生計別親族に支払った給与と必要経費
※2015年6月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「生計別親族に支払った給与と必要経費」ですが、
平成13年5月31日の裁決(全部取消し)を取り上げます。
この事案は内科医院を営む請求人が医師である実父(生計別)に支払った給与が
診療に従事している実態に対して高額か否かが争われたものです。
では、この事案の基礎事実からいきましょう。
○請求人の実父であるGは、昭和20年から昭和59年12月まで内科医院
(以下「本件医院」という。)を経営していたが、昭和59年12月末に
請求人に引き継いだ後は、本件医院に医師として勤務
○Gに支払った給料の額は16,800,000円(以下「本件給料」という。)
○原処分庁は、P市内の公立病院等や医療法人(以下これらを併せて「公立
病院等」という。)に非常勤医師として勤務する者のうち、内科の診療に
当たる医師(以下「比準非常勤医師」という。)を抽出して、勤務1時間
当たりの給料の額の平均を求め、これを基礎として、下記別表2のとおり、
各年分のGの給料の額を下記と認定し、差額を更正した
・平成7年分が7,780,100円
・平成8年分が7,795,044円
・平成9年分が7,804,484円
別表2 認定給料額の算定方法
http://kachiel.jp/sharefile/150605-mitamurasensei-merumaga.png
そして、この前提条件の下、国税不服審判所は下記と判断しました。
○認定事実
・Gは祝日を除く月曜日から土曜日の午前9時から午後1時まで、毎日、診療
に従事している。
・受診患者数(午前、午後の合計で月平均3,400人程度)のうち、4分の
3程度が午前中に来院している。
・診療する患者は、看護婦が受付時に患者から状況を聞き取り、請求人とGと
に振り分けており、Gが診療した患者数は、午前中の受診患者数の3分の1
程度を占める。
・請求人は、祝日を除く月曜日から土曜日の午後2時から午後4時まで往診等
のため出かけており、その間、Gは、本件医院のすぐ裏の自宅において、
急患に備えて待機している。
・非常勤医師の1時間当たりの給料の額は、平日に比べ、土曜日、日曜日、
祝日、年末、年始等が高額となることが認められるが、原処分庁が採用した
比準非常勤医師には、平日の勤務だけで土曜日の勤務がない者が含まれて
いる。
○所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当するためには、業務に
ついて生じた費用であること、すなわち業務との関連性がなければならない
とともに、業務の遂行上必要であることを要し、さらに、その必要性の
判断においても、単に事業主の主観的判断のみによるのではなく、客観的に
必要経費として認識できるものでなければならないと解すべきである。
○これを本件についてみると、原処分庁は、客観的に必要経費として認識
できる金額を算出するための方法として、非常勤医師の勤務1時間当たりの
給料の額の平均を求め、これを基準として認定給料額を算定しているところ
であるが、その認定方法の合理性を判断すると、次のとおりとなる。
・原処分庁は、Gが4時間勤務しているとして、これに比準非常勤医師の勤務
1時間当たりの給料の額の平均を乗じて認定給料額を算定している。
しかしながら、各年分において、Gが午後も急患診療のために待機し、
請求人の事業のために時間を拘束されていた事実が認められることから、
Gの勤務時間を4時間であるとして算定された認定給料額は合理性を欠く
ものである。
・Gは土曜日も勤務しているにもかかわらず、原処分庁が採用した比準非常勤
医師には、1時間当たりの給料の額が低い平日の勤務だけの者が含まれて
いることが認められることから、原処分庁が平日のみ勤務している非常勤
医師を比準非常勤医師に含めたことは合理性を欠くものである。
・長年にわたり、本件医院の院長として医院の経営に当たり、請求人に経営を
引き継いだ後も毎日相当数の患者を診療し、午後も急患に備えているGと、
特定の日時に限定して勤務し、日額、月額として給料の額が決定されるなど
の比準非常勤医師との間に、給料の額に差異が生じるのはむしろ当然であり、
本件において、原処分庁が比準非常勤医師の1時間当たりの給料の額の平均
によって認定給料額を算定したことは合理性を欠くものである。
・したがって、原処分庁が採用した認定給料額の算定方法は合理性があるもの
とはいえず、認定給料額が客観的に必要経費として認識できる金額を示す
ものではないといわざるを得ない。
○さらに、本件給料が客観的に必要経費として認識できるものかどうかに
ついて判断するため、当審判所において、M税務署及びその近隣署管内で
継続して事業を営む青色申告者で業種、業態及び事業規模が請求人と類似
しており、かつ、請求人と同様に内科医師の資格を持った親族の従業員が
いる個人医院(以下「類似個人医院」という。)を調査したところ、請求人
の収入金額に対する本件給料の割合は、類似個人医院の収入金額に対する
親族の従業員の給料の割合と比べて低く、本件給料が客観性を欠き不相当に
高額とは認められず、また、Gの診療従事の状況に照らしてみても、本件
給料が不相当に高額であるとは認められない。
ということで、請求人の主張が認められたのです。
なお、類似事例としては、下記のものがあります(出典:TAINS)。
○徳島地裁(平成元年10月27日)
医療業を営む納税者が、専ら大学で医学の研究に従事している息子夫婦に
対して支払つた給料賃金のうち、業務遂行上必要と認められる金額(県立及び
赤十字病院に勤務する医師で、医師としての経験が右夫婦と類似すると認めら
れる者が支給を受ける給与の額の平均額)を超えるものは必要経費から除外
すべきであるとされた事例
○山口地裁(平成7年6月27日)
病院を経営する納税者の従兄弟に当たる医師に対して支払われた報酬は、
右医師の勤務内容が他の非常勤医師と比して特に異なるものでないにも
かかわらず、他の非常勤医師と比較して著しく高額であるから納税者の業務
の遂行上客観的に必要な報酬として必要経費に参入すべき金額は、他の非常勤
医師に対する1日当たりの報酬額に勤務日数を乗じて計算した金額である
として、これを超える金額は必要経費に当たらないとされた事例
もちろん、必要経費として認められるケースに該当するか否かは事実認定の
問題となりますが、この点は慎重な判断を求められる部分にもなります。
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