生命保険による節税と租税回避
今回は「生命保険による節税と租税回避」です。
短期前払費用を適用して、翌期の費用を当期中に支払う場合、
その費用の額が多額になることもあります。
しかし、これが企業会計原則における「重要性の原則」に反する場合、
それは否認されることになります(福岡高裁、平成12年12月15日など)。
逆にいえば、「重要性が乏しいもの」しか、
短期前払費用の適用を受けられないことになります。
ただ、非常に多額な生命保険料を支払いながらも
納税者が勝った裁決があるのでご紹介します(平成14年6月30日)。
なお、TAINSコードは「F0-2-071」です。
この事例の前提条件は下記となります。
○対象になった期は平成9年12月期、平成10年12月期
○役員、従業員を被保険者とするがん保険、逓増定期保険に加入(改正前
なので、全額損金となります)
○損金とした保険料は下記の通り
・平成9年12月期:159,498,876円
・平成10年12月期:262,064,415円
○保険料を損金に算入した後の所得金額(当初申告額)は下記の通り
・平成9年12月期:137,096,322円
・平成10年12月期:136,484,424円
結果として、損金算入前の所得の50%超を保険料で減額している状況
でした。
これに対して課税庁は下記の内容を主張しました(行為計算の否認)。
○不当な税負担の減少である
○保険代理店が作成した「決算対策シミュレーション」に節税効果などが
記載されているので、税負担の軽減を目的に締結されたもの
○被保険者の給与額に比し、保険料が異常に高額となっているので、
必要性、経済合理性は認めらない
○被保険者には正社員以外のパート社員も含まれている
○被保険者の一部が退職した場合、その事業年度中に解約していない
○福利厚生目的とは言えない
○法人税法22条に定める「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準
に従って計算されたもの」とはならない
しかし、国税不服審判所は下記の裁決とし、課税庁の主張を退けました。
○通達もあり、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って
計算されたもの」に該当する
○法人税が減少していたとしても、不当な税負担の減少にはならない
○従業員が退職した期に解約していないのは、解約メリットを考えてのこと
であり、それは経営判断の1つであるから、これをもって福利厚生目的
でないということはできない
○行為計算の否認は適用できない
いかがでしょうか?
黒字の会社から生命保険の相談を受けることは多々あるかと思いますが、
場合によっては、その額が大きくなることもあります。
こういう場合に否認リスクを考えてしまうこともあるかもしれませんが、
この事例では納税者が勝っているのです。
もし、皆さんが顧問先から同じような相談を受けたなら、
この裁決を思い出してください。
また、税務調査で指摘を受けたなら、この裁決をベースに抗弁書、意見書を
作成してみてください。
税理士が保守的に考え、顧問先が生命保険に入れないこともありますが、
ここは必要以上にそう考えなくてもいい部分になります。
是非、この事例を覚えておいて頂ければと思います。
※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。
2013年6月の当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。