空室期間と貸家建付地評価
※2014年9月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「空室期間と貸家建付地評価」ですが、
平成21年10月13日の裁決を取り上げます。
賃貸マンションなどの賃貸物件を相続や贈与により取得した場合、その敷地は
原則として、貸家建付地評価となりますが、一時的でない空室があった場合、
これに対応する敷地は貸家建付地評価の対象になりません。
しかし、この「一時的」かどうかについては、明確な基準がないことも確かで、
過去にも複数の争いがあることも事実です。
では、今回の裁決にいきましょう。
まず、認定事実のうち、本件不動産管理業者の担当者の答述を記載します。
○ 空室になった場合には、本件建物1及び本件建物2へのたて看板と毎月
1日に発行されている不動産情報誌「■■■■■■■」への掲載により
入居者の募集を行っている。
○ 平成19年中における本件建物1及び本件建物2の入居状況は、本件建物
2の1室が同年4月から同年12月末までの約9か月間(平成19年10
月4日までは約6か月間)空室となっていた。
○ 本件建物2の空室についても通常どおり入居者の募集を行っており、
9か月間空室となった特別の理由はないが、一般的に転勤や新入学等の
時期からずれると、後続の入居者はなかなか決まらず、長期に空室となる
場合がある。
○ 本件建物1及び本件建物2の各室は、賃貸用として管理する委託を受けて
おり、空室となった場合でも賃貸用以外の用途に使用することはない。
○ 本件土地建物の周辺には、アパート等の賃貸住宅が林立していることが
認められる。
人口減少、世帯数減少の傾向にある地域も多いですが、一方、賃貸物件は
一定数が林立している地域も多いのではないかと思います。
では、これを踏まえて、審判所の判断にいきましょう。
○ 本件建物2の1室が課税時期において一時的に空室であったか否かに
ついては、本件建物2の課税時期(贈与時)前後における空室期間のみを
捉えて、判断することは相当でなく、いかなる状況下においてかかる空室
期間が生じていたか等の諸事情をも総合勘案して判断すべき。
○ 本件建物2の課税時期(贈与時)前後における空室期間は、約9か月間で
はあるが、各認定事実によれば、本件建物1及び本件建物2の管理につい
ては、昭和63年から継続して本件不動産管理業者に委託し、空室になっ
た場合の入居者募集等を含めた不動産賃貸に関するほとんどの業務を行わ
せ、各独立部分が継続的に賃貸に供されていたことが認められる。
○ 本件建物1及び本件建物2の周辺にはアパート等の賃貸住宅が林立してい
ること及び上記の本件不動産管理業者の担当者の答述からすると、空室が
発生したからといって速やかに新たな賃借人が決定するような状況では
なかったことが認められる。
○ 以上のことを総合して判断すると、本件建物2の空室は課税時期において
一時的に空室となっていたにすぎないものであると認められ、したがって、
賃貸割合は100%ではないとして本件土地及び本件建物2の評価額を
基にした本件更正処分は相当とは認められない。
いかがでしょうか?
結果だけを読めば、当然の裁決のように感じられますが、たかだか9か月の
空室期間であるにも関わらず、更正された事案であることも事実です。
以前、書いたブログで、約2年半(申告日から推定)の空室期間が
あるにも関わらず、納税者の主張が全面的に認められた裁決を解説しました。
私見ではありますが、この裁決があるので、空室期間3年程度であれば、
十分に戦える余地があるのではないかと考えています。
空室期間と貸家建付地評価の関係については、平成11年7月29日付資産
評価企画官情報第2号「財産評価基本通達の一部改正のあらましについて
(情報)」があるだけです。
そして、ここには下記とありますが、これは「例示」に過ぎません。
○ 各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものであること
○ 賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われ空室の期間中他の
用途に供されていないこと
○ 賃貸されていない期間が課税時期の前後の例えば1か月程度であるなど
一時的な期間であること、
○ 課税時期後の賃貸が一時的なものではないこと
明確な基準がないだけに判断に迷うことも多いかと思いますが、是非、
この裁決の考え方を覚えておいて頂ければと思います。
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