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2016.08.19

相続財産か?名義預金か?

※2015年7月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

日本中央税理士法人の見田村元宣です。

さて、今回は「相続財産か?名義預金か?」ですが、

平成25年12月10日の裁決を取り上げます。

なお、この裁決は日本中央税理士法人発行のメルマガ(2015年7月21日に配信)でも

取り上げましたが、同様の事案はよくある論点です。

そのため、1人でも多くの税理士に本裁決を知ってもらいたいので、

より専門家向けにし、このブログでも取り上げます。

では、本裁決の前提条件です。

○ 相続開始日は平成21年12月×日(被相続人K)

○ 相続人及び被相続人の孫名義の預貯金等が相続財産として否認

○ 重加算税も課された

○ 相続人は配偶者であるH、被相続人の子であるF及びFの妻で

  被相続人の養子であるJの3名(FとJを併せて「請求人夫婦」という。)

○ 申告書の作成を担当したL税理士は、平成24年2月10日の
  
  本件調査において請求人夫婦並びに請求人夫婦の子のM、N及びP

  (以下、これら3名を併せて「孫ら」という。)が名義人となっている

  預貯金等について、平成10年末から本件相続開始日までの間の金額の

  移動状況等を記載した表形式の資料を本件調査担当職員に提出した

  (以下、「本件提出資料」という。)。

○ 本件提出資料には、「内K分」及び「外資金融通分」と題する欄が

  設けられており、それぞれの合計欄には、45,057,670及び57,940,042と

  記載されている。

○ 平成18年に、請求人夫婦及び孫らがQ社の株式をそれぞれ本件被相続人

  から贈与を受け、いずれも法定申告期限内に贈与税の申告をした。

○ 請求人夫婦及び孫らは、平成7年に本件被相続人の自宅と同一敷地内に

  家を建て、本件被相続人及びHと別居をし、生計を別にしていた。

○ 本件被相続人は平成17年2月に○○で入院、Hは同年5月に○○で入院、

  両名はその後○○に入所した。

そして、原処分庁は下記と主張しました。

○ 請求人夫婦及び孫ら名義の預貯金は、Fの給与が振り込まれるS銀行の

  口座(以下「本件給与振込口座」という。)を除き、平成17年に

  ○○で入院するまでは全てHが管理・運用していた。

○ 本件相続開始日現在の本件被相続人名義の預貯金残高は、約X,XXX万円

  であるのに対し、請求人ら及び孫ら名義の預貯金残高は約XX,XXX万円に

  上る。一方、本件被相続人は平成18年から平成21年まで、

  毎年X,XXX万円以上の収入とXXX万円以上の所得を確定申告しており、

  生前に相当額の収入があったのに対し、請求人ら及び孫らはそれほどの

  収入はないから、請求人ら及び孫ら名義の預貯金の額は不相当に多額

  である。

○ 請求人ら及び孫ら名義の預貯金の中に、本件被相続人が出捐したものが

  含まれていると推認できることから、請求人らに検討を依頼したところ、

  請求人らは、本件提出資料を提出し、「内K分」欄及び「外資金融通分」

  欄に記載されている請求人夫婦及び孫ら名義の預貯金については本件

  被相続人のものであることを認めた。

○ 本件預貯金等が本件給与振込口座から出捐されている事実は認められない。

○ 請求人らはHが名義人である預貯金のうち本件H名義預貯金についても、

  資金の出捐者が本件被相続人であると認めた。

○ 本件M名義貯金は、口座開設時の登録印鑑が本件被相続人の印鑑と同一

  であること、口座開設時にMは4歳で収入がなかったことから、本件

  被相続人が出捐者と認められる。

○ 請求人夫婦は、Q社の株式の贈与について贈与税の申告を行っており、

  贈与税の申告の必要性について十分認識していながら、本件預貯金等に

  ついては、贈与税の申告を行っていないことからすると、本件被相続人

  から請求人ら及び孫らへ申告されている以外の贈与があったと認める

  ことはできない。

そして、国税不服審判所は下記と判断しました。

○ 認定事実

・ 原処分庁及び請求人らから提出された本件被相続人、請求人ら及び孫ら

  名義の預貯金の印鑑届から、次の事実が認められる。

A 本件被相続人、請求人ら及び孫ら名義の預貯金等で使用している印鑑

  として確認できるものは全部で10種類であった(以下、これらの印鑑を

  まとめて「本件各印鑑」という。)。

B 本件各印鑑のうち、1本は、本件被相続人名義の預貯金に使用されて

  いる印鑑であった(以下、この印鑑を「被相続人印」という。)。

C 本件各印鑑のうち、2本は、H名義の預貯金に使用されている印鑑

  である(以下、この2本の印鑑をまとめて「H印」という。)。

D 本件各印鑑のうち、被相続人印及びH印以外の印鑑は、請求人夫婦及び

  孫ら名義の預貯金にそれぞれ使用されている印鑑である。

E 本件預貯金等の一部は、設定時に被相続人印を届出印として登録して

  いたが、被相続人名義を除き、基本的に平成13年までに被相続人印以外

  の印鑑に改印された。なお、本件M名義貯金が設定された当時、当該

  貯金の届出印には被相続人印が使われていたが、平成13年1月4日に、

  被相続人印からMが使用している印鑑に改印された。

・ 請求人らが証券会社に提出した相続に係る依頼書(委任状)兼念書及び

  遺産分割協議書の筆跡をみると、請求人らの筆跡にはそれぞれ特徴が

  あり、これらの書類の筆跡と、印鑑届の筆跡とを比較すると次の事実が

  認められる。

A 平成17年5月にHが○○で入院する前まで専らHが使用していたと

  認められる印鑑は被相続人印とH印であった。なお、平成17年にHが

  ○○で入院した後は、被相続人印及びH印も請求人夫婦が使用している。

B 被相続人印及びH印以外の本件各印鑑は、請求人夫婦が使用していた。

  なお、一部で各名義人の筆跡と思われるものもあった。

・ Hについては、収入は基礎年金であったが、昭和56年時点において

  約7,400,000円の資金があった。

○ 当てはめ

・ 一般的に外観と実質は一致するのが通常であるから、財産の名義人が

  その所有者であり、その理は預貯金等についても妥当する。

  しかしながら、預貯金等は、現金化や別の名義の預貯金等への
 
  預け替えが容易にでき、また、家族名義を使用することはよく見られる

  ことであるから、その名義と実際の帰属とがそごする場合も少なくない。

  そうすると、預貯金等については、単に名義のみならず、その管理・

  運用状況や、その原資となった金員の出捐者、贈与の事実の有無等を

  総合的に勘案してその帰属を判断するのが相当である。

・ 原処分庁の主張について

  原処分庁は、本件提出資料は、請求人らが家族名義の預貯金等について

  検討した結果に基づき、「内K分」及び「外資金融通分」として記載

  した金額の合計額が本件相続に係る相続財産であることを原処分庁に

  示したものであるとして、本件提出資料に基づき、本件家族名義預貯金等

  の出捐者は本件被相続人である旨、また、請求人夫婦がL税理士に本件

  H名義預貯金の出捐者が本件被相続人であると伝えたことから、本件

  預貯金等は本件被相続人の財産である旨主張する。

  しかしながら、原処分庁は、本件預貯金等の管理状況については、単に

  Hが平成17年まで管理していたと主張するのみで、使用印鑑の状況や

  保管場所など管理状況について何ら具体的に主張も立証も行わず、

  また、その出捐者については、本件相続開始日前3年間の本件被相続人

  の収入が多額であること、及び本件預貯金等の出捐が本件給与振込口座

  と直接的な関係がないことを挙げるのみで、求釈明に対しても、新たな

  主張はないとして具体的な出捐の状況については何ら主張立証をして
 
  いない。

  さらに、本件被相続人から請求人ら及び孫らに対する贈与の有無に

  ついても、請求人夫婦が平成18年に贈与を受けた際には贈与税の申告を

  行っており、その他に贈与税の申告がなかったのは贈与がなかったから

  にほかならない旨主張するのみであり、到底承伏できるような主張

  ではない。

  そして、請求人らは、本件提出資料が本件相続に係る相続財産を

  示したものであること及び本件H名義預貯金が本件被相続人の財産

  であることを認めた事実はない旨主張し、L税理士も当審判所に対し、

  当該主張に沿う答述をしており、特段、その答述の信用性を疑わせる

  ような事情もないことからすると、請求人夫婦が当該各事実を認めた

  ことを前提とした原処分庁の主張には理由がなく、このことから本件

  預貯金等が相続財産であったと認めることはできない。

  なお、原処分庁は、本件M名義貯金については、設定時の印鑑が

  被相続人印で、設定当時Mは4歳であることから、出捐者は本件被相続人

  となる旨、個別に主張するが、請求人らは、出捐者はJであると主張して

  いるところ、当審判所の調査によってもその出捐者が被相続人であるとは

  認めることができない上、届出印も平成13年にMが使用している印鑑に

  改印され、以後の管理は請求人夫婦が行っていると認められることから、

  これらのことを総合的に判断すれば、本件M名義貯金についても相続財産

  に該当すると認めることはできない。

○ 審判所による検討

・ 管理・運用状況について
 
  まず、本件預貯金等の管理・運用の状況についてみると、平成17年に

  Hが○○で入院した後は、請求人夫婦がその管理・運用を行っていたと

  認められるところ、それ以前の状況については、本件被相続人名義の

  預貯金及びH印を届出印とするH名義の預貯金は、Hが管理・運用し、

  一方、本件家族名義預貯金等は被相続人印及びH印以外の印鑑を使って

  請求人夫婦及び孫らが管理・運用していたものと認められる。

・ 出捐者及び贈与の事実の有無について

  次に、本件預貯金等の出捐者についてみると、原処分庁は平成16年まで

  遡って金融機関を調査し、当審判所もそれに基づいて調査を行ったが、

  当審判所は、個々の預貯金等の出捐者が誰であるのかを認定することは

  できなかった。

  また、贈与の事実の有無についてみても、請求人らは、資料を提出して

  贈与の事実があった旨を主張し※、他方で、原処分庁は、請求人夫婦が

  贈与税の申告をしていないことをもって、贈与がなかった旨を主張するが、

  請求人らが提出した資料や原処分関係資料を調査しても、当審判所は、

  被相続人から請求人らに対して贈与がなかったと認めるには至らなかった。

  また、本件H名義預貯金については、本件被相続人が出捐者とまでは

  認められない。

 
  ※ 請求人の主張より

  本件被相続人から請求人ら及び孫らの各名義人への現金などの贈与が

  あった。

  なお、請求人夫婦は平成23年10月13日の本件調査の際に、本件調査担当

  職員に対し、「贈与税の申告をしたのはQ社及びU社の株式です。」と

  答えたが、それは、それ以外に贈与があったかは不明であったことから

  明確に答えられなかっただけである。

  また、後日、現金贈与があったことを思い出して説明し、必要な申告も

  行っている。

○ まとめ
 
  以上のとおり、本件預貯金等の管理・運用の状況、原資となった金員の

  出捐者及び贈与の事実の有無等を総合的に勘案しても、本件預貯金等が

  いずれに帰属するのかが明らかではなく、ひいては、本件預貯金等が

  被相続人に帰属する、すなわち、相続財産に該当すると認めることは

  できない。

いかがでしょうか?

名義預金は相続税の税務調査において、よく問題になる項目ですが、

多少なりとも「非」があれば、更正という状況に至ることも事実です。

しかし、課税庁側の立証が不十分であることもあり得ますので、

充分な検証の下、相続財産なのか?名義預金なのか?という検証を

する必要があります。

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

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