税務調査官の誤指導と正当な理由
※2015年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
おはようございます。税理士の見田村元宣です。
さて、今回は「税務調査官の誤指導と正当な理由」ですが、
平成元年8月28日の裁決を取り上げます。
さて、税務調査官の誤指導はいつの時代もあり得る話であり、
これがあった場合、納税者は当然にその処理を継続します。
しかし、これが次回の税務調査で否認指摘される場合もあります。
この場合は過少申告加算税、無申告加算税の対象になってしまうのでしょうか?
税務調査官の誤指導は「正当な理由」には該当しないのでしょうか?
まず、該当する条文を確認します。
○国税通則法第65条第4項(過少申告加算税)
第一項又は第二項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となつた事実
のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)
の計算の基礎とされていなかつたことについて正当な理由があると認められる
ものがある場合には、これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な
理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより
計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する。
○国税通則法第66条第4項(無申告加算税)
前条第四項の規定は、第一項第二号の場合について準用する。
ちなみに、所得税の事務運営指針「申告所得税及び復興特別所得税の
過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて」では下記とされています。
(過少申告の場合における正当な理由があると認められる事実)
1 通則法第65条の規定の適用に当たり、例えば、納税者の責めに帰すべき
事由のない次のような事実は、同条第4項に規定する正当な理由があると
認められる事実として取り扱う。
(4)確定申告の納税相談等において、納税者から十分な資料の提出等が
あったにもかかわらず、税務職員等が納税者に対して誤った指導を行い、
納税者がその指導に従ったことにより過少申告となった場合で、かつ、
納税者がその指導を信じたことについてやむを得ないと認められる事情が
あること。
では、これが所得税にのみ認められている話かというと、そんなことは
ありません。
上記裁決は宗教法人において収益事業か否かの誤指導があった事案で、
次回の税務調査で課された無申告加算税につき、国税不服審判所は
下記と判断しました。
○当審判所が請求人の答述及び原処分関係書類を調査したところ、
次の事実が認められる。
・原処分庁の調査担当職員は、昭和53年8月に請求人に対して行つた
税務調査において、請求人が本件事業から生じる所得は非課税であると
申し立てたことから、その旨を記載した届出書を提出するよう指示したこと。
・請求人は、原処分庁の調査担当職員の指示に基づき、昭和53年8月
17日付で本件事業は法人税法施行令第5条第2項第1号に該当するため
収益事業に含まれないので申告書の提出をしない旨を記載した届出書を
原処分庁に提出し、その後の事業年度について確定申告をしなかつたこと。
・原処分庁は、上記の届出書を受理した後、本件決定をするまで確定申告の
必要がある旨の指導を請求人に対して行つていないこと。
○ところで、無申告加算税の賦課は、納税義務者が法定申告期限内に
確定申告書を提出せず、かつ、確定申告書の提出がなかつたことについて
正当な理由がないと認められるときになし得るものとされているが、ここに
いう「正当な理由」とは、無申告加算税が租税債権確定のために納税義務者
に課せられた税法上の義務の不履行に対する一種の行政上の制裁である
ところから、こうした制裁を課することが不当若しくは酷となるような
事情を指すものと解される。
○これを本件についてみると、請求人は調査担当職員の指示に従つて
本件事業が収益事業に含まれないので申告書の提出をしない旨の届出書を
提出していること及びその後において原処分庁は本件決定をするまで
確定申告書の提出が必要である旨の指導を行つていないことから、
本件各事業年度において請求人が確定申告書の提出をしなかつたことには
やむを得ない事由があつたと認められ、このような事情の下で無申告加算税を
課することは酷であると認められる。
○したがつて、請求人が確定申告書を提出しなかつたことについて正当な
理由があつたものと認め、無申告加算税の賦課決定はその全部を取り消す
のが相当である。
いかがでしょうか?
以前のメルマガで記載した事例に下記のものもあります。
○平成15年2月20日裁決(保険料の損金算入の可否の誤指導)
前回調査担当職員が、本件保険料の損金算入について問題を指摘し、
その適否を検討したにもかかわらず、法令の規定を誤解し、何ら指導を
しなかったことが推認されることから、請求人が本件保険料を是認された
ものとして、その後も当該経理処理を継続したことには、無理からぬ事情が
あり、加算税を課することが酷な場合に該当するとして、過少申告加算税の
全部を取り消した事例
○平成10年5月25裁決(簡易課税の事業区分の誤指導)
前年の消費税の確定申告時に、原処分庁が請求人は簡易課税制度上
卸売事業者に該当する旨指導したものと推認されることから、
請求人が自己の事業区分は第一種事業であると誤認して申告をしても
無理からぬところがあったと認められ、このことは国税通則法第65条
第4項に規定する「正当な理由」に該当するとされた事例
誤指導があった場合、本税は仕方ないとしても、加算税まで課されるのは
おかしな話です。
もし、同様の事案があった場合は事前に「加算税の対象ではない旨」を
確認しておく必要があるのです。
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