税理士に節税提案義務はあるのか?
※2015年1月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「税理士に節税提案義務はあるのか?」ですが、
東京地裁(平成9年10月24日)その他複数の事例を取り上げます。
税理士の仕事が「作業」に終始しており、「提案」にまで至っていないことは
よくありますが、税理士業務に関する「節税の提案」は裁判ではどのように
考えられているのでしょうか?
○東京地裁(平成9年10月24日)
この事案を担当した税理士は、2種類の不動産取引につき、別々の年分として
申告したが、一括して同じ年分として申告していれば、居住用不動産を譲渡
した場合の長期譲渡所得の課税の特例による軽減措置が受けられたとして、
3,000万円以上の損害賠償を提訴された事案です(税理士敗訴で確定)。
この事案につき、東京地裁は下記と判断しています。
・税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、
申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する
法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命としている(税
理士法1条)。
・したがつて、税理士は、税務の専門家として、納税義務者から税理士業務を
依頼された場合には、税理士業務を特定の方法で遂行することを指定された
とき、特定の税理士業務のみを独立に指定して依頼されたとき、又は納税
義務者にとつてより有利な途を選択することに何らかの困難、弊害が伴う
ときなど、特別の事情があるときでない限り、租税関係法令に適合した
範囲内で依頼者にとつてより有利な税理士業務の方法を選択すべき義務が
あるというべきである。
・本件全証拠によつても、本件において右の特別の事情のあることは窺われず、
かえつて、両取引を一括して修正申告することは容易であつたということが
できるから、被告は、依頼者である原告の利益を図り、課税上より有利な
両取引の一括修正申告手続を選択すべき義務があつたというべきである。
・したがつて、被告が本件取引(1)及び(2)について、同一年度での申告
をしないで、両取引を別の年度で申告した点に過失が認められるから、被告
は、その結果原告が被つた損害を賠償する義務がある。
以下、同様に税理士の節税提案義務を認めた判決をご紹介します。
○東京高裁(平成7年6月19日)
・税理士は税務の専門家であるから、税務に関する法令、実務の専門知識を
駆使して、依頼者の要望に適切に応ずべき義務がある。
・すなわち、相続税の修正申告手続を受任した場合には、善良な管理者として
依頼者の利益に配慮する義務があることはもちろんであり(民法644条)、
税理士法上の義務として、法令に適合した適切な申告をすべきことは当然で
あるが、法令の許容する範囲内で依頼者の利益を図る義務があるというべき
である。
○東京地裁(平成9年9月2日)
・税理士は、依頼先の会社について消費税法37条1項に規定された簡易課税
制度の適用を受けるべく簡易課税選択届出書を提出すべきかどうかを判断
する場合には、税務の専門家として、税務に関する法令及び実務の専門知識
を駆使し、かつ、依頼者からの事情聴取、適正な調査等を行うなどして、
右判断に必要な程度まで事実関係を把握し、法令の許容する範囲内で依頼者
の利益を図る義務があるというべきである。
○東京地裁(平成10年9月18日)
・被告は、右認定のとおり、原告らの側から、右借入金債務の存在を認識
すべき明瞭な資料の提出を受けていたものであり、しかも、相続人間に
遺産分割に関する争いがなく、被告の助言を受け入れうる態勢にあること
を承知しており、また、原告らが当面の相続税の額をできる限り少なくして
もらいたいたいとの希望を持っていることも承知していたのであるから、
対価を得て税務事務を行う被告としては、原告らが遺産分割協議をする際の
資料ないし選択肢の一つとして、右借入金債務の存在を念頭に置いて、その
場合に原告かづ子の配偶者控除をできる限り多く使えるような遺産分割協議
の方法はどうであるかについて、遺産分割協議書案の提示又はそれに代わる
助言をすべき職務上の義務があったといえる。
いかがでしょうか。
これらより以前の判決(岐阜地裁、昭和61年11月28日)では「税理士は
税理士法に照らしても、本来依頼者の会計帳簿に基づいて所轄の税務署に対す
る税務申告を代行するについて受任関係に立つことをもつて足り、またそれを
超えることは許容されるものでなく、そうとすると税理士は依頼者の租税に
関してあらゆる有利を計らなければならない準委任上の義務を負うものでなく、
依頼された個別的な申告手続代行についてのみ善良な管理者としての注意義務
を負うに過ぎないものと言うべきである。(中略)税理士の性格上こうした
ことは単なるサービスであつて義務の問題ではなく、更にこれを義務づけるに
足る包括的な税法に関する顧間契約が原告と被告渡辺の間に存したことを
認めさせる証拠はない。」と判示されていますが、最近の傾向としては、
税理士の節税提案義務を認める傾向にあります。
ちなみに、岐阜地裁の判決に関する参考情報ですが、弊社顧問契約書のひな型
を新規顧問先に提示した際、先方の顧問弁護士のリーガルチェックを受け、
「下記条項を追加してください」と要請されたことがあります。
もし、下記条項が入った顧問契約書が上記の岐阜地裁の事案で存在していた
ならば、判決も変わっていた(税理士敗訴になっていた)可能性があります。
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第2条(誠実業務)
乙は、甲の顧問として、甲の最善の利益を図るべく顧問業務を誠実に遂行する
ものとする。
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税理士は損害賠償額が計算できるだけに、慎重に事を進めなければならない
要素があります。
使用者責任もありますから、職員のレベルアップも含め、「善管注意義務」
という範囲での「節税提案」を考えていかなければならないのです。
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