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2015.09.10

従業員の不正と損害賠償金の計上時期

こんにちは。日本中央税理士法人の見田村元宣です。

 

今回は「従業員の不正と損害賠償金の計上時期」です。顧問先に税務調査があり、従業員の不正が発覚したとします。

さて、その場合の損害賠償金の益金計上時期はどうなるのでしょうか?

これについて争われ、請求人が勝った裁決(平成21年9月9日)がありますので、ご紹介したいと思います。

ちなみに、TAINSコードは J78-3-20 で、裁決事例集第78集P327にも掲載されています。

 

 

まずは、本事案の基礎事実を記載します。

 

○請求人は印刷の請負及び製本紙器の製作などを目的とする株式会社

○請求人の定款及び商業登記簿によれば、印刷の請負及び製本紙器の製作並びにこれらに附帯する一切の業務を目的としており、印刷用紙の販売を目的としていない

 
○元従業員Aは本社工場生産管理課長または生産管理部生産管理課長として、 印刷工程の管理及び外注手配に関する業務に従事していた

○得意先との請負契約の中には得意先が印刷用紙を無償で支給する旨が定められているものがある(余剰紙が出ることもある)

○AはB社という架空の会社名義で余剰紙をC社に売却し、現金にて受領

○Aは個人的な飲食、ゴルフ、旅行等の遊興費に費消した

○通常は余剰紙が発生しないこと、余剰紙が発生すれば、別の印刷作業で発生する損紙の穴埋めなどとして使用していたことなどから、請求人は余剰紙の在庫数量を把握していなかった

○請求人が余剰紙以外の印刷用紙を他に販売した事実はなく、外注先に対し有償で支給された事実もなかった

○Aは請求人の経営に従事する立場になかった
       
○Aは印刷用紙の保管及び管理に関する業務に関する権限を請求人 から与えられておらず、余剰紙を自己判断で売却する権限を有していなかった

○請求人の取締役、本社工場長、生産管理部長は、Aの行為を知らなかった

○余剰紙を購入したC社の代表取締役、工場長の答述によれば、 Aから「安い紙が入るが、請求人では買えない紙なのでC社で買わないか」という話があって、この取引を始めたものであり、どこかの紙屋さんが在庫処分する紙を現金取引するものと認識し、この取引が請求人との取引であるとは認識していなかった

○請求人はAに対して有することとなった損害賠償請求権に基づき、 平成20年2月22日~同年3月3日までの間に損害賠償金の一部として合計3,212,996円の支払いを受けた

○請求人は平成20年3月10日にAを懲戒解雇した

 

 

 

この流れの中、この取引に係る収益が請求人の売上げか否か(損害賠償請求権を各事業年度の益金の額に算入すべきか否か)が争われたのです。

 

そして、国税不服審判所は下記と判断したのです。

 

 

○請求人の売上か否かについては取引を行った従業員の地位・権限、その取引の態様、請求人の事業内容、取引の相手方の認識などを総合考慮して判断すべき

 

○下記の理由により、この取引に係る収益は請求人の売上とはいえない

 

・Aは経営に従事する立場にはなく、印刷用紙の保管及び管理に関する権限を請求人から与えられておらず、余剰紙を自己の判断で売却する権限を有していなかったこと

 

・請求人から窃取した余剰紙を、B社という架空名義を使用してC社に売却したものであること

 

・請求人は印刷の請負及び製本紙器の製作等を目的とし、印刷用紙の販売を目的としていない上、請求人が所有・管理していた、余剰紙以外の印刷用紙が他に販売された事実はなく、外注先に対して有償で支給された事実もなかったこと

 

・C社はこの取引が請求人との取引であるとは認識していなかったこと

 

○法令解釈としては下記となる

 

・法人税法上、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益はその実現があった時(その収入すべき権利が確定した時)の属する事業年度の益金の額に算入すべき権利の確定とは、権利の発生とは同一ではなく、権利発生後一定の事情が加わって権利の実現の可能性を客観的に認識することができるようになることを意味する

      

・不法行為による損害賠償請求権は、例えば加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難なため、直ちには権利行使を期待することができないような場合があり得るところ、このような場合には、権利(損害賠償請求権)が法的には発生しているといえるが、いまだ権利の実現の可能性を客観的に認識することができるとはいえないから、不法行為が行われた時点が属する事業年度の益金の額に算入すべきであるとはいえない

 

・ただし、この判断は、税負担の公平や法的安定性の観点から考えて客観的にされるべきであるから、通常人を基準にして、権利(損害賠償請求権)の存在・内容等を把握し得ず、権利行使を期待することができないといえるような客観的状況にあったかどうかという観点から判断

 

○本件への当てはめ

 

・Aはこの取引が発覚しないよう、支給紙の払出しに係る社内書類を一切作成せず、入出庫担当者にもすべて口頭で指示

 

・架空のB社名義で余剰紙を売却し、その売却代金も社外で、かつ、現金で受領し、秘密裏に余剰紙を窃取して売却していた

 

・この取引は、Aが請求人から与えられた権限の範囲を逸脱して行ったものであり、請求人の営む事業の範囲を超えており、請求人がAの不正を予見することは困難

 

・余剰紙は支給紙の一部であり、その所有権が請求人、得意先のいずれに帰属するものであるか必ずしも明らかでない

 

・請求人は余剰紙を消耗材として使用しており、請求人が得意先から余剰紙を無償で譲り受けたとする受贈益を計上してまで余剰紙を在庫計上すべき必要性及び重要性に乏しい

 

・請求人が余剰紙の在庫数量を管理する必要性に乏しかったものと認められることからすれば、通常人を基準にして、損害賠償請求権の存在・内容等を把握し得ず、権利行使を期待することができないといえるような客観的状況にあった

 

・その権利の実現の可能性を客観的に認識することができるとはいえないから、損害賠償請求権を請求人の本件各事業年度の益金の額に算入すべきであるとはいえない

 

 

 

結果として、納税者が勝ったのです。

ただし、これと逆の判断が下された下記事例もあります。

「従業員及び常務取締役が行った売上除外に係る法人税の更正処分等について、横領損失と損害賠償請求権に係る収益は同一事業年度に計上すべきであるとした事例」

http://www.kfs.go.jp/service/MP/03/0201150000.html

 

この2つの裁決で判断が分かれた理由は下記となります。

 

○不法行為による損失の発生と損害賠償請求権の発生、確定は、原則として、これを同時に損金と益金とに計上すべき(これは前者の裁決も同じ)

 

○請求人の経営に参画する常務取締役が本件不正行為の事実を把握していたのであり、通常人を基準とすると、請求人において、損害賠償請求権の存在、内容等を把握し得ず、権利行使を期待できないといえるような客観的状況にあったということはいえず、権利の行使を期待することができないような場合にも当たらない

 

 

 

いかがでしょうか。

金額の多寡に関わらず、多くの企業では不正が行われています。そうでなければ、あれだけ多くの金券ショップに切手シート、新幹線のチケットなどが集まる訳がありません。

その不正の内容、金額はともかくとして許されるべきことではありませんが、多くの会社で税務調査をきっかけとして発覚することも事実です。

この場合に損害賠償金をどの事業年度に計上すべきかは重要な論点ですので、今日のポイントを覚えておいて頂ければと思います。

 

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なお、2013年7月の当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

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