短期前払費用と重要性の原則
※2018年2月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「短期前払費用と重要性の原則」ですが、
複数の裁決、判決を取り上げます。
短期前払費用は企業会計における重要性が乏しいものに限って
認められることはご存知のとおりです。
そして、この重要性の原則は「金額の重要性」と「勘定科目の重要性」
という観点から考えられます。
では、前者についてですが、
どの程度であれば、重要性が乏しいと言えるのでしょうか?
複数の事例を掲載します。
1、裁決(平成14年6月10日)
これは「養鶏業」の会社において、
がん保険、逓増定期保険が問題になった事例ですが、
損金算入された生命保険料は下記のとおりです。
なお、本メルマガで掲載した事例のうち、
1と5のみが納税者の主張が認められた事例です。
ただし、1は重要性の原則は争点にはなっていませんが、
国税不服審判所は事実認定から行なうため、
請求人の主張が認められた事例として、掲載します。
・平成9年12月期:159,498,876円
・平成10年12月期:262,064,415円
その結果、申告した所得金額は下記のとおりです。
・平成9年12月期:137,096,322円
・平成10年12月期:136,484,424円
これを保険加入前の所得金額から割合を算出すると、
下記となります。
・平成9年12月期
137,096,322円+159,498,876円
=296,595,198円
159,498,876円÷296,595,198円=53.7%
・平成10年12月期
136,484,424円+262,064,415円
=398,548,839円
262,064,415円÷398,548,839円=65.7%
2、長崎地裁(平成12年1月25日)
・傭船料(船のレンタル料)5,000万円が問題になった事例ですが、
45,833,333円(11か月分)の損金が否認されたものです。
・様々な数値から比較検討がされていますが、
売上高、税引前当期利益に対する本件船舶の傭船料の金額の割合は、
それぞれ12%、284.99%でした。
3、東京地裁(平成17年1月13日)
・問題になった費用(地代家賃、広告宣伝費、旅費交通費)は
2億1,272万2,356円で、当期利益は2,694万5,593円
・2,694万5,593円+2億1,272万2,356円
=2億3,966万7,949円
・2億1,272万2,356円÷2億3,966万7,949円
=88.75%
・販売費及び一般管理費は41億9,154万7,401円
4、高松地裁(平成7年4月25日)
・介護費用保険を一時払いした事例で、
福利厚生費として計上した金額は541万5,990円
・否認された部分は539万5,228円で
申告所得金額は2,247万6,705円
・539万5,228円+ 2,247万6,705円
=2,787万1,933円
539万5,228円÷2,787万1,933円=19.3%
5、裁決(平成5年11月19日)
・前払いした家賃は1,500万円、裁決後に所得金額は1,232万円
・1,500万円+1,232万円=2,732万円(54.9%)
・1,500万円÷2,732万円=54.9%
以上のとおり、どの程度であれば重要性が乏しいと言えるかは
率からは明確に言えないのが過去の事例から言えることです。
ただし、ある著名な国税OB税理士と話をしたときに、
こんなことをお話しされていました。
〇基本的には売上と比較すべき(企業規模という意味)
〇短期前払費用が同じ額でも利益率が低い会社(売上が大きい会社)であれば、
否認されないし、利益率が高い会社(売上が低い会社)であれば、
否認されるリスクがある。
〇結果としての理由づけとして税引前当期利益などとの比較が
されることもある。
この理屈は私も全くその通りだと思いますし、
一番最初に記載した裁決事例は養鶏業の会社のため、
3~4億円の所得を出すためには相当額の売上が必要となります。
なお、中央大学商学部教授の酒井克彦先生が書かれた書籍
「クローズアップ保険税務」(財経詳報社)の中に
下記の記載がありますので、併せてご参考になさってください。
前払費用の額が多額である場合でも、1年のルールにさえ沿っていれば
実務上問題ないというのであれば、それは誤りであろう。
通達はあくまで行政庁内部での処理の統一を図るものであるから、
本件通達を根拠として、適正公平な課税に反するほどの、
多額の短期前払費用の計上がなされるのであれば、
それが認められるべきではないと解される。
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