生命保険の特別受益該当性
※2023年6月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
今回のテーマは
「生命保険の特別受益該当性」です。
今回は、税法ではなく民法の視点から検証します。
■事例1
契約者:父(=保険料負担者)
被保険者:父
保険金受取人:長男(4,000万円)
上記の保険契約は父が80歳の時に契約した
「一時払終身保険」である。
家族構成:父、母(既に他界)、
長男、次男
相続財産:
上記の保険除き1.2億円
(金融資産のみ)
遺言:なし
◆論点1
死亡保険金は特別受益に該当するか?
結論としては・・・
特別受益に該当しません。
理由:
「受取人固有の財産」のため
根拠:
最高裁第3小法廷昭和40年2月2日判決
出典:裁判所HP
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=57731
生命保険金は・・・
「受取人固有の財産」≠被相続人の財産
つまり・・・本来財産ではないため
遺産分割協議の対象ともなりません。
死亡保険金4,000万円については
長男固有の財産として、
特別受益として持ち戻しの対象
とはならないことになります。
■事例2
父は、次男には財産をほとんど
渡したくないと考えており、
元々契約していた生命保険に
追加して、保険契約を追加した。
金融資産1.2億円のうち1億円を
生命保険に切り替えたケースを
想定します。
(1)元々の保険契約
契約者:父(=保険料負担者)
被保険者:父
保険金受取人:長男(4,000万円)
上記の保険契約は父が80歳の時に契約した
「一時払終身保険」である。
(2)追加した保険契約
契約者:父(=保険料負担者)
被保険者:父
保険金受取人:長男(1億円)
上記の保険契約は父が81歳の時に契約した
「一時払終身保険」である。
家族構成:父、母(既に他界)、
長男、次男
相続財産:
上記の保険除き0.2億円
(金融資産のみ)
遺言:なし
父は遺言を書こうとしていたが、
書く前に相続が発生してしまった。
◆論点2
財産のほとんどが死亡保険金である場合でも
死亡保険金は特別受益に該当しないのか?
結論としては・・・
特別受益に該当する可能性があります。
理由:
保険金受取人である相続人とその他の
共同相続人との間に生ずる不公平が
民法903条の趣旨に照らし到底是認
することができないほどに著しいと
判断されるため
根拠:
最高裁第二小法廷 平成16年10月29日決定
出典:裁判所HP
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52421
―――
(裁判要旨)
被相続人を保険契約者及び被保険者とし,
共同相続人の1人又は一部の者を
保険金受取人とする養老保険契約に基づき
保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は,
民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが,
(1)保険金の額,(2)この額の遺産の総額に対する比率,
(3)保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,
(4)各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,
保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が
民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに
著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,
同条の類推適用により,
特別受益に準じて持戻しの対象となる。
―――
「本来」生命保険金は・・・
「受取人固有の財産」≠被相続人の財産
つまり・・・本来財産ではないため
遺産分割協議の対象ともなりません。
しかしながら、上記の
裁判要旨にあるように、
保険金受取人である相続人とその他の
共同相続人との間に生ずる不公平が
民法903条の趣旨に照らし到底是認
することができないほどに著しいと
判断される場合には、
特別受益に準じて持戻しの対象と
なります。
それでは、どのような場合が
上記に該当するか?
裁判要旨には、
「特段の事情」と記載された部分
になりますが、
(1)保険金の額
(2)この額の遺産の総額に対する比率
(3)保険金受取人である相続人及び
他の共同相続人と被相続人との関係
(4)各相続人の生活実態等の諸般の事情
これらを総合考慮するとされています。
特に(2)の比率が意味を持ちますが
生命保険金/相続財産総額(※)
× 100 = 50~60%
※:生命保険金含まず
が一つのバロメーターになります。
1.4億円/0.2億円×100=700%
∴特別受益に該当する可能性が高い
何ごとも「やりすぎ注意」です!
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一切受け付けておりませんのでご留意ください。
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