生前贈与を保全するためには?
※2014年11月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「生前贈与を保全するためには?」ですが、
平成19年6月26日の裁決を取り上げます。
平成27年1月1日以降に開始する相続をめぐり、新聞や雑誌等でも相続の
ことが話題になり、税理士業界も盛り上がっています。
この相続問題を考えるに当たり、税理士にとっての重要なことは生前の
対策を提案することですが、その重要な方法の1つに生前贈与があります。
しかし、この生前贈与に関し、「適正に」提案できていないケースも多いので、
このポイントを取り上げます。
上記裁決は未成年者に対する贈与が問題になった事案ですが、確定的に言える
ことは「未成年者に対する贈与も成り立つ」ということです。
贈与は民法第549条に定めがあり、「贈与は、当事者の一方が自己の財産を
無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、
その効力を生ずる。」となっているとおり、諾成契約であり、ここに年齢制限
はありません。
税理士が書いた相続の書籍の中には「小学校高学年くらいにならないと、
意思能力がないため、贈与は成立しない」という旨が書かれているものも
ありますが、それは間違っています。
実際、上記裁決でも下記判断が示されています。
○ 贈与契約は諾成契約であるため、贈与者と受贈者において贈与する意思と
受贈する意思の合致が必要となる(民法第549条《贈与》)が、親権者
から未成年の子に対して贈与する場合には、利益相反行為に該当しない
ことから親権者が受諾すれば契約は成立し、未成年の子が贈与の事実を
知っていたかどうかにかかわらず、贈与契約は成立すると解される。
○ 納税義務は各税法で定める課税要件を充足したときに、抽象的にかつ
客観的に成立するとされ、贈与税の場合は、贈与による財産の取得の時に
納税義務が成立する(通則法第15条《納税義務の成立及びその納付す
べき税額の確定》第2項第5号)とされるが、この抽象的に成立した贈与
税の納税義務は、納税者のする申告により納付すべき税額が確定(申告
納税方式)し、具体的な債務となる。
○ このような申告事実と課税要件事実との関係については、「納税義務を
負担するとして納税申告をしたならば、実体上の課税要件の充足を必要的
前提要件とすることなく、その申告行為に租税債権関係に関する形成的
効力が与えられ、税額の確定された具体的納税義務が成立するものと
解せられる」(高松高裁 昭和58年3月9日判決)と示されている
ことからすると、贈与税の申告は、贈与税額を具体的に確定させる効力は
有するものの、それをもって必ずしも申告の前提となる課税要件の充足
(贈与事実の存否)までも明らかにするものではないと解するのが相当。
○ 贈与事実の存否の判断に当たって、贈与税の申告及び納税の事実は贈与
事実を認定する上での一つの証拠とは認められるものの、贈与事実の存否
は、飽くまでも具体的な事実関係を総合勘案して判断すべきと解する
のが相当である。
○ 贈与事実の存否の判断に当たって、贈与税の申告及び納税の事案は、贈与
事実を認定する上での一つの証拠とは認められるものの、それをもって
直ちに贈与事実を認定することはできないと解すべき。
○ 本件は、親権者と未成年の子との間の契約で、親権者自身が贈与者と
受贈者の立場を兼ねていることから、対外的には贈与契約の成立が非常に
分かりづらいものとなることは容易に認識できることであり、かえって、
このような場合には、将来、贈与契約の成立について疑義が生じないよう
契約書を作成するのがむしろ自然ではないかと考えられる。
実際に私が税理士から相談を受けた事例で、贈与税の申告はしているが、
贈与契約書はなく、当時の贈与事実を保全するために、贈与者と贈与の
確認書を作ろうと思ったが、贈与者が既に認知症になってしまっている、
というものもあります。
やはり、贈与した当時に贈与契約書は作成しておくべきですね。
もちろん、民法上は口約束での贈与も成立しますが、贈与契約書が無いと、
後々の税務調査で問題になる可能性は十分にあります。
過去には、関係者の証言その他から贈与の事実はあったと「推認」された
事案もあります。
そういう意味から、我々税理士がお客様に、生前贈与の提案をするなら、
非の打ちどころの無い贈与をする必要があるのです。
そのためには、
○ 贈与契約書の作成
○ 預金間での資金移動(振込み)
○ 各人ごとに印鑑(銀行印も含め)を作成(家族善人が同じは避ける)
○ その後の預金管理(キャッシュカード、通帳、印鑑)は受贈者
ということが大切なのです。
なお、贈与した預金を生命保険料の支払いに充てることがありますが、
その場合には下記の国税庁の事務連絡「生命保険料の負担者の判定について」
にも注意しなければなりません(昭和58年9月)。
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1、2 略
3、ところが、最近、保険料支払能力のない子供等を契約者及び受取人
とした生命保険契約を父親等が締結し、その支払保険料については、
父親等が子供等に現金を贈与し、その現金を保険料の支払いに充てる
という事例が見受けられるようになった。
4、この場合の支払保険料の負担者の判定については、過去の保険料の
支払資金は父親等から贈与を受けた現金を充てていた旨、子供等
(納税者)から主張があった場合は、事実関係を検討の上、例えば、
(1)毎年の贈与契約書、(2)過去の贈与税申告書、(3)所得税の
確定申告書等における生命保険料控除の状況、(4)その他贈与の
事実が認定できるものなどから贈与事実の心証が得られたものは、
これを認めることとする。
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ここで、我々税理士が注意しなければならないことは、過去の裁決等でも
判断の根拠とされていますが、「(3)所得税の確定申告書等における
生命保険料控除の状況」です。
お客様が子や孫に預金を贈与し、生命保険料に充当しているにも関わらず、
その控除証明書を年末調整や確定申告の際に税理士に提出したら・・・。
その前提となる贈与云々を確認せず、完全にスルーして、生命保険料控除を
してしまうケースもあるでしょう。
しかし、それはその手前にある贈与事実を揺るがすものとなるのです。
丁度、年末調整の時期に差し掛かろうとしていますので、お客様から提出
された控除証明書による生命保険料控除を採用してもOKかどうかを
事前に確認する必要があるのです。
当然、お客様はそんなことを気にしないで、控除証明書を出してくるので。
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