税務調査への非協力と推計課税の是非
今回は「税務調査への非協力と推計課税の是非」ですが、
広島高裁(平成5年12月22日、納税者勝訴、確定)の事案です。
ちなみに、松江地裁の段階では棄却され、納税者敗訴となっています。
なお、TAINSコードは「Z199-7255」です。
まずは、この事例の前提条件です。
○ 旅館や料亭への魚介類販売業の個人事業主A(白色申告)
→ 下ごしらえや焼き魚にして配達(一般顧客への店頭販売は無し)
○ Aがほとんど1人で従事していたため、7時~15時までは多忙
→ 従業員が代替できない状況だった
○ 帳簿書類などはダンボールにて保存
○ 調査官が税務調査のために訪問したが、Aは不在(無予告と思われる)
→ その後、4度訪問し、面談できたのは2度だけ(午後4時頃)
○ 第1回の面談時にAは「税務調査の合理的理由がない」と反論
○ 調査官は半日、1日などのまとまった時間を取っての立ち合いを要請
○ Aは営業状況を説明し、午後4時以降なら立ち合い可能の旨を伝えた
○ 第2回の面談時にも同様の主張の繰り返された
○ 調査官は2回の面談を通じ、帳簿書類の提示を求めず、Aの要望に
沿う日程調整もしなかった
○ 調査官は反面調査を実施したが、売上や経費を実額で把握できず、
推計により総所得金額及び所得税額を計算(更正)
この状況の中、松江地裁では納税者敗訴となったのですが、
広島高裁では下記と判示し、納税者勝訴の逆転判決となりました。
○ 推計課税が許されるのは下記のような事情があり、実所得の把握が
不可能な場合や著しく困難な場合(推計の必要性がある場合)に
限られる
・ 納税義務者が収支を明らかにする帳簿書類を備え付けていない
・ 帳簿書類の記載内容が不正確で信頼できない
・ 税務調査に非協力的で、帳簿書類を検査できない
○ このような場合でないのに、推計による更正は違法な課税処分である
○ 税務調査の時間や態様等については、納税義務者の私的利益との衡量
において、社会通念上相当の範囲を逸脱する場合には、納税義務者が
異議を述べたり、税務調査の時間や態様について変更を申し入れたり
したからといって、直ちに税務調査に対する協力拒否と速断すること
は許されない
○ 本件の場合は当初から半日、または、1日の継続的なAの立ち合いが
必要だったとは認められない
○ 営業活動終了後の午後4時以降なら立ち会える旨の申し入れには
相当の理由がある
○ 調査官が帳簿書類等の提示を受けられず、具体的な質問をしなかった
のは、調査官の質問検査権の行使が不適切であったから
○ 帳簿書類を見れば、実学での把握が可能で、帳簿書類を検査した結果、
Aに必要事項の質問をするべきであった
○ 推計の必要があったとは認められない
いかがでしょうか?
合理的な日程調整をすることは税務調査に対する非協力に該当するはずも
なく、納税者の当然の権利と言えます。
ちなみに、無予告での臨場した資料調査課の調査をリスケし、
2か月先延ばしにした経験も私にはあります。
この事案は初日は無予告で調査され、その調査最中に当社の電話が鳴り、
その段階で委任状を出し、顧問税理士が変わったものです。
私は委任状の提出確認後、夕方に主査と電話で話し、明日の立ち合いは
予定がありできないので、日程の再調整を伝えました。
そして、後日に面談し、近い日程を「強引に」ねじ込んできましたが、
私は拒否し、2か月先になったのです。
裏事情を話すと、地方の会社であり、私の妻の出産予定日が近かったので、
「地方に行っている間に産まれそうになったらどうするんだ!」
と言い、予定日よりも先にした結果、こうなったのです。
どの部署の調査であるにせよ、任意調査である以上は、
合理的な日程調整は可能であるにも関わらず、調査官からの依頼を
無理して受けているケースもあります。
しかし、合理的な範囲であれば、日程調整は可能ですし、
そう要望したからといって、調査への非協力にはならないのです。
繰り返しになりますが、この事例は地裁までは負け、
高裁まで行ったからこそ、勝った事案です。
そういう意味では貴重なものなので、覚えておいて頂ければと思います。
(見田村 元宣)
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2013年6月の当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。