社員旅行と給与課税
※2014年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「社員旅行と給与課税」ですが、複数の裁決、判決を挙げます。
顧問先から社員旅行につき、「いくらまでなら会社負担としてもOKか?」
と質問されることがありますが、ここに明確な数値基準がないことも事実です。
ちなみに、源泉所得税関係の個別通達では下記とされています。
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使用者が、従業員等のレクリエーションのために行う旅行の費用を負担する
ことにより、これらの旅行に参加した従業員等が受ける経済的利益については、
当該旅行の企画立案、主催者、旅行の目的・規模・行程、従業員等の参加割合・
使用者及び参加従業員等の負担額及び負担割合などを総合的に勘案して実態に
即した処理を行うこととするが、次のいずれの要件も満たしている場合には、
原則として課税しなくて差し支えないものとする。
(1)当該旅行に要する期間が4泊5日(目的地が海外の場合には、目的地に
おける滞在日数による。)以内のものであること。
(2)当該旅行に参加する従業員等の数が全従業員等(工場、支店等で行う
場合には、当該工場、支店等の従業員等)の50%以上であること。
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しかし、4泊5日以内等の要件を満たしていても、その会社負担額が高額だった
ことから給与課税された事例(東京高裁、平成25年5月30日、上告)も
あります(マカオへの2泊3日の社員旅行、1人当たり241,300円)。
この裁判で東京高裁は下記と判断しました。
○ 控訴人代表者自身、本件旅行の目的が、定年制を前提に、熟練技能者等の
長年の労に対して盛大に報い、きちんと勤め上げると全社を挙げて盛大に
送り出してもらえると社員に感じさせるために本件旅行を企画したとして
いるのであり、そのことによって会社に対する忠誠心がかん養され、
ひいては指揮命令系統が強まることがあり得るとしても、付随的派生的
効果にすぎず、従業員等の慰安や親睦を目的とする一般の慰安旅行と
異なるところはないと考えられる。
○ このことは、旅行先を控訴人代表者が決定したり、旅行中に、参加した
従業員の遅刻を控訴人代表者が叱責するということがあったとしても
変わるものではない。
○ 控訴人は、本件旅行には従業員に参加・不参加の自由がなかったと主張し、
これに沿うと考えられる証拠を提出するが、本件旅行には女性従業員2名
が参加しなかったところ、この点について、控訴人代表者は、「総務職を
担当するものであり、他の従業員とは性質が異なるので具体的に誘うこと
はなかった」旨述べたり、「参加しなかった理由は特に聞いていない」旨
述べているのであって、こうした控訴人代表者の述べている内容を併せて
検討すると、上記の控訴人の主張を採用することはできない。
○ 異議調査において控訴人代表者が述べた内容についても、本件旅行の
趣旨目的について説明しなかったというのではなく、慰安と親睦のための
旅行であり、行き先は一般的な観光場所である旨積極的に回答している
のであるから、主張をする場でなかったとの控訴人の主張は理由がない。
○ そもそも、異議申立書に記載された異議の理由は、本件旅行が従業員の
慰安旅行であることを前提に、控訴人負担額が社会通念上常識的な金額
であり、これを給与として課税することは課税の公平を欠くというもの
であったことをも踏まえると、異議申立てから19日後にされた異議調査
における控訴人代表者の応答内容は、むしろ率直に事情を説明したものと
理解できるものであり、その内容からも、本件旅行の目的が控訴人従業員
などの慰安と親睦にあると認めるべきものであることは、原判決の説示
するとおりである。
○ 本件旅行の目的は、控訴人従業員などの慰安と親睦にあったものであり、
控訴人の業務上の必要に基づいて本件各従業員に参加を強制して行われた
ものと認めることはできず、控訴人の業務上の必要に基づいて経済的な
利益の供与を受けたものということができないことは原判決説示のとおり
であり、控訴人の主張は前提を欠く。
○ 従業員の参加意欲を喚起するためにある程贅沢にしなければならないとの
主張は、本件旅行が業務命令であるとする控訴人の前記主張に必ずしも
沿わないものである。
○ 本件各従業員が享受した経済的利益の観点からは、旅行代金から飲料代や
土産物屋のマージン分を控除する理由はなく、本件旅行に参加することに
より享受する経済的な利益の額が少額であるものと認められないことは、
原判決説示のとおりである。
○ 社会通念上一般的に行われているものと認められるか否かは、旅行に
参加した従業員等が受ける経済的利益の額、すなわち使用者の負担額を
中心として、当該旅行の目的や内容、従業員の参加状況などの諸事情を
考慮することにより判断することが可能であり、事前予測が困難という
ことはできないし、本件においてこれが控訴人の主張するように厳しく
解釈されたものということもできない。
なお、社員旅行が問題になった他の事例(裁決)としては、
○ 平成10年6月30日
九州旅行、3泊4日、1人当たり192,003円
○ 平成22年12月17日
海外旅行、2泊3日、1人当たり241,300円
がありますが、いずれも納税者の主張は認められませんでした。
逆に、納税者の主張が認められた事例としては、平成3年7月18日の裁決が
あり、タイへの3泊4日の社員旅行、1人あたり183,000円の旅行代金
が認められています。
いずれにせよ、明確な基準が無いだけに、高額な社員旅行代金を会社が負担
した場合は問題になるケースもあります。
結果、顧問先から質問があった場合はこれらの事例をベースに慎重に判断する
必要があるのです。
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