税務調査の対象期間は何年なのか?(脱税の場合)
※2021年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
毎週金曜の本メルマガでは、税務調査を体系的に理解する
内容を連載で解説していますが、今回は除斥期間が
「7年」となる要件(脱税)のケースについて解説します。
一般用語である「脱税」は、税法上の定義では
【偽りその他不正の行為により】租税を免れる
(または還付を受ける)こととされています。
脱税は犯罪であることから、各個別税法において
逋脱犯に対する罰則規定を設けています
(法人税法159条第1・2項、所得税法238条
第1・2項、消費税法第64条第1・2・3項等)。
併せて、国税通則法第70条第5項において、
偽りその他不正の行為により租税を免れた場合、
除斥期間の原則である5年ではなく「7年」分を
更正または決定できるとされているわけです。
「偽りその他不正の行為」の定義・意義については、
法令・通達等では明記されていませんが、判例では
「逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を
不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの
偽計その他の工作を行うことをいう」と判示されています
(最高裁昭和42年11月8日判決など)。
ですから、脱税とは単に税金を免れるのみならず、
その免れ方が反社会的・反道徳的である場合のような、
特に違法性の強い行為に対する処罰といえます
(最高裁昭和45年9月11日判決など)。
例えば、最高裁平成6年9月13日判決では、
無申告事案において帳簿書類に売上が正確に記載されている
場合であっても、売上が仮名・借名口座に入金・管理
されている場合には、その行為が国税による所得の把握を
困難にさせていることから、偽りその他不正の行為に
該当すると判示しています。
このように、偽りその他不正の行為であるか否かは、
その免れ方が反社会的・反道徳的・反倫理的であるかが
重要な判断基準になっています。
税務調査において、調査官は往々にして
売上の計上漏れ・私的経費の混在などを根拠として
7年遡及を主張してくるケースがありますが、
7年遡及の要件となる脱税=偽りその他不正の行為は、
かなり悪質な秘匿工作行為などがない限り、
認定されるものではないと考えるべきなのです。
なお、上記のように学術的に偽りその他不正の行為を
解説しても現実的な適用基準・判断には繋がりにくいので、
偽りその他不正の行為で7年遡及を争った
下記の公開裁決事例(12件)も参考にしてください。
https://www.kfs.go.jp/service/MP/01/0701010000.html
一方で、偽りその他不正の行為の行為があり税務調査が
7年遡及となったからといって、脱税(逋脱犯)として
刑事罰として告発になるかといえば、そうでもありません。
確かに、税務上脱税の定義は同じとなりますが、
刑事罰はかなり悪質かつ多額でなければ適用されないのが
現実となっていますので、偽りその他不正の行為が
あった事案のごく一部だけが刑事罰対象となります
(このあたりは、国税の裁量幅が大きいといえます)。
来週金曜の本メルマガでは、税務調査の対象期間が
延伸される要件について解説します。
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