立証責任と説明義務の違い
※2014年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
前日のブログでは、税務調査における立証責任は、
原則として税務署側にある、と書きました。
※前日のブログでは、立証責任が納税者側に
ある(転換される)ケースを説明します。
ここで、「立証責任は税務署にあるのだから、
納税者としては自分が有利なように適当に答えておけばいい」
と勘違いしている税理士も多いように思います。
税務調査において、立証責任は税務署にある一方で、
納税者にはどのような責任・義務があるのでしょうか。
さて、質問です。顧問先にこのように聞かれたら、
どのように答えますか?(根拠も合わせて)
「税務調査は断れますか?」
この問いに対して、正確な回答ができる税理士は
非常に少ないように思います。
単純に考えると、「税務調査は任意である」以上は、
断れると考えてしまうのか、もしくは、断れるのであれば
誰も税務調査を受けない、と考えるのか。
税務調査は「任意」ではありますが、これは
受けても受けなくてもいい、という意味ではありません。
※この論点は、3月14日にアップした本ブログ、
「任意か強制か?」で詳しく書いています
国税通則法第74条の2以降において、
税務署に質問検査権を定める一方で、第127条において、
納税者には受忍義務を定めています。
国税通則法第127条
次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役
又は五万円以下の罰金に処する。
二 第七十四条の二、第七十四条の三(第二項を除く。)、
第七十四条の四(第三項を除く。)、第七十四条の五
(第一号二、第二号二、第三号二及び第四号二を除く。)
若しくは第七十四条の六(当該職員の質問検査権)の規定による
当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、
又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは
封かんの実施を拒み、妨げ、若しくは忌避した者
三 第七十四条の二から第七十四条の六までの規定による
物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなく
これに応じず、又は偽りの記載しくは記録をした帳簿書類
その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出した者
以上の規定により、税務調査において納税者は、
黙秘することもできませんし、嘘を言うこともできません。
これが、受忍義務なのです。
ということは、税務調査は断ることができないのはもちろん、
調査官の質問に対して、知っている・記憶がある範囲内で
「説明(回答)義務」があるというわけです。
もちろん、本当に「知らない」「覚えていない」「無い」
ということであれば、これが真実の回答ですから、
この時点で説明義務を果たしているということになります。
私が先週のブログ等で、立証責任を強調するのは、
納税者が説明義務を果たしているにもかかわらず、
「きちんと説明できないなら課税します」と
言ってくる調査官は、間違っているからなのです。
例えば、このようなケースです。
社長(夫)の妻である取締役に対して、毎月30万円の
役員報酬を支払っています。税務調査において調査官が、
妻の勤務実態を執拗に質問してきました。
(本当に勤務実態があるものとします)
タイムカードはありませんが、職務内容(経理処理や雑用等)を
説明しても調査官はまったく納得せず、こう言いました。
「奥さんの勤務実態を証明できないのであれば、
過大役員報酬で否認せざるを得ませんね」
これは、納税者がきちんと説明をしているにもかかわらず、
調査官がそれに納得をしていない、という理由だけで
課税をされるようなケースです。
これは、納税者として説明義務を果たしている以上、
「では、あなた(調査官)が勤務実態がない、
もしくは勤務内容と役員報酬が見合わない(過大である)
ことを立証すべきです」と反論すべきということなのです。
立証責任と説明義務を混同しないよう、
調査の立会いには十分気を付けてください。
※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。