税務調査開始後の修正申告はいつの段階で加算税が課されるのか?(後半)
※2023年6月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
先週水曜のメルマガから引続き、税務調査開始後に
(調査官の否認指摘の前に)自ら漏れ・誤りに気付き、
修正申告を提出した場合の加算税について解説していきます。
先週のメルマガでは、調査開始後の修正申告については、
5%:調査の事前通知(調査通知)後~
更正の予知前の修正申告(=重加算税なし)
10%:更正の予知後の修正申告(=重加算税あり)
の加算税率となり、納税者が「更正の予知」をしていたかが
その分岐点になることを解説しました。更正の予知とは、
「このままいけば税務署に(増額)更正されるであろうことが
納税者自身が予測できる状況」を指しています。
誰しもが納得せざるを得ない状況として、
調査官に根拠・理由を含めて否認指摘を受けた
⇒ 漏れ・誤りを認めて修正申告を提出した
⇒ 加算税10%(仮装隠ぺいの場合は35%)
となるわけですが、一方で調査官から質問や
追加の資料提出要請等を受けている段階で、
自ら修正申告を提出した場合はどうなるのでしょうか。
先日あった税務調査に関する質問を挙げましょう
(事実関係についてはかなり簡略化しています)。
【実例】
・帳簿や原資資料等に不備が多く
調査官から「反面調査に行くかもしれない」と告げられる
・取引先に対して反面調査の文書が届き、
取引先からその旨の連絡があった(税務署へは未回答)
・申告漏れがあるが、この段階で修正申告を提出した場合、
加算税はどうなるのか?(重加算税を含む)
この調査事案に関して、加算税がどうなるかはかなり微妙
なのですが、実務上は取引先が回答する前に
申告漏れ部分に関して修正申告を提出し、後になって
調査官が「更正の予知があった」=加算税10%
(特に重加算税35%)と指摘してきた際に、
「更正の予知はなかった」と反論するしかないでしょう。
税務調査に着手されていることは明らかですが、
調査官も反面調査の結果、申告漏れがある/ない、
もしくは申告漏れ額がいくらなのかを把握していない段階で
提出された修正申告となるわけですから、調査官側も
加算税10%(または重加算税35%)とは
断言できない(更正の予知の事実認定が曖昧)でしょう。
「更正の予知」がいつなのかについては、裁決・判決等を含め
3つの学説が混在しています。
(1)調査着手説:調査が始まった後に提出された修正申告には
10%の加算税を課すとする考え方
(事務運営指針の規定ぶりはこの考え方に近いでしょう)
(2)端緒把握説:単に調査が開始された、ということではなく、
調査官が調査の中で、何らかの非違の端緒となるもの、もしくは
申告が不適正であることを発見するに足りるか、または
端緒に当るような資料を発見する段階以前に提出された
修正申告に加算税を課さない(5%の加算税・重加算税なし)
(3)具体額発見説:調査官が具体的にその非違事項を指摘した
段階までに提出された修正申告には加算税を課さない
(5%の加算税・重加算税なし)
昨今の裁決や判決等を検討すると、更正の予知の時期は
おおよそ(2)を採用しつつ(1)も踏まえて解釈していますので、
上記調査事案において、5%の加算税(重加算税はなし)
で終わる可能性も高いと考えます。
最後になりますが、「更正の予知」があったか/なかったか
の立証責任は納税者側にあるとされています
(東京地裁昭和56年7月16日判決等)。
この点、調査開始後に修正申告を提出した場合
(で特に重加算税の事案)については、論理構成を
整えたうえで主張する必要がありますので「更正の予知」
については掘り下げて理解する必要があります。
ぜひ、前回と今回のメルマガを併せて参考にしてください。
※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。
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