相続放棄で注意すべき税務論点1
※2022年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
税理士法人レディングの木下でございます。
今回のテーマは、
「相続放棄で注意すべき税務論点1」です。
相続放棄は税理士実務に馴染みの少ないものです。
なぜならば・・・
相続放棄 = 積極財産 < 消極財産
この状況で選択されることが通常であり
相続税申告が不要となるためです。
ただし・・・
積極財産 < 消極財産
この状況のもとであっても
多額の死亡保険金を相続人が取得する場合であれば、
相続放棄を選択したにもかかわらず
相続税申告が必要となります。
なぜならば・・・
死亡保険金は受取人固有の財産であるため
相続放棄を選択しても受け取ることが可能です。
(最判昭和40年2月2日)
また上記とは別に
会社経営者の相続の場合でも選択し得るものです。
連帯保証債務を承継したくない相続人がいれば
相続放棄を選択する可能性があります。
このようなケースでは、
税理士が潜在的な債務の存在を明らかにし
積極的に相続放棄を推奨すべきと考えます。
そこで・・・
今週から数回のメルマガでは
「相続放棄で注意すべき税務論点」
これをご紹介していきます。
1.基礎控除(相法15)
まず、基礎控除に関する規制です。
前回のメルマガでもご紹介させていただきましたので
詳細は割愛しますが、要約すると以下のとおりです。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
法定相続人の数 には、相続放棄をした場合であっても
相続放棄がなかったものとした場合の相続人の数
となります(相法15(2))。
・・・「相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたもの
とした場合における相続人の数とする」・・・
—
2 前項の相続人の数は、同項に規定する被相続人の民法第五編第二章(相続人)
の規定による相続人の数(当該被相続人に養子がある場合の当該相続人の数
に算入する当該被相続人の養子の数は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ
当該各号に定める養子の数に限るものとし、相続の放棄があつた場合には、
その放棄がなかつたものとした場合における相続人の数とする。)とする。
—
2.相続税の総額計算(相法16)
相続税の総額計算における法定相続分は
相続放棄がなかったものとした場合の相続人の数
となります。
・・・の「前条第二項に規定する相続人の数に応じた相続人が」・・・
—
第十六条 相続税の総額は、同一の被相続人から相続又は遺贈により
財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格に相当する金額の合計額
からその遺産に係る基礎控除額を控除した残額を当該被相続人の前条第二項
に規定する相続人の数に応じた相続人が民法第九百条(法定相続分)及び
第九百一条(代襲相続人の相続分)の規定による相続分に応じて取得したもの
とした場合におけるその各取得金額(当該相続人が、一人である場合
又はない場合には、当該控除した残額)につきそれぞれその金額を次の表の
上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率
を乗じて計算した金額を合計した金額とする。
—
前条第二項に規定する相続人の数
つまり・・・
相続税法第15条第2項を指しますので、
上記1.と同様となります。
■具体的検証
被相続人:父
相続人:母・子1人
(父の両親なし、父の兄弟姉妹なし)
相続財産:3億円
遺産分割:母が全て相続
この場合における
母の相続税は約3,200万円になります。
(配偶者の税額軽減特例のベースは1.6億円)
そこで・・・
子が相続放棄をすると
第2順位相続人(父の両親)
第3順位相続人(父の兄弟姉妹)
が不存在であるため
被相続人(父)の相続人は母のみとなります。
相続税の総額計算における
法定相続分が民法の規定を採用していれば
配偶者の税額軽減特例のベースは
1.6億円 < 法定相続分(100%=3億円)
となるため、
母の相続税はゼロとなってしまいます。
このままでは・・・
相続発生後であっても
節税が可能となってしまいます。
そこで・・・
相続税法第16条において
相続放棄がなかったものとした場合の相続人の数
と規制をかけているのです。
次回も引き続き
相続放棄に関する税務論点
これを検証していきます。
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一切受け付けておりませんのでご留意ください。
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