、贈与による財産の取得の時に納税義務
が成立する(通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の
確定》第2項第5号)とされるが、この抽象的に成立した贈与税の納税義務
は、納税者のする申告により納付すべき税額が確定(申告納税方式)し、
具体的な債務となる。
・このような申告事実と課税要件事実との関係については、「納税義務を
負担するとして納税申告をしたならば、実体上の課税要件の充足を必要的
前提要件とすることなく、その申告行為に租税債権関係に関する形成的効力
が与えられ、税額の確定された具体的納税義務が成立するものと解せられる」
(高松高裁昭和58年3月9日判決)と示されていることからすると、
贈与税の申告は、贈与税額を具体的に確定させる効力は有するものの、
それをもって必ずしも申告の前提となる課税要件の充足(贈与事実の存否)
までも明らかにするものではないと解するのが相当である。
・そうすると、贈与事実の存否の判断に当たって、贈与税の申告及び納税の
事実は贈与事実を認定する上での一つの証拠とは認められるものの、贈与
事実の存否は、飽くまでも具体的な事実関係を総合勘案して判断すべきと
解するのが相当である。
上記2項目から言えることは、「適法に」贈与を成立させることが重要で、
後日の税務調査のことを想定すれば、贈与契約書の作成などはしておくべき
でしょう。
また、預金の贈与であれば、口座間の資金移動、各人毎の印鑑を分ける、
通帳などは受贈者が管理するなどの状況にもしておくべきでしょう。
○連年贈与(定期贈与)は否認されるのか?
タックスアンサーに下記とあります。
http://www.nta.go.jp/taxanswer/zoyo/4402_qa.htm
この記事があるからでしょうか、税理士が書いた書籍やブログ記事には、
・毎年の贈与額を変えた方がいい
・敢えて110万円を超える贈与をして、贈与税を支払った方がいい
・贈与額110万円以下でも、贈与税の申告をした方がいい
などと書かれているものもの散見されます。
しかし、上記裁決でも示されている通り、贈与はあくまでも民法上の行為
であり、上記3つの状況でなくとも、贈与は充分に成立し得ます。
もちろん、贈与税の申告及び納税は「贈与事実を認定する上での『一つの』
証拠」ではあるので、「部分的に」意味がある要素もありますが、最初の
「毎年の贈与額を変えた方がいい」というのは全くのナンセンスなのです。
当然ですが、毎年の贈与額が同じであっても、贈与は「個別的に」
成り立ちますので、100万円を10年に渡り、「個別的に」贈与する
ことは可能なのです。
もし、これを課税庁側が「1,000万円の贈与が10年に分割されただけ」
と否認するならば、その根拠(贈与契約書など)が必要になります。
しかし、現実問題として、そのような書類が出てくることはまず無い
でしょうから、この立証をすることはほぼ不可能でしょう。
いかがでしょうか?
これらのことに注意し、生前贈与を考えられているお客様に提案していく
ことが税理士として必要なことなのです。
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