生活費から推計課税はできるのか?
※2015年2月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
年末からこの時期に、決まって私に相談があるのは
個人事業主に対する「推計課税」の調査事案です。
なぜ上記の時期かというと、秋から調査着手にも
かかわらず、調査官と折り合いがつかないからです。
この類の相談パターンとして、
①税理士が申告書を作っている(ほぼ年1)が、
納税者が過去年分の原始帳票類を捨ててしまった
②顧問税理士がおらず、調査での課税金額が多額なので
調査途中から納税者が税理士に依頼をしてきた
③帳票類は存在するが、調査官がそれを信じず、
もっと売上・所得が存在するはず、と言ってきかない
という3つに分けることができます。
これらのケースで、なぜ課税金額が多額になるかといえば、
「生活費から逆算すると所得が多くなるから」です。
例えば、食費・家賃・学費、その他生活費を
ざっくり計算してみると、40万円/月だとしましょう。
40万円×12ヶ月=約500万円が税引後所得で
なければおかしい、と調査官は主張します。
これを税前所得に換算すると、700~800万円に
相当するはず、という主張です。
これで7年間遡れば、5,000万円もの数字になり、
住民税や社保を考えると、到底納得できない
金額にまで膨らむ、というわけです
(5年で計算しても4,000万円弱になります)。
これら、調査官の主張内容が間違っているかといえば、
論理的には間違っていません。
なぜなら、貯金を取り崩して生活をしている、
などの特殊事情がないのであれば、
「生活費+貯金の増額分」=税引後所得
だと、推計することは可能だからです。
実際に、個人の所得計算を推計で行う場合、
「消費高法:所得税の場合に、消費生活上の支出額を
基礎に、課税所得を計算する方法」が認められています。
では、調査官の推計により、明らかに
多額な所得金額を指摘された場合、どのように
反論すればいいのでしょうか?
下記の順番で検討することが重要です。
①必要性
そもそも推計課税の必要性があるのかどうかです。
納税者側として、帳票類・帳簿等を提示したにも
かかわらず、生活費などから考えて所得金額が
少なすぎる、という調査官の主張は間違っています。
あくまでも所得計算は実額により行われるべきもので、
その補完的な計算方法として推計課税が存在します。
昭和61年7月29日裁決
http://www.kfs.go.jp/service/MP/02/1401000000.html
より高い増差所得を提示するための
推計課税であってはならないのです。
推計の必要性がない場合は、「そもそも
推計課税の必要性がない」旨を主張すべきです。
(これを「実額反証」といいます)
②計算方法の合理性
原始帳票類がない場合などは、推計課税に
よらなければ所得金額はわかりませんが、
その計算方法は多岐にわたりますし、
推計に決まった計算方法はありません。
調査官は、増差所得がより多額になる計算方法を
主張しがちですが、あくまでもその計算方法は、
合理的な方法でなければなりません。
実際に上記URLにある、公開裁決事例の中でも
計算方法により納税者が勝っている事案も多数あります。
調査官が提示した計算方法を疑い、
より合理的な所得金額を算出できる計算方法を
提示することで、所得金額を下げることが可能です。
最後になりますが、調査官もざっくりした
生活費の金額だけで所得を確定できない
(更正できない)ことはわかっています。
なぜなら、他に合理的な計算方法があれば
それを採用しなければならないからです
(普通は、生活費からの逆算より
合理的な推計の方法が存在します)。
だからこそ、当初提示された金額が多額であっても、
論理的な反論をすれば落とし所は見つけやすく、
交渉によって増差金額は下がるのが通例なのです。
推計課税を前提とされても、あらゆる角度から
交渉は可能ですので、あきらめないでください。
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